第7話 初スタジオ!~撮影当日!~
シャーーーーーー!
カーテンが勢いよく開けられると、隆司は朝日の眩しさに目を覚ました。
見上げると、ベッドの上に上がってカーテンを開けていた美咲が見えた。
「おぉ・・・下からのアングルとは!なんとも眺めのいい・・・」
美咲はバサッと飛び降りると。
「おにいちゃん、朝だよ~。おはよう~」
「おぅ、美咲。おはよー。今日の放課後は例の編集長さんが来るんだったか。昨日、杏子から夜中にラインがあって緊張してるみたいだ。責任もあるし、俺も付き合うことになっちまったよ」
「すっごく楽しみなの!夢の読モの初デビューだよ~。早くご飯食べて学校に行こうよ~」
「早く行ったところで放課後は早く来ねぇってば」
隆司は制服に着替えて、準備してから食卓に向かうと美咲に言うと、一人はしゃいで食卓に向かった。
「杏子のおかげで美咲の夢の第一歩って感じかな~。緊張が倍増するだろうから、あまり触れないでおくか・・・よしっと」
着替えを終えてカバンを手に持つと隆司も食卓へ向かった。
毎日の平凡な食卓・・・ではないな、と隆司は思った。
「おぃおぃ、おふくろ・・・・・なんだこの朝からタイのお頭付きって?」
「だって~、美咲の夢の第一歩でしょ?お母さん、張り切っちゃったのよ~」
どうやら美咲は前の晩に母親に今日のことを話していたらしい。
母親は前向きに応援してはいるが父親は複雑な感じで前々から母親ほど応援はしていない。
「おやじは相変わらず頭が固いな~。素直に応援してやれよ」
「何を言ってる、美咲はまだ高校1年生なんだぞ?そういうのは大人になっ・・・おぃ!かあさん」
母親が無理やり父親の口に食事を突っ込んで口を塞ぎにかかった。
母親のいつもの大袈裟ぶりに隆司は呆れていた。
美咲のこととなるとはじけ飛ぶ。
今日は控えめな方だ。
そこで隆司は思った「こんなもん、いつ買ってきたんだ?」と。
「やっべぇ~!もうこんな時間じゃねぇか・・・って、おやじも会社行かなくていいのかよっ!おぃ、美咲、行くぞ」
食事も途中で隆司は慌てて美咲の手を引いて家を出て学校へ走って行った。
と、いつもの通学路に杏子と三紀子がこっちを向いて手を振ってきた。
「おぃおぃ、なーに待ってんだよ!もう走らないと遅刻しちまうぞ?」
「だってぇ~・・・杏子ちゃんが落ち着かないから待っていようってぇ~」
「隆司、美咲ちゃんも遅いわよ~。わ、私はなんていうか、落ち着かないって言うかなんていうか・・・」
察しはついていた。
今日の放課後のことだろうと。
「昨日、話した通り、俺も三紀子もついていくから安心しろって、おまえらも走るぞ~」
「あっ!うん・・・ちょっと待ってって~」
隆司は仕方なしにペースを落として、みんなに合わせた・・・というよりも杏子が手を引く三紀子にペースを合わせた。
「って・・・遅い原因はおまえか!三紀子」
「だってぇ~・・・はぁはぁ。カバンが重くってぇ~」
中身はなんとなく察していた。
カバンを持ってやると言って奪い取ると念のために中身を確認すると「マッチョな彼とオイルまみれの夏~前編~」というタイトルが目についた。
「って、おまえ!蓮司と俺たちもそんな風な想像してねぇだろうな?おぃ」
「・・・えへへ・・・はぁはぁ」
「えへへって・・・想像してんだな!おぃ、想像してんだなっ!やめんかぃ!」
息切れしながら変な笑い方をしている三紀子に隆司は呆れていた。
三紀子は隆司が蓮司と肩を組んで仲良さそうのを何回も見ている。
「竹刀とか木刀プレイとか書いたら、ぶっとばすぞ、おまえっ!」
三紀子は走って息を切らしながら「えぇ~・・・次のネタになりそうなのにぃ~」とつぶやいていた。
杏子と美咲は何の話をしているのかはさっぱり分かっていない。
「よっしゃー!ぎりぎりセーフ!」
校門についただけで、教室まで走らないと間に合わない。
そのまま走って靴を履き替えると美咲は1年の教室へ、隆司たちは2年生の教室へと走って行った。
