第8話 え?!~まさかの展開なんですけど?!~

カーテンの隙間から朝日が注ぎ込む中、隆司は目を覚ました。

時計を見ると朝の7時半前だった。


「美咲が起こしにこないってことは・・・やっぱり昨日の疲れだろうな~。よし、逆に起こしに行ってやるかな」


制服に着替える前に隆司は美咲の部屋にいき、静かにドアを開けると、案の定、まだ寝ていた。

隆司はしばらく、寝ている美咲の様子を見ていた。


「んんっ!・・・こ、これはいかに・・・いつもこんな格好で寝ているのか~。しばし目の保養を・・・」


美咲は、なんと上だけ着て下は下着姿だった。

なんともエロい格好ではある。


「ちょいとサラサラっとイラストに納めておきたくなるな・・・どうするかな~。この状態で起こすのはなんだかよくない気がするな」


隆司は美咲を起こさないように、そっと布団をかけてから起こすことにした。が・・・


「んんっ・・・うわっ!おにいちゃん!なんで、なんで??」


布団をかけようとしている途中で美咲が起きてしまった。

美咲は布団を隆司から布団を取り返して隠して、顔を少し赤らめていた。


「これは・・・なんというフラグでしょうか・・・って・・・お、おはよう、美咲」


「むむむっ!見た?見たでしょ?もぅ~。着替えるから早く出て行って~」


「お、おぅ、まさかの展開なんですけど・・・って、すまんな、そんな恰好してるとは思わんかった。食卓で待ってるわ、んじゃあ」


隆司は食卓に座ると心の中でつぶやいていた。


「今プレイしてる妹物と同じシーンをリアルに見るとは・・・しっかりと目に焼き付いてしまった~」


と、美咲が制服に着替えてカバンを持って隆司の横に座った。

気間づくなるだろうなと思っていたが、そうでもなかった。


「あ、おにいちゃん・・・昨日の撮影で疲れちゃって少し寝過ごしちゃった~」


「読モって大変なんだな~。色んなポーズ撮ったり、メイクも変えたり、服も着替えたりだもんな~」


美咲は昨日のことを思い出してルンルン気分だった。

朝食を食べ終わると二人は家を出て学校へと向かった。

美咲はご機嫌で、なんだか分からないが隆司がポケットに手を入れているところに腕くみをしてきた。

杏子と三紀子が視線の先に入ると、美咲は小走りで杏子のところに行った。


「杏子先輩、三紀子先輩、おはようございます~。昨日の撮影は楽しかったですね~」


「え?あ、そうね。私は撮影よりもメイクの方が楽しかったかな~。流石プロは格が違うわ~。メイク中に色々と話も聞けたし、アドバイスももらえて楽しかった~」


杏子と美咲は歩きながら昨日の話題で盛り上がっている。

ふと三紀子を見ると、なんだかカバンがパンパンに見えた。


「おぃ、おまえ・・・なんでそんなカバンがパンパンなんだ?・・・あ、いや、みなまで言うな」


「えへへ・・・わかっちゃう?・・・昨日、先生が実習が多いって言ってたからぁ~」


「えへへ・・・わかっちゃう?・・・じゃねぇよ!わかるわっ!」


そんなこんなで道行く先に蓮司の姿が見えた。


「おぅ!蓮司。おは~・・・すげぇ荷物だな。剣道の防具か?そろそろ対抗戦も近いらしいな」


「よぉ!おまえらは朝からテンションたけぇな~。おまえの言う通り、後輩をしごかないとならんからな」


蓮司は毎回、対抗試合や市の大会とかが近づくと、いつも気合を入れている。中学からの無敗神話はどこまで続くのか。


「お前は昔から強いからな~。沖田総司が好きなんだよな~。目指せ!天然理心流ってか?」


「俺よりも強い奴なんかゴロゴロいるさ。特に九州だな。俺なんかが九州の大会にでも出たら雑魚だ」


隆司は未だに蓮司が負けたところを見たことがない。

剣道はもとより、喧嘩でも負けたところを見たことがないどころか喧嘩で顔にアザが出来たところすら見たことがない。


