2 とっても楽しい合コンだったのに。
類は友を呼ぶ。
愛美の友だちは、愛美に似て派手で元気な美人だった。
その友人も派手系の美女で、なんだかわたしだけ白鳥の群れに投げ込まれたアヒルみたいな気分になる。
「はじめまして、私、浅野真希。よろしくぅ、うっわー、愛美の友だちってすっごい可愛いじゃん。清楚! 大和撫子! 黒髪もつやっつやだし、黒目がちな目がくるってしてウサギみたい~!」
アヒルじゃなくてウサギらしい。
地味だということを上手くフォローしてくれる。さすが愛美の友人。気遣い上手だ。
「私は藤川亜紀。今日の合コン、清楚系な彩香ちゃんにもってかれちゃうかな~」
いえいえそんなことはないですから!
亜紀ちゃんも元気で良い人だ。
にぎやかで楽しい飲み会になりそう。
お酒はそんなに飲めないけど、これなら女子同士でしゃべっていても楽しそうだ。
お洒落な和風創作料理のお店にはすでに男性陣が来ていて、わたしたちが個室に入ると一斉に向いた視線にどきりとする。
「おおっ、みんな可愛い子ばっかりで緊張するなぁ」
と明るく言ったのは今日の合コンの男性陣側の代表、吉野さん。
吉野さんはやや長めの茶髪で、細い銀縁メガネのよく似合うインテリ系なイケメンだ。
「あれ? 一人足りないじゃないですか」
真希ちゃんが言うと、吉野さんが顔をしかめる。
「ああ、一人後輩で研修中のヤツがいてね。ちょっと仕事残っちゃって、終わらせてから来るから気にしないで先に始めよう」
そんなこんなで最初はお決まりのジョッキでカンパーイ、と始まった。
「よろしくお願いしまーす」
「まずは自己紹介からね~」
オーダーしながら、それぞれに自己紹介をしていく。
男性陣も30歳の吉野さんを筆頭に、29歳の若松さん、28歳の黒田さん、とみんな同年代だ。
わたしと愛美は生命保険会社、真希ちゃんと亜紀ちゃんは大手食品会社に勤めている。真希ちゃんと吉野さんは、大学のサークルが同じだったのだそうだ。
吉野さんたちは同じ大学の先輩後輩で、今はそれぞれに違う病院に勤めているということだった。
「あ、でも遅れてくる奴は大学も一緒だけど職場も一緒の後輩ね。27歳、君らと同年だな」
と吉野さん。
「まあオレだけ三十路ってことで、みんなオレを敬いなさい」
吉野さんの軽いノリが場を盛り上げる。合コンなんてすごく久しぶりだけど、なんだかとっても楽しい。
正直ちょっと不安だったけど……来てよかった!
「村上さーん、お酒進んでないよ~、しゃべりが足りないんじゃない? オジサンともっとしゃべろうよ~」
なんておどけている吉野さんにみんなドッとウケている。
だけど吉野さんは、さりげなくみんなのお皿や飲み物を見てオーダーをしたり、あまり会話に参加していないわたしにこうして気を使ってくれたりする。
大人でスマートな人だな、と思う。
「ちょっと吉野さん、村上さん困ってるじゃないっすか」
わたしの隣でそう言ったのは、黒髪短髪で色浅黒い爽やかスポーツマン系イケメンの黒田さん。
「村上さんは自分から話すより、誰かの話を聞く方がきっとラクなんだよね? 無理しなくて大丈夫だよ」
「おまえは自分のサーフィンの話をしたいだけだろうが。このオレ様男め」
「いいじゃないっすか。いつ何があってもいいように自分のことは誰かにたくさん話しとかないと」
大げさなんだよーとツッコむ吉野さんと黒田さんは笑っている。わたしも一緒に笑うけど、頭の中ではその言葉がリフレインする。
――いつ何があってもいいように、自分のことは誰かにたくさん話しとかないと。
あのとき、もっと自分の気持ちを速水に話せばよかったと後悔した痛みを思い出す。
夏祭りの後、ほとんど話さなくなって、クリスマス事件があって、本当に速水と顔も合わせないようにするようになって。
こんなはずじゃなかったのに。もっと話をすればよかったのに。
そうすれば、こんな切ない気持ちで卒業することなかった。
高校を卒業するときにそう思って、速水と話すことを避けていたもう取り戻せない日々を思って、わたしは卒業式で泣いた。
「――さん、村上さん?」
のぞきこまれて、ハッとする。
「はいっ、あのっ、すみません、ボーっとしちゃって」
「大丈夫? 気分悪い?」
いつの間にか隣に座っていた若松さんが心配そうに聞いてくれる。
「い、いえっ、そんなことはないです!」
「そう? 吉野さんに飲まされたんじゃない?」
「そんなことないです!」
「そう? ならよかったけど」
柔らかい微笑みが自然にカッコイイ王子系イケメンの若松さんは、色素の薄い髪を長い指でかき上げる。そんな仕草に思わずどきり、としてしまうほど、若松さんは綺麗な人だ。
「でも、本当のところ吉野さんに飲まされたんなら、苦情はアイツにどうぞ。アイツ、職場も吉野さんと同じ腐れ縁クンだから。おーい、遅いぞ」
若松さんが手を上げると、みんな一斉に個室の出入り口に向いた。
「すみません、遅れました」
そう言って、少しだけ照れたように笑って入ってきたその人を見て、わたしは文字通りフリーズした。
他人の空似であってほしい。
自分を変えたい。幸せな夏にしたい。
そう願って参加した合コンに――10年前の失恋の相手が来たなんてマンガみたいな展開有り得ないでしょう?
「
耳の奥で、あのときの大輪の花火の音がどん、と響いた。
わたしを溺愛してくるのは、かつて失恋した人だという件。 桂真琴@12/25『転生厨師』下巻発売 @katura-makoto
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