「はぁ~・・・なんとか間に合ったな~。よぉ、蓮司。先に来てたのか」
「ん?あぁ、俺は風紀委員だからな。色々と取り締まらないとならん。最近、後輩の気が緩んでてな、」
蓮司は真面目なやつだ。
朝の取り締まりが終わると職員室へ行き教育指導の先生に毎朝報告をしている。
「ほら、三紀子。かばん。ったく、変なもんばっか持ってくんじゃねぇっての」
「えへ・・・持ってくれて、ありがとぉ~。隆司君」
「はぁ~・・・急いだから緊張もどこかに吹っ飛んだわ~」
丁度チャイムが鳴り、みんなが席に着くと、担任の先生が入ってきてホームルームが始まった。
隆司にとっては暇な時間だ。
ふと三紀子の席を見ると、後ろ姿が肩を揺らして笑っているようにも見えた。
隆司はノートを一枚破るとイラストと「朝から盛り上がってんじゃねぇよ」と書いた紙を丸めて三紀子に投げつけた。
三紀子はキョロキョロして隆司の方を見ると隆司が指をさして三紀子は紙を広げてイラストと文字を心の中で読んだ。
三紀子は「むむむっ!」と思い、ノートのを一枚破いてイラストを描いてお返しをして隆司に投げつけた。
その後もホームルーム中は紙が飛び交っていた。
ホームルームが終わる頃には二人は描きすぎて疲れきっていた。
チャイムが鳴ると先生が教室から出ていき、それと同時に杏子が来た。
「ん?あんた何ぐったりしてるの?」
「いや、なんでもないから気にするな・・・んで、どしたのさ?」
「あぁ・・・放課後の件ね。やっぱり私には読モなんて・・・」
杏子は困り果てた表情をしていたが、それを安心させるように隆司が後押しをした。
「なら、こうしないか?たぶん、そのままだと学校にバレるし、おまえも緊張する。そこでだ、フルウィッグを着けて別人になってみてはどうだ?美咲のためだ、今回だけ頼むわ。このとおりっ!」
「う~ん・・・隆司がそんなにお願いするなら、今回だけよ・・・ガチガチになっても責任取らないからね~」
隆司のお願いは、ついつい聞いてしまう杏子は仕方なしに引き受けた。
ほっと一安心の隆司はフルウィッグをいくつか買わなければならない。
「さて、フルウィッグか・・・杏子なら何でも似合いそうだな。今日の放課後だし、一旦学校を抜け出して速攻で買いに行くしかないな。問題は先生への言い訳だな・・・よし、これでいくか」
1時限目の授業を終えると隆司は職員室へと向かった。
トントントン「失礼します」と隆司は職員室へ入ると担任の元へ向かった。
「鈴原先生、ちょっといいですか?生徒会の件で午前中に買い出しに行きたいんですが良いですか?」
「あら、秋月君。生徒会で何か問題でもあったのかしら?」
「いや、問題ではないんですが、今日中に仕上げる予定だった風紀委員の校則違反者に向けての書類を作る予定だったんですが、手違いがありまして、自宅に置いてきてしまったんですよ。それを取りに行きたいんですよね」
担任は少し考えて「そうね・・・最近は気が緩んでいる生徒さんも見かけますね。分かりました・・・ただし、必ず午前中までに済ませてくださいね」というと、隆司は返事をして学校を抜け出すことに成功した。
「案外と適当な理由で通るもんだな・・・急いで店に行くか~」
隆司は速攻で学校を抜け出すと、例の電気街へ向かった。
あそこにはコスプレ専門店もある。
「電車で行くより自転車でダッシュした方が早いだろうな。どうせ一駅だし」
一度、家に戻ると母親にバレないように自転車をこっそり持ち出すと、猛ダッシュで店に向かった。
「一駅と言えどもママチャリは疲れるな・・・坂道と向かい風がたまらん」
猛ダッシュすること1時間。
要約、ヲタク御用達のショップについた。
「ついでに同人誌も買いたいところだけど、急いで買って戻らんといかんな・・・」
隆司はコスプレショップの階に入るとウィッグを物色し始めた。
このショップは衣装もウィッグもかなりあり、衣装のオーダーメイドもできる。