「おっと~・・・校門の前にいるのは教育担当の先生じゃないか?持ち物検査か?」


それを聞いて三紀子はビクッと反応した。

隆司はそれを見て三紀子の肩をポンと軽く叩くと先頭に立った。


「おはようございます。今日は持ち物検査でもしているんですか?」


「おはよう、秋月生徒会長。今日は実習授業が多いからな。勉強とは関係ないものを持ち込んでいる生徒がいないかのチェックだ」


「僕たちは全員、生徒会ですし風紀委員の森崎君も一緒です。登校中に、丁度そのことについて話し合っていたところなんですよ」


ここにいる全員が成績優秀かつ生徒会という事もあって先生は信用しきっている。

蓮司が耳打ちして「俺に任せて、おまえらは先に行け」と言ってきた。


「今日は朝から生徒会の打ち合わせがあるそうで、チャイムが鳴るまで僕もご一緒しても良いですか?」


「そういうことなら仕方ないな。森崎の取り締まりは噂で良く聞いているからよろしく頼もうかな」


「では、先生。僕らは先を急ぎますので失礼します」


蓮司一人残して隆司たちは先に行くことが出来た。


「よかったな、三紀子・・・まあ、無事に脱出できたわけだ。実はおれのカバンにもエロい同人誌が入ってたりする。バレたら生徒会長は首だな~・・・あはは」


隆司たちは下駄箱に向かって靴を履き替えていると杏子が何やら手にしていた。


「おっ!またラブレターか?髪型変えてから、なんか多くなってないか?そいつと会うんか?」


「う~ん・・・困るのよね~。ここのところ無視しているわ・・・って、美咲ちゃん、またお昼にね~」


美咲は1年生なので下駄箱は違う方向にある。

いつもここで解散という感じだ。


「美咲~、生徒会室でな~」


教室に入ってしばらくすると、予鈴が鳴り先生が入ってきて毎度おなじみのホームルームの時間が始まった。

だが、今回のホームルームは内容がいささか違っていた。

今日の授業はテスト続きなせいか午前中のみという形になっていた。

生徒の負担を考えてのことだろう。


「なんでも午前中は一斉学力テストが行われるらしい。名門だけに成績はトップクラスじゃないと学校としてのメンツがつぶれるからだろうな~。なんにしてもテストは気楽でいい。5分で終わらせてCGの下絵が大量に描ける」


ホームルームが終わるチャイムが鳴ると先生は一度教室を後にした。

テストは午前中、ぶっつづけで行われるらしい。

そして、その答案用紙は全てのテストが終わった後に学級委員長が職員室へ持って行くらしい。

つまりは、表では真面目な学級委員長の三紀子だ・・・気の毒にな、と隆司は思っていた。

そして、学力テストの総合結果は掲示板に名前が書かれるらしい。

すぐに採点をして掲示板の結果を生徒が見てからの解散のようだ。


「おぅ、三紀子。答案用紙な、おれも職員室に持ってくの手伝ってやるよ。毎朝、カバンがパンパンになるくらいBL本の詰まった重たいカバン持ってきてるおまえでも流石に重いだろ」


「あっ、じゃあ、私も手伝うよ~。その後に皆で生徒会室に集まろうよ~。今日はまったりお茶会が出来そう~」


「助かるわぁ~。ありがとぉ~、隆司君に杏子ちゃん・・・今日はどんな手作りのお菓子なのか楽しみぃ~」


と、話しているうちにチャイムが鳴り響いた。

先生が来る前に蓮司もお茶会を誘ってみたが、部活で強化訓練をするそうだ。


「毎回思うんだけどさ、おまえの特訓って・・・ちと厳しすぎないか?素振り500本に長い校庭10周・・・」


「これでも甘くしてるくらいだ。本当ならパワーアンクルを着けて走ってもらいたいもんだ。素振りは当然のとこながら足を強化すれば、それだけ瞬発力が身につく。俺はいつも毎日、倍は走りこんでるし、素振りも倍以上はやってるな」


