それは余白にも似た午後の日(日常やら恋やら20首)

天気予報 きみを思えば何にしろ願掛けあるいは祈りの時


低空飛行から浮上するごとく探した会話(しかし墜落)


八光年遠いしし座がきみといた頃のひかり今さら届ける

(*1)


「光あれ」と笑って新居の明かりをつけるきみとやっていけそう


生存と呼吸のための夜だった 一人のまくらはやけに広くて


前方の席、安らかにきみの背中が上下する午後の数学


グラウンドは試験期間の沈黙 それは余白にも似た午後の日


柔らかな木綿のような祖母の声 今もそよいでわたしを包む


ぼくが壊したと認められないまましまいこんだおもちゃの沈黙


消えかけのきみの面影今も追う 気配は音に記憶は匂いに


仕事中資料の中につい探す先輩の書くやわらかな文字


不意に耳打ちされたときからきみの低い小声がずっときらめく


フライパン、コップひとつにまず牛乳 手探りの生活はかわいい


3kgの米を赤子のように抱く重たい方が優しくなるよ


週末が期限の牛乳こいつより僕は長生きするはずなのか


いい人といい男は別だね あなたはチョコケーキのように笑う


夜なのに影ができるね街灯は私以外を明るく見せる


誰にでも途方に暮れる帰り道くらいあるよ でも、電話ありがと


将来懐かしくなるはずの鍋を今は2人でゆっくりつつく


終電をひとつ手前で降りてみる 私的な夜に踏み入る心地で




(*1)正確にはしし座の恒星ウォルフ359が7.9光年先。

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TANKA 芳岡 海 @miyamakanan

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