「さてと・・・杏子はなんでも似合うだろうが、コスじゃなくて変装目的だから無難なのを5個くらい買っていくか~」
隆司はウィッグのコーナーに行くと色々と見て回っている。
「色も無難なのにしておくか。今の赤毛のと黒と茶髪に金髪・・・それから、ピンクでも買っておくか。プロのメイクアップアーティストさんもいることだし、全部ロングにしておくか。たぶん、カットくらいはできるだろう」
ウィッグを選ぶのに大分時間がかかってしまったため、時計を見ると時間がギリギリだと気付き、急いで会計を済ませた。
「しまった・・・選ぶのに時間かけ過ぎた・・・急げばギリ間に合うか~。うぉぉぉぉ!」
急いで家に戻り、こっそりと自転車をおくと、そのままダッシュで学校へ向かった。
校門に着くと同時にチャイムが鳴り響いた。
「あぶなっ!とりあえず、先生に戻ったことを伝えてから生徒会室に行くか~」
隆司は戻ったことを担任に伝えると昼ご飯を買いに売店に行ったが売り切れていた。
生徒会室のドアを開けると同時に「ぎりぎりセーフ!」と言うとみんなの視線が集まった。
「隆司、どこ行ってたの?鈴原先生から聞いたけど、生徒会でそんなのなかったよね?」
杏子は隆司に理由を聞いた。
三紀子も美咲も蓮司も気になっていたらしい。
「いやぁ~、これ買ってきたんだよ。ほら、杏子」
隆司は杏子に紙袋を手渡すと何だろうかと不思議そうに袋の中身を見た。
「ねぇ、隆司・・・これって言ってたウィッグ?もしかして、このために学校を抜け出してたの?
「おぅ、おまえが困らないようにな。何種類か買ってきたから、これで変装すればいい。髪型が変われば誰も杏子だと気づかんだろ」
隆司の気遣いに杏子は嬉しそうに笑顔を浮かべた。
美咲も三紀子も何種類かのウィッグを見て興味を示していた。
「杏子ちゃんなら何着けても似合いそぉ~」
三紀子が言うと美咲も「うんうん、絶対似合いますよ~」と声をかけている。
ふと、杏子は気づいた。
「あれ?隆司、学食は?もう食べ終わったの?」
「いや~、遅くなったから売り切れてた。まあ、そんなに腹が空いてるわけじゃないし、別に構わんさ」
杏子は無言で自分の手作り弁当を隆司の机に置いた。
「おぃおぃ、いいって、気にすんなって」
「気にしないで、私のためにありがと。これならなんとか緊張しないで済みそうだし、あんたが食べていいよ」
隆司はありがたくいただくことにしたが、半分だけ残して、杏子の席の前にそっとおいた。
「ん?・・・おいしくなかったかな?」と杏子が言うと。
「いや、おまえの手料理は折り紙付きだ。美味かったよ。あとはおまえが食えよ。今日は長いんだから腹空いちまうぞ」
そんな隆司の気遣いに杏子は黙って半分残った弁当を食べた。
「なぁ、美咲。あの編集長さんとは面識があるんか?」
「ん~・・・あれが所見だよ~。でも、何回も応募してるから覚えられているだけ~。だから、今日は楽しみなんだ~」
杏子をなんとか、その気にさせてくれた隆司に美咲はべったりくっついてウキウキ気分だった。
隆司は思わぬ展開ににやけ顔で「まぁまぁ、落ち着けって」と美咲に言った。
みんなお昼を食べ終えると同時に杏子がいつもの手作りのお菓子とコーヒーをみんなに配った。
「杏子ちゃんのお菓子はいつ食べても美味しいよぉ~。今日のミルクレープも最高~」
と、三紀子はいつも通りBL本を読みながら杏子に話していた。
表紙は変えてあるから杏子は勉強しているのだろうといつも思っている。
隆司は察しがついているがあえて何も言わないでいる。
美咲はメイクのノリをよくするために何やらやっているが、さっぱりわからない。
「あれ?そいえば蓮司のやつはどしたんだ?いないけど・・・」
「あぁ、蓮司なら風紀委員の取り締まりの件で教育担当の先生のところにいるみたい」
杏子は隆司にそういうと「あいつは真面目だからな~」といいミルクレープを食べてコーヒーを飲んでいる。