「おっと、そろそろチャイムだな。まあ、あまりしごきすぎるなよ~」


席に着くと丁度、先生が入ってきて、「1時限目のテストは化学になります」というと前席からテスト用紙が配布し始め、配り終えると先生の合図でテストが開始された。

クラスのみんながテストに夢中の中、隆司が周りを見渡すと、隆司はもちろんのこと杏子に三紀子は15分ほどでテストを終わっている様子だった。


1時限目のテストが終わり休み時間になってもいつものように騒めくこともなく、クラスのみんなは次のテストに向けて予習復習を淡々と始めている。

杏子は何やらノートを開いて読んでいる。

三紀子はいつも通り、BL本を読んでいることが即分かった。

隆司も特に勉強をせずに書き物をしている。

蓮司は相変わらず、ぼーっと外を眺めている。

こんな調子ですべてのテストが終わり、みんなは掃除の支度を始めている。

杏子に三紀子に蓮司が隆司の席に集まると「テストおつかれさん。テストは気楽でいいよな~」隆司が言った。


「絶対に隆司を抜いてトップになるわよ~」


「へぇ~、もしも負けたら罰ゲームでもするか?おれは容赦ないぞ~。あはは」


「私は得意の数学以外ダメかもぉ~」


今回は掲示板に名前が書かれることもあって、生徒の大半が必死になっていたが、このメンツはあまり気にはしていない。


「蓮司は部活だったよな。よし、この山のようなテスト用紙を職員室へ持って行って生徒会室で遊ぶか~」


「隆司君、杏子ちゃん、ありがとぉ~。流石にこの量は1人じゃムリぃ~」


隆司・杏子・三紀子は三等分してテスト用紙を職員室へと届けると、生徒会室へ向かった。

先生に渡すと生徒会長である隆司に放送で掲示板に掲載される時間などを言うようにと言伝をされた。


「なんでおれがそんなことするんだか。そういうのは放送部に頼んで欲しいもんだよな~。とりあえず、放送部員も連れて放送してから生徒会室に行くから先に行っててくれな~。んじゃあ、また後でな~」


隆司は放送部員のメインで放送している生徒に声をかけて放送室へ向かって放送部員に放送を頼むことにした。

先生からの内容を元に隆司は放送室にあったノートに書きこむと放送部員に渡して放送してもらい、生徒会室へと向かった。


「おぅ、遅くなった・・・って、杏子の姿が見えないな。三紀子は何か聞いてるか?」


「ん~・・・なんか体育館裏に行くって言っていたようだけど、なんだろうねぇ~」


「へぇ~。今朝のアレで告白されてるのかな?今回はどんなイケメンなのか、ちょっと見てこよ~」


「美咲~、ちょっと待っててな~。三紀子も行こうぜ~」


三紀子は「覗き見はよくないよぉ~」と言いつつもしっかりと後ろについてきてる。

そして、体育館裏に着くと、物陰からこっそりと近づいて、声が聞こえる範囲で隠れた。

杏子が突っ立ってると、暫くすると近寄ってくる生徒が一人。

その生徒が杏子の前に立つと話しかけてきた。


「あっ、あの・・・一条さん・・・・」


杏子は、その生徒を見て「え?なにかしら?」と声をかけると。


「私のラブレターは読んでくれましたか?わっ・・・わたし、前から一条さんのことが好きなんです!私と・・・つっ、付き合ってください!」


「え?えぇーーーーー!あなただったの?!だって、あなた・・・おっ、女の子よね?」


まさかの展開に隆司も三紀子も危うく声が出そうだった。

そして杏子は、目が点に・・・


「わっ・・・わたし。その~・・・同性の方が好みで、一条さんのことが好きなんです!」


「ちょっ・・・ちょっと待って。頭が混乱してきちゃったわ・・・」


隆司はこっそりと三紀子に耳打ちで話しかけてきた。


「おぃおぃ・・・あの子レズか?レズなのか??」


「わっ、私に聞かれてもぉ~・・・私としては蓮司君が男の子に告白されっ・・・んーんー」


隆司は無理やり三紀子の口を手でふさいだ。


「おぃ、こら・・・暴れるなって。バレるだろうが」


「鼻と口押さえられたら息ができないんだもん~」


暫く沈黙が続くと、告白している子が話し始めた。


「わ、わたしじゃダメですか?好きというか・・・愛してると言っても過言ではありません」


杏子は「愛してる」と聞いてドン引きして、顔を引きつらせながら答えた。


「あ・・・あのさ~。なんていうか、その~・・・せっかくで悪いんだけれども、私ね・・・すっ、好きな人がいるのよ。だから、気持ちはうれしいんだけれど、ごめんなさい・・・」


