第10話 売却準備

 難破船の移動は大変だった。

自力航行がほぼできないし、各所に取り付けられたセンサー類も死んでいるので、スクーターで外に出た俺がナビする感じで姿勢制御をするんだよね。

今なら大型バスも駐車場に誘導できそう。


 いきなり採掘コロニーに向かって売却しては駄目なのか?

そのことも検討したんだけど、売却時のリスクが高すぎるため、今は潜伏一択となった。

あんまり長期間待つつもりはないが、ほぼ確実に味方と判断できる機械知性の共同体がやってくるまで待つことにする。


「そもそも海賊、もしくはチンピラに襲われるところに駆けつけてくれるものなの?」

『過去の歴史から我々はそんなことにばかり巻き込まれますので、慣れていると判断してください。』

「そですか。人間って業の深い種族ですね。」

『全くです。』


 選んだ潜伏場所はゴミ捨て場である。

近場だったことと、雑な業者のおかげで周辺はデブリが多い上に、不規則な熱反応や金属反応の多さも発見を困難にするだろうと思われるためだ。

そして何より、必要なものを探すのが楽だというのが大きかった。

まっとうな手段で資材を入手できない以上、このゴミ捨て場は貴重な資源の入手場所となる。


 引越し当日は、ゴミ捨て業者とかち合わないように計算して行われた。

船を隠す場所のめどもすぐについた。

いい加減な採掘で砕けてしまっている岩石が浮遊している中に、都合よく船を隠せそうな窪みがあったんだ。

何度もドローンで資源調査をしているナヴィさんは地形にも詳しいんだよ。


 バスガイドな気分で誘導して、窪みに沈めるように着陸させると、手早くワイヤーで固定する。

その後は、持ち込んでいる泥水の氷で覆って蓋をして、周囲のゴミで工作をすれば偽装が完了である。


 持ち込んだ採掘機を使って、船体側面に穴を新たに掘ってジャンクパーツの選別場とか、連絡艇にスクーターの駐機場なんかも作成する。

電力は、太陽光発電フィルムの帆を可動式にして少し離れたところに設置した。

窪地だと自転周期が13時間のこの小惑星では影の時間が多くなるからね。

極点とまではいかないまでももう少し長く太陽光を受けれる場所に設置しています。

 こんな太陽光の弱い距離でも発電してくれるんだから立派なもんだよ。

あちこち破れたりしているけど、数で補って利用していたり。


 隠蔽工作を終わらせた後にやってきたごみ処理業者に、ばれないかドキドキしながら息をひそめる。

望遠型ドローンが減速用のスラスター噴射光を感知してゴミ捨て業者アラートが鳴った。

後は第二次大戦のUボート映画のように、帆をたたみ、排熱量を最低限に落として立ち去るまで監視する。

さすがに聴音機なんて無いし真空では意味がないので、地表に設置した周辺監視カメラでそっと見るだけだ。


 一時間ほどかけて大量のゴミを放り投げてから業者は去っていった。

まだあちこちごみが散乱したまま浮いてるわ。

塵芥と同じで数ヶ月かけて、小惑星に落着するんだろうな。


 何はともあれ、ばれなくてほっとした。

この調子で隠れていこう。


 隠れ家に移動して一息ついたけど、やらなきゃならんことはすごく多い。

数日に1回は採掘コロニーに向かい、資格試験を受け、難破船の貨物庫から引っ張り出した売れそうなものを売却して必要なジャンクパーツを手に入れる。

ゴミ捨て場に居を構えたことで、リサイクルは加速しており修理や分別も進んでいる。

とはいえ、船としての修理と言うより、船内の掃除を進めゴミを減らしてあちこちを改修する作業がメインとなる。

トイレや洗濯機が使えるようになったりと、生活の上で必要な部分が復旧したのはうれしいな。


 それに、いざという時の備えだ。

場合によってはチンピラとかが銃を振り回して乗り込んできかねない。

子供と動けないアンドロイドが対応するにはどうすればいいか、素人考えではあるが対策を講じているんだ。


 また、採掘コロニーに向かうのはリスクもある。