「杏子のお菓子はいつもこってるよな~。花の世話に弁当作ってお菓子作って・・・いつ勉強してんだ?」
「え?あぁ、お菓子作ってる間にちょこちょことね~。三紀子は数学が得意だけど、帰ったらやっぱり勉強してるの?」
「えぇ?わたしは学校以外じゃ勉強してないのぉ~。帰ってからは趣味の時間だからぁ~」
その趣味について杏子に突っ込んでやろうかと思ったが、また定番の顔面コーヒーが飛んできそうだからやめておいた。
すると、三紀子が杏子に、今は家ではこれを読んでるのぉ~」
三紀子がペラっとページをめくって杏子に見せた。
「ん~、どれどれ?・・・ぶーーーーーーっ!って三紀子~」
「うわぁ~・・・杏子ちゃん、汚いわよぉ~」
コーヒーを飲みながら近づいてきた杏子に見せたページが過激で三紀子の顔面にコーヒーがぶっかけられた。
それを見ながら隆司はちゃかして爆笑していた。
「さてと、アニソンを聴きながらCG集の下絵でも描くか~。イヤフォンして暫く集中するから時間になったら教えてくれな~」
「隆司君って、どんなアニソン聴いたりするのぉ~」
三紀子もアニソンはよく聴くから今日にありげに聞いてきた。
「今日のは古いやつだな。俺たちがまだ小学生くらいかもしれんな~。パソコンのエロゲーからアニメ化したものを中心に持ってきた。ク〇ナドはどの年代でも知ってるだろうけど、K〇yの作品が多いかな。アニメ化されてないのもあるけどな。後は個人的に好きなホワイト〇ルバムだ。ヒロインの声優が奈々様だ!だから歌ってるのが奈々様だ~」
「おぉ~!奈々様!!私、アルバムから全部持ってるよぉ~。藍井〇イルさんも好きぃ~」
杏子は誰のことやらさっぱりわからないらしくて三紀子に聞くとヒートアップして話していた。
一般的ではないが名曲が多いこともあって三紀子もホワイト〇ルバムは知っていた。
「・・・って感じなのぉ~。わかった?杏子ちゃん」
「う~ん・・・あはは。全然知らないわ。」
三紀子はショボーンとした顔をしていた。
杏子は席に座ると「私はクラッシックかな~。ピアノの音色が好きだからショパンかな~」と話していた。
杏子は結構お高いキーボードを持っていて、よく弾くらしい。
隆司が鼻歌を歌いながら描いていると三紀子が身を乗り出してきて「それっ!鳥〇詩!」といきなり目の前に現れて隆司は後ずさりした。
「おまえな~・・・集中して描くと言ったろうが!って、いい曲だよな~。実はな・・・このmicroSDには名曲ぞろいだぞ?貸してやろうか~?」
隆司がにやりと笑い、三紀子の目の前に差し出した。
即座に反応して隆司の手から奪い去っていった。
「お、おぃ!あまえ、明日には返せよな!それがないと創作意欲がわかんのだから!」
「えへへへ・・・わかったぁ~。代わりにBL本貸してあげるよぉ~」
と、三紀子が変態笑いをしながら5冊ほど差し出してきた。
「いらんわ!そんなもん。そういうのは腐女子に貸してやれっ!」
「私にはヲタクの世界は一生わからないわ~。ねぇ、美咲ちゃん」
杏子と美咲は漫画本は一切読まない。
この二人の共通点は洋服と化粧で、その手の雑誌を貸し借りしているらしい。
「っと・・・おぃおぃ、そろそろ昼が終わっちまう。全然描けんかった・・・」
「あれ?もうそんな時間?んじゃあ、私は食器とかかたしちゃうから待っててね」
そういうと杏子はテキパキと片付けをし始めて、みさきも化粧道具らしきものをしまうと、杏子の手伝いをしていた。
「終わったか~?そろそろ行くぞ~」
「あ、うん。今終わったところ。いこっか~。美咲ちゃん、また放課後にね~」
「あっ、はい。また放課後に~」
みんなは生徒会室を後にして教室へと向かった。
教室に着くと、すでに蓮司は席に座っていて、こっちに気づいて手を上げて挨拶をした。
「おぅ!蓮司。おまえも大変だな~。風紀委員だなんて。あんまり後輩をいじめるなよな~」