そう言うと、その子は泣いて走り去っていった。

杏子は「ふぅ~・・・まさかの展開でびっくりした~」と言いながら、引き返して歩いて行った。


「おぃおぃ、三紀子・・・すげぇ~もん見ちまったな。同人誌で同じような内容書いたことあるぞ・・・」


「はぁ~・・・びっくりしたぁ~。告白シーンなんて初めて見たよぉ~・・・しかも女の子が女の子にだなんてねぇ~。男の子が男の子にだったら理解できるんだけどねぇ~」


「そっちの方が余計に理解できんわっ!」


杏子の姿が見えなくなると隆司たちも隠れるのをやめて姿を見せた。

隆司と三紀子はお互いを見て、同時に同じようなことを口走った。


「びっくりした~・・・まさか実在するとは思わんかったわ~」


「びっくりしたぁ~・・・まさか生であんな展開を見るなんてぇ~」


とりあえず、生徒会室へと歩き出した。

その間も目の当たりにした話題でいっぱいだった。


「とりあえず、生徒会室へついたら、見なかったことにしておくか?」


「そうだねぇ~。そっとしておいた方が良いかもねぇ~」


生徒会室に着くとコーヒーの香りがしてきた。

隆司はドアを開けて「遅くなった~。生徒会長様ただいま参上~」といい三紀子と二人で生徒会室に入っていき、隆司は生徒会長の席に座った。


「珍し、いつも一番乗りでイラストやらなんやら書いてる隆司が遅くなるだなんて。三紀子も一緒だったのね~」


杏子はコーヒーを淹れながら、そう言ってきた。

今日は手作りのシフォンケーキも用意されていた。


「杏子は毎回と違うお菓子作ってくるけど、どんだけレパートリーあるんだか。んー、このシフォンケーキも美味なり~」


「紅茶味よ~。あっ、これかけて食べてね~。キャラメルソースなんだけど、たぶん、合うと思うわ~」


杏子はみんなにお手製のキャラメルソースをかけて回っていた。


「杏子ちゃんのお菓子は、いつも美味しいよぉ~・・・杏子ちゃんが女の子にもモテるのわかるなぁ~・・・あっ!」


三紀子は慌てて口を塞いだが察しのいい杏子には手遅れだった。

隆司も慌てて取り乱してしまっている。


「ばかっ!おまえ・・・言うなって話だろうがっ!」


「ちょっと・・・あんたたち、隠れて見てたわねっ!このっ!」


杏子は隆司のこめかみをぐりぐりし始めた。


「痛い痛い・・・こめかみグリグリはやめてくれ~・・・悪かったって」


「杏子ちゃん、ごめんねぇ~。私は反対したんだけどぉ~・・・隆司君が」


「えっ!杏子先輩・・・女の子から告られたんですか!」


美咲も突っ込みを入れてきて、グリグリがエスカレートしてきた。


「わっ、悪かったって~。どんなやつか気になっただけだって~。誰にも言わんから、こめかみグリグリやめてくれ~」


「まったくもう~。ぜーーーったいに秘密だからね!分かったわね!」


杏子は気が済んだのか席に戻ってシフォンケーキとコーヒーを飲み始めた。

そこで三紀子が話しかけてきた。


「ねぇねぇ、杏子ちゃん。これ見てぇ~・・・えへへ」


と、杏子の目の前に行くと1枚のイラストを見せた。


「ぶーーーーーー!ちょっ!三紀子!」


見せたイラストはなんと先ほどの告白シーンで杏子が「私も実は女の子が好きだったの・・・」と吹き出し付きだった。

ご丁寧にスクリーントーンまで貼って、二人が両手を絡ませていた。


「うわぁーーーーー!杏子ちゃん、顔にコーヒーかけないでってばぁ~」


「ちょっと三紀子!その絵は破棄しなさい!」


三紀子はBLしか描かないと思っていた隆司も流石にびっくりして、シフォンケーキを喉に詰まらせていた。


「まあ、いいわ。でも二度とやっちゃダメなんだからね!わかった?隆司に三紀子」


「ん?そういえば、そろそろ掲示板にテストの総合得点が貼りだされるんじゃないか?見に行くか?それとも蓮司が来るまで待つか?部活が終わったら来るようなことを言っていたぞ?」


