第16話 秤の揺らぎ

「どうして喋れるんだ?」


「お前が飲んだのは五大禁止薬ファイブフェルの中の一つである死薬デスフェルだ。不死身薬アンデッドフェル死薬デスフェルを取り込んだことで二つの効果が相殺されたのだ」


 俺が飲んだのはそんな危険な薬だったのか。我ながら馬鹿にも程がある。


「てことは俺はもう普通の人間なのか?」


「ああそうだ。2日間だけだが」


「キュアノス様、貴重なフェルをこいつは何本か使ったんですよ。何か処罰を与えるべきです」


「確かにそうだなケイル。だが今ではない。人間のうちに死なれては困る」


「死なれてはって、この期間は死ぬって事か?」


「その通りだ。くれぐれも気をつけろ」


 今までは死ななかった。だから自分自身に力がなくてもなんとかなった。この二日間は俺にとっては最重要な決断をすべき時だ。今何かを成して死ぬか、それとも永遠に生きるか。究極の決断というわけだ。


 俺は医務室で少し休んだ後、パテラスに仕事を頼まれた。全治2時間。ほぼ休んでもないが、本当になにもなかったかのようにフェルは相殺されたらしい。


「お前逃げ出したんだって?」


「そうだ。逃げられなかったけどな」


「初めてお前の声聞いたけど、なんか違和感があるな。もっとこうよろよろなのかと思ってたぜ」


「そりゃどうも。俺も久しぶりに自分の声を聞いた」


 相変わらず陽気なやつだ。しかしもうこの城から逃げることはできない。昨日も不死身じゃなかったら俺は死んでた。


「ぼさっとしてないで手伝え」

「これはなんだ?」


 パテラスに連れて行かれたのは地下室で不死身アンデッドの檻だ。中には今にも襲ってきそうな数多の不死身アンデッドがこちらを睨んでいる。


 そして目の前に置かれていたのは樽に入った液体だった。パテラスは木の棒でそれをかき混ぜ、コップで液体をすくった。


「これは不死身薬アンデッドフェルの解消薬の試験品だ。これで1965個目、成功0回だ。今日こそ成功するといいが」


「待て。アンデッドを救おうとしているのか?」


 人を散々殺しておいてなにをしているんだ?死んでもこいつらに痛い目を合わせてやろうとも思える。


「当たり前だろ。こんなかわいそうなやつら、キュアノス様がほっとくわけねえ」


 俺は唖然としていた。意味がわからなかった。こいつらは俺をアンデッドにしたはずだろ?


 パテラスはコップに入った薬をアンデッドの方へと運んでいった。襲われないようにゆっくりと。


「ほら飲めよ」


 檻に囚われた猛獣はなにを思うのだろうか?いや違う、狂人に救われた哀れな人々だ。次第にそんなふうに見えてきた。


「はあ、今回も失敗か」


 なぜ助ける?人を襲うのになぜ助ける?一貫性のない事実を俺は受け入れられなかった。その疑問と怒りは口から溢れてしまったのだ。


「なんで何人も殺しておいてそんなことができるんだ?」


 思わず声が震えてしまった。俺はまだこの軍を信じられていない。何かがあるはずだ。この軍が動いている何かが。


 じゃなきゃそう簡単に軍は作れない。パテラスだってこんなにいい人なんだ。だからサイコパスという言葉だけじゃ済まされない何かがあるんだ。


 パテラスは黙っている。何か言いたそうにしているが、一向に口を開こうとしなかった。


「なんでだよ」


「それは・・・・・・」


 沈黙が流れた。だがその沈黙はすぐに打ち消された。


「なんだ?」


 城に何かが当たった。大きな音と振動が恐怖を煽る。何かが来る!そう思った途端に皆が動き出した。


「聖騎士だ!聖騎士が来たぞ!」


 希望が現れた。今となってはなんだろう。英雄、ヒーロー、希望、そんなまやかしを纏った何かか?


「アンデッド、逃げろ」


 パテラスはどこからか迫り来る恐怖に身を構えていた。俺は地下室からの階段を急いで上がって行った。


 表面的なものではなにも測れない。他人も関わってみないとなにもわからないんだ。


 ならばここで答えを出せるはずがない。今は希望も絶望も何かわからない。その答えを出せるまで俺はまだ!


      ーー死ねない!ーー








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俺の不死身人生(アンデッドライフ)について教えてやろう 瀬島ユウキ @yuukisejima

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