自己満足と自己不満足

白川津 中々

◾️

漫画家になろう。


そう思い立ちタブレットとツールを用意して十年続けた。できあがった作品は各種サイトに投稿。読んでくれる人がいて、たまにコメントがついて、達成感と喜びがあった。


けれどそこまでだった。


どれだけ描いても人気になれない。数多の作品に沈んでいき底辺をさまよう。どうしてだろう。絶対に俺の描いた漫画の方が面白いはずなのに。なにを描いても認められない。そんな不満が燻っていく。


悩んだ末、金を払ってプロの編集に読んでもらった。相手は眼鏡をかけた無精髭の男だった。見た目の割に物腰が柔らかで、根拠はないがこの人なら俺を認めてくれると思った。


「今のままじゃつまらないから、流行りのネタを使うとか、人気作品の真似をしたらいいよ」


要約するとそんな事を言われた。

オンライン通話で指摘してもらい資料も送ってもらった。


ただ、頭には何も入らなかった。

自分の全てが否定され、存在理由を丁寧に消されていくようで、負の感情が理解を拒んだ。


俺はなぜ漫画なんか描こうと思ったんだろう。


ペンを握りながら考える。どうして、好きだからに決まっている。それで、漫画で自分の世界を表現したかった。皆に俺を認めてほしかった。なにもできない、なにもない俺を……


「俺は……」


手が止まる。雫が頬を伝わり、タブレットに落ちて弾けた。


「なにもない……なにも……俺は……」


溢れる涙は止まらなかった。

それでも、漫画を描いた。

俺を認めてほしいから、知ってほしいから。

誰からも認められない作品を、誰かのために、俺のために。

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