「そうね、ちょっとやりたいこともあるし、蓮司君が来るまで待ってようか。ねね、美咲ちゃん。ちょっとメイクの練習させてくれないかしら?この間の撮影の時にプロの人に教えてもらったのをメモしてきたのよ」


「あ、杏子先輩。良いですよ~。あの時のメイクは凄かったですよね~。流石、プロって感じ。じゃあ、実験台にどうぞ~」


「なぁ、そのメイクで思ったんだけどさ。メイクってイラストの色入れに似てる気がするんだよな~。三紀子もそんな風に感じなかったか?」


三紀子はいつもスッピンで化粧は全くしたことがない。

そして、CGも描いたことがなく、色入れはいつも水彩かパステルだった。


「ん~・・・そうねぇ~。髪型はともかくとして、パステルと水彩の色入れとそんなに違いはないと思うよぉ~」


「え?そうなの?じゃあ、美咲ちゃんのが終わったら試しに私にメイクしてくれるかしら?」


三紀子はシフォンケーキをモグモグしながら首を縦に振った。

そして、杏子はメモしたノートとメイク道具を取り出して、美咲にメイクを始めた。

美咲にメイクをすること30分・・・


「ふぅ~・・・思い通りにいかないわ~。あ、今メイク落とすね。ありがと~。じゃあ、三紀子にやってもらおうかな~」


「やったことないから上手くできるかは分からないからねぇ~。メイクなんかしたことないから道具の名前や使い方なんかもやりながら教えてねぇ~」


杏子は三紀子に道具の名前や使い方なんかを教えながらメイクをしてもらっている。

三紀子は名前の知らないメイク道具の説明を聞きながら

サクサクとメイクを進めている。


「なんだか塗り絵をしている感覚と似てるかもぉ~。イラストで肝心なところは目だったりとかするのよねぇ~・・・でも、肌の色も口紅や目元に負けないように・・・ここをこうして、こうやってっと、あとは眉も肝心だから、こうしてっと・・・ん~、どかなぁ~?」


杏子は鏡を見てビックリ!

初めてやってメイクが杏子のメイクとは段違いの出来だった。


「すっごーい!初めてなのに、なんでこんなにメイクが出来ちゃったりするの??」


「えへへ・・・ポイントは肌色かなぁ~。それで結構水彩画も決まったりするし、それによっては目元や口紅や眉なんかも決まってくるかなぁ~。各パーツをバランスよく仕上げているのぉ~」


