僕の最後の三日間

ハナビシトモエ

行きたくない

 僕の最後の大会、吹奏楽コンクール地区大会高校Aの部。ここを突破すれば悲願である初の県大会へ駒を進めることが出来る。三日後の朝、僕達はホールの前で最終のミーティングをする。


 ところが輪を乱すやつがいる。みんなが一生懸命に練習しているのに大して上手くないドラムで8ビートを奏でる。全員の関心も楽器からドラムに移っている。ダメだ、ダメだ。そんな時間は無いだろう。みんなで勝ち取る金賞も銀になったらあとで「ドラムなんて見ずに練習すれば良かった」と、後悔するに違いない。


 僕は心を鬼にして、練習していない奴らに「お前ら、最後の大会あと三日しかないんだぞ。ちゃんと練習をしようぜ」と。


 何人かがこっちを見て各々の楽器へと向かった。分かってくれてありがたい。やはりみんなもやる気になってくれる。



 ま、僕はもう練習するところが無いもんね。みんなは大変だな。



 コンクール二日前。

 なぜかこの高校は自主練習が多い。納得いかない。ここは幹部で先生に「僕達の指導をしてください」というべきだ。僕は生徒達のミーティングでそう進言した。驚くような目でみんな僕を見た。そして幹部が集まり、何らかの相談をし、先生に進言したそうだ。


 顧問は音楽室に入るやいなや「自主性を持たないと」と愚痴をはいた。信じられない、あと二日だぞ。考えろよ。



 ま、僕は幹部じゃないから交渉とか知らないけどね。



 コンクール前日。

 作ったミサンガを手首に巻いた。人数の把握ミスでミサンガが一つ足りなかった。ここは同じ楽器で一年後輩の松下に渡らないようにしよう。

 僕はコイツが嫌いだ。日ごろから無駄な練習をするくせに部員とは仲が良く、性格もいいらしい。そんな後輩はまるで仮面をかぶっているようなわざとらしさに僕は他の部員に騙されるなと言いたい気持ちがあふれてくる。


 松下を外そうとしたら、他の部員が「松下君がつけないなら私はいらんわ」と言いだした。松下は困ったと見せかけた顔で「そんなのいいですよぉ」と言った。外されるミサンガ、つけているのは僕だけ、みんなは笑顔で8ビートを刻んで楽しそうだ。



 何を腑抜けている。コンクールは明日だぞ。



 そう言ってやると幹部の長谷川がやってきて「前日くらいリラックスしようぜ」と肩に手を載せた。


「だからお前らは地区大会で落ちるんだ。そんな遊びしてないで、やれることあるだろう」


 ちゃんとカツを入れてやった。ここで三年生の僕が他のやる気のある奴らが言いにくいことをズバリと指摘してやった。けしてドラムの西川が気に入らないわけではない。僕はちゃんとを言ったのだ。


 みんなは確かになと言って、片づけをしてカバンを持った。


「高橋先輩、あとお願いします」


 そう言って、同期と後輩は帰って行った。一階から楽しそうな声がする。


 僕は音楽室に残ったミサンガを一つ残らず集めて捨てた。ゴミを作る暇があったら、課題を見出すことの出来ない譜面を見た方がマシだった。




 快眠だった。集合時間は八時。時計は八時半。学校まで三十分。





「行きたくない」

 僕は母に願った。

「行け」

 そう冷たく言い放った母に僕はお弁当を持たされた。


 結果は吹奏楽部始まって以来初の銅賞だった。

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僕の最後の三日間 ハナビシトモエ @sikasann

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