第3話 冴木は女子の匂いつきの服を手に入れた
チュンチュンという鳥の囀りと、窓から差し込む朝日が顔に当たって俺の意識は覚醒した。
「う、んん……? 途中で寝てたのか。……あれ、昨日何してたっけ」
昨日の記憶が曖昧だ。確か、冷蔵庫に食材がなかったから買い出しに行って、そこでずぶ濡れの粟田さんに会ったんだったか。
徐々に思い出してきたはずなのだが、昨日の出来事が本当に現実だったのかと疑った。
都合のいい夢だったのではないかとか、雨が見せた幻覚だったのではないかとか。そう思い始めた。
――グゥーー……。
「そういや昨日、アイスしか食ってねぇ」
思考を巡らそうとすると、腹の虫が鳴き始めてそれを阻止する。
とりあえず腹を満たそうと思って伸びをすると、パサリと何かが床に落ちる音がした。
「ん? 毛布? 自分でかけた覚えはないな……」
それだけではなく、二人分のスプーンやカップ、消え失せたジャージ、机の上にある謎の置き手紙などなど……。
明らかに俺以外の人物がいたという痕跡がそこら中に散らばっていた。
置き手紙には一言、「ありがと。」と書かれている。
「……粟田さんがいたんだよな……? 曖昧すぎてわかんなくなってきたな」
ポリポリと頭を掻いた後、俺は朝ごはんを食べるために冷蔵庫まで向かった。
昨日学校に行く前に作った料理があった気がしたが、冷蔵庫から消えていたため、結局支度をするのであった。
# # #
朝の支度を済ませ、自分の教室にやってきた。
いつも通り、陰キャで友達が少ない俺は誰にも気に留められることなく高校生としての一日が始まるのだ。
そう思いながら教室に入ると、クラスメイトは一瞬だけこちらを見てすぐに会話を再開する。目当てのお友達の登校じゃなくて悪かったなと、心の中で悪態をつきながら自分の席に向かって歩く。
そして、なんとなくクラスの中心源である粟田さんをチラリと横目てみたのだが、おかしなことにこちらに顔を向けて口をパクパクさせていた。
(……なんだ? 粟田さんは鯉のマネが上手いな)
よくわからん粟田さんを無視して自分の席に座ると、机の横のフックに紙袋がかけられているのに気がつく。
中身は昨日粟田さんに貸したジャージで、ほんのり甘い匂いがそこから漂ってきていた。
確か今日は一限目から体育だったし助かった。
その後、チャイムの後に先生がやってきて、朝のホームルームとかいう右耳から左耳に通り抜ける話をされる。
ホームルームも終わり、体育を始めるために女子が教室から出てゆき、男子たちのに替えが始まった。
「響〜! 今日も一緒にペア組もうぜ〜!」
俺の名前を呼んできた一人のクラスメイト。
朝っぱらから元気が爆発しているこの茶髪の男子は、俺の数少ない友人である
「いいぞ。ってか、俺にはお前がいなきゃ先生と組むことになるから助かる」
「お前は相変わらず友達少ないなぁ〜」
「うるさいぞ陽の者」
亮太は直ぐ側の席で着替え始め、俺も次いで体操服に着替え、紙袋からジャージを取り出してそれを着たのだが……。
(よ、よくわからんがめっちゃいい匂いがする……! これは男子高校生にとって猛毒だろ……)
まだ体育の授業の準備体操が始まっていないというのに、体が熱くなって顔も赤くなっているような感覚がする。
悶々とした気持ちをバレないように抑えていたのだが、亮太が近づいてきて眉をひそめた。
「スンスン……。なんかお前、めっちゃいい匂いしねぇか?」
「は、はぁっ!? そんなことないんだが!?」
「洗剤変えたか!」
「そ、そうだよ。なんとなく気分でな。……つーか匂いを嗅ぐな。俺らのイチャイチャに需要はないんだよ」
「ちょっと気になっただけだっつーの!!」
危機は何とか去ったようだ。基本的に亮太は俺よりバカで助かるが、時折魅せる野生の勘的なものが脅威である。
もしコイツにバレた暁には、亮太の人脈から一気に学校中に……いや、他校まで広がりかねないから恐ろしい。
(まぁ、粟田さんとの関係は昨日でおしまいだろうし、もう気にしなくても大丈夫だろう)
俺は楽観的に考え、体育の授業に専念をした。
# # #
「はぁ……はぁ……。粟田さん、もう諦めたらどうだ……!」
「ふ、ふふ……冴木もさ、無理せずもう落ちちゃえ♡」
放課後、俺の部屋で息を荒くする俺と粟田さん。
薄暗い部屋の中、汗が肌を伝い、互いの体温が分かるくらいに密接しながら俺たちは激しい戦闘をしていた。
「「さっさと負けろォオオオ!!!!」」
刹那、ガチャガチャとなるコントローラの連打音が室内に響き渡る。
そう、俺たちはゲームをしていた。テレビの画面の中では、互いが動かすキャラクターが殴り合っており、今にも死にそうな顔をしていた。
そして、ソファーで肩を合わせながらコントローラを連打している俺たちも、体力的に今にも死にそうな顔をしている。
「ねぇ冴木! しぶといんだけど!!」
「ククク……俺は何度でも蘇るのさ!」
「いい加減死ねっ!」
「死ねはよくないぞ」
「あっ、ごめん。確かに死ねは駄目だよね……」
「うんうん。良くない良くない」
「「……死ねっ!!」」
そして、
「やった〜! 私の勝ち〜〜!!」
「くそっ……物理的攻撃はルール違反だろ」
「勝てば良いんだも〜〜ん。そんじゃ、私が先にシャワー浴びるね♪」
実力は互角だったのだが、粟田さんから思い切りボディープレスをされて動揺してしまい、結果敗北してしまった。
この勝負は俺と粟田さん、どちらが先にシャワーを浴びるかという勝負だ。勝利の美酒ならぬ勝利のシャワーを浴びるため、彼女は着替えとタオルを持って洗面所へと入っていった。
……なぜ粟田さんが再び俺の部屋に来ているのかというと、今日の授業後まで時間を遡ることとなる……。
次の更新予定
クラスで一番人気の粟田さんは、放課後うちにシャワーを浴びに来る 海夏世もみじ @Fut1
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