と、そこへ蓮司が生徒会室に入ってきた。


「おまえら、まだいたのか?そろそろ帰らねぇーと、やべーんじゃねぇの?」


「おぅ、蓮司。部活は終わったのか?全員そろったことだし、そろそろ引き上げるか?」


杏子も慌ててメイクを落とし、道具を片付けている。

食器やコーヒーカップの片づけは美咲がやってくれている。

三紀子も読んでいた本を数冊カバンの中にしまい込んでいる。

と、隆司は本のタイトルに目が行ってしまった。


「おまえ・・・なんだそのえぐいタイトルの本は・・・(放課後の密室で交わる心と体~甘い囁きと激しい禁断のひと時~)呆れるわ!」


三紀子は興奮して身を乗り出して隆司に大接近。


「あっ!やっぱり、それ気になっちゃう系?面白いんだよぉ~。こう絡み合ってさぁ~、でねでね、その後がねっ!んーんー」


隆司はヒートアップする三紀子の口を押えて押し返した。

三紀子は両手をジタバタさせながら押し戻された。


「近い近いっ!そして唾を飛ばすな!この変態腐女子がっ!」


「おぃ!そこ・・・何を騒いでるか知らんが校則違反で捕まえるぞ・・・」


「そうよ、三紀子も何そんなにヒートアップしてるのよ。美咲ちゃんも待ってるし、行くわよ」


隆司はすでに帰り支度を終えているので生徒会室のドアで三紀子を待っていた。

三紀子は慌てて本をカバンにしまい込み「おまたせぇ~」とみんなに声をかけて、みんなで掲示板に向かうと凄い生徒の数だった。

2年生の隆司・杏子・三紀子・蓮司は掲示板の前に向かって、1年生の美咲は1年生の掲示板に向かっていった。


「おぉ~、トップはおれか~。杏子は2位か・・・蓮司は毎回平凡だな~、真ん中くらいか。真面目にやれば出来るんだからやればいいのによ」


「あぁ~・・・私はまた2位~・・・授業中に絵だのなんだの書いてる、あんたに負けるのはしゃくに触るわ~」


「んーっと、わたしはまあまあかな~。数学で満点が救いかなぁ~」


隆司は成績なんかどうでもいいタイプなので1年生の方に向かっていった。


「美咲~、どうだった?」


「あっ!おにいちゃん。2位だったよ~。読モに学校の勉強は関係ないから、あまり気にしてないんだけどね~」


兄弟そろって成績には無頓着で、杏子はどうにかして隆司を抜きたいと勉強を頑張ってはいるが、多趣味が影響して中学時代から隆司を抜けないでいた。

掲示板も見終わったところで、みんなが集まって一緒に帰ることにした。

そして、いつもの通学路の待ち合わせ場所着くとそれぞれ分かれて帰った。

家に着くなり母親が成績を聞いてきた。


「おふくろ・・・なんで知ってんだ?まあいいけど、おれも美咲もトップクラスだ。そうそう、ちょっとやることが詰まってるから、今日は部屋で夕食食べるから、あとでおにぎりかなんか適当に持ってきてもらえないか?我が家のしきたりは家族全員での食事だが、今日はどうしても無理だ。親父にもそのことを言っておいてくれ」


母親は勉強するのだとばかり思っているが、実のところ夏が間近だから同人誌の仕上げをしなければならない。

今回は三紀子の分もあるから、急いで取り組まないと間に合わない。

三紀子には何としてもコミケに参加してもらいたいと隆司は思っている。

隆司の見立てだと、三紀子の画力は相当なものだ。

ブラックのコーヒーを手にして部屋へ籠りきった。

暫くすると母親がドアをノックして夕ご飯を持ってきてくれた。


「隆司、勉強頑張ってね。あんまり根を詰めないようにするのよ」


三紀子の原稿の構成を少し変えるか、など考えながら隆司は一休みして晩ご飯を食べていた。

当然、母親も父親もこの趣味は知らない。

唯一、美咲だけが隆司の趣味を知っている。


「うっしゃ、おっぱじめるか。おれの仕事は売れる本を書くことだ。三紀子の本も完売させてやりたい。おれのは後回しにして三紀子の原稿を仕上げるか・・・」


本気モードに入ると隆司はいつも時間を忘れて没頭してしまう。

例のごとくアニソンを聴きながら、CG集はサクサク仕上げていくが、BLは読んだことがないせいで苦戦している。


「ふぅ~・・・なんとかできたか。あいつの根本的なこだわりを崩さずに何とか改変できたな。おれのもなんとか仕上がったし、あとは印刷会社に依頼をかけて終わりか。CG集の方は見本を1部だけ自分で製本してCD-Rに焼きこめば完成だな。それも今日中に終わらせておくか」


すでに夜中の3時を回っていた。

製本はさほど時間がかからないので、すぐに出来上がった。

焼きあがったCD-Rをプリンターにセットして次々とCDにプリントしていく作業に没頭している。

全ての作業を終えると、外は明るくなっていた。

隆司はぐったりベッドに横になり、そのまま眠ってしまった。

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兄が妹に恋するなんておかしいだろっ! 詩樹@しき @mevius386

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