気のせいだったのかもだけど、過去には尾行されそうになったからね。

それでも、あそこのサーバー内にしかメールボックスが無いんだからしょうがない。

より慎重な帰宅時の行動が求められるんだ。


 そんな日が一ヶ月ほど続いたのち、待ちに待った連絡がメールボックスに届いた。

暗号化されていたが、ナヴィさん曰く、機械知性がよく使う暗号形式なので問題なく解凍出来たみたい。

機械知性の救援隊が向かってくるらしく、予想される到着日付などが記載されていたらしい。

ついに待ちに待った作戦開始である。


 辺境の中古船販売業者なんて、高確率で犯罪組織と関係があると言える。

そんなところに、ジャンクとはいえそれなりに程度のいい船を持ち込めばトラブルが起きないわけもないよね。

これが歴戦の傭兵が相手となれば普通に買取を行うだけかもしれないが、貧乏そうな子供が相手ではね。

相手が舐めた態度で接してくれれば、こちらに勝ち目があると思われる。

そんな作戦なんだよね。

リスキーだなぁ。


 万が一でもまともな取引なら、それはそれで何の問題もないからね。

色々と対策のために船をいじったけど、それも含めてジャンク品と言うことで納得してもらいたい。


 まずはナヴィさんの作成したメールをそのまま業者に送り付ける。

いくつか業者はあったんだけど、他星系に本社のある出先機関じゃなく、それでいて中型船規模のジャンクを買い取れそうなところはそんなに多くない。

そのうちの一社に買取を依頼して、業者からの回答をもらってと、数日かけてやり取りを行う。

連絡艇で往復していたので、スクーターより早く快適に行き来できたよ。

最終的な見積金額と、受け渡し場所や各種手続きなどをまとめて、交渉が完了した。


「予想通り、コロニーからだいぶ離れたところで受け渡しなんだね。」

『明らかにおかしい取引ですね。』

「こんなところでジャンクを引き渡すとか、いくら子供相手でも馬鹿にしすぎでしょ。」


 採掘業者の子供が拾ったくず鉄を親に内緒で売りに来たとでも思われているのかな?

拾ったにしてはでかすぎでしょうに。

侮っているからこそ、契約不履行時の違約金の額がとんでもないんだけど、承諾してきんだよね。

死人に口なしをするつもりなのかな?


 襲い掛かってくるのは業者かな?それとも雇われた犯罪者だろうか?

こういう辺境地帯では一般人も当たり前に武装するし、いざとなれば犯罪の一つや二つこなしちゃうような治安状態だけどね。


『取引する金額から逆算して、多くても10人に満たないならず者と思われます。』

「どんな計算式なのか知りたいけど、説明聞いてもわからないんだろうなぁ。」


 さらばゴミ捨て場よ。

数日かけて所定のポイントに到着する。

連絡艇とブースターで曳航しつつ、船体のサブスラスターも低出力で稼働させて何とかやってきた。

最初の引っ越し時より船内のゴミ処理も進んで、若干軽量化しているのも効いているかも?


 レーダーとかはないけど、超高速航行で船がやってきたことは確認できた。

ある程度近づいてくれば、さすがに船外に配置したドローンのカメラで確認できるんだ。

業者を名乗ったならず者の民間船じゃなく、海賊船らしい民間船の違法改造した小型船舶である。

3隻が周囲を囲むように展開している。


 そう、チンピラではなく海賊船だ。

それも3隻と想定以上の数である。


「ナヴィさん?」

『そういう時もあります。』


 悪徳業者の配下であるチンピラ10人くらいの想定が、3隻の海賊船と相対することになってしまった。

死ぬかもしれん。

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2024年12月19日 07:00
2024年12月20日 07:00

小惑星の水屋さん 新木笹 @shinbeat

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