当然、蓮司は隆司の趣味を知っていて、授業中に何をやっているのかとか全て知っているが黙認してくれている。
隆司はかったるそうに席に着くと教科書を出して、シャーペンをクルクル回して遊んでいる。
授業前と後の毎回の「起立・礼」ふと隆司は昔のことを思い出していた。
風紀委員の蓮司が見回りをしていると、ある生徒が口走ったのを聞いて、蓮司は物凄くキレた一件があった。
「金払ってんのは、こっちなんだからよ、せんこーが礼しろよって感じだよな。給料払ってるのはこっちなんだぜ」
「たいした役に立たない授業やらさせれんだもんな。逆に礼しろって感じだよな~。あははは」
この生徒たちの会話を蓮司は聞いてしまって、ボコボコにして停学寸前のところを隆司が助けた。
相手は学内でも有名な半グレの3年生の上級生だった。
そんなことを思い出していると、テスト用紙が配られてきた。
「なんだ、数学のテストか~。5分で終わらせて、描けなかった下絵でも描くか~」
隆司はサラサラと答案用紙に答えを描き終えると、コピー用紙を取り出して下絵を描き始め、チャイムが鳴る頃には5枚ほどラフスケッチを描き上げていた。
答案投資が後ろの席から前に集められると、授業は終わり、先生は「おつかれさまでした」と言って、教室を後にして休み時間になった。
午後の授業は全てテストだった。
「テストのオンパレードかよ。掃除の時間はバックレて生徒会室にこもって続きでも描くかな~」
隆司は一人、生徒会室へ入ると三紀子に貸した別のmicroSDカードをスマホに差し込んでアニソンを聴きながらノリノリで下絵を描き始めた。
ちなみにCGはともかくとして、ショートの書き物をするときはアニメ鑑賞禁止令をしている。
理由は影響されて「あれ?どこかで読んだような」みたいなのにはしたくないためだ。
「ふぅ~・・・結構描いたな~。さてと、どれを採用にして、どれをボツにするかな・・・絵は生き物だからな、脈動感がなければ意味がない単なる駄作だ」
その辺は絶対に妥協しないことにしている。
文章も同様でスムーズに流れるように進行していくように仕上げるように心がけている。
隆司の拘りは強いものがある。
なので毎年の夏コミと冬コミでは全て完売している。
と、選んでいると杏子と三紀子が入ってきた。
「おぅ!掃除、ご苦労さん!」
「おぅ!・・・じゃないわよ!掃除サボって何を描きまくってるのよ~」
「おぅ!・・・って、私も誘って欲しかったよぉ~。一人だけずるいんだからぁ~」
おぅ!の3連発。
蓮司はいつもの見回りでいないが、いたら絶対に言っていた。
「ちょっと・・・三紀子まで、そんなこと言って~」
「えへへ・・・」
そこへ遅れて、何やら慌て気味に美咲が入ってきた。
「おぅ!美咲・・・ってどしたのさ?息切れしてんぞ?なんかあったのか?」
「おにいちゃん・・・アレアレ!見て~」
美咲は窓から見える校門の方を指さしていると、みんなが覗き込むと例のベンツがもう停まっている。
「あれって・・・例の編集長さんの車だな。いつからそこに停めてるんだろうな~。目立ってしょうがない。どうする?他の生徒が帰る前に行くか?噂になっても困るしな」
「うぅ~・・・急に緊張してきちゃったよ~」
杏子がソワソワしだした。
美咲は別の意味でソワソワしている。
「んじゃあ、まぁ・・・でっぱつすっか~。さっさと退散してもらわないと生徒会も先生たちから目をつけられたらたまらん」
隆司は描いて散乱したものを纏めるとカバンにしまい込み、出る準備を整え始めた。
もちろん、杏子が身に着けるウィッグも。
生徒会室に来たばかりのみんなもそのまま校門に向かった。
「さてと、問題は・・・あの編集長さんにウィッグの提案をしなければならないな・・・まぁ、杏子なら何着けても問題なさそうだし困難ではなさそうだな。杏子、おれに任せておけ。おまえが緊張しないようにしてやるからよ」
「あ、うん・・・ありがと。あのベンツを見たら手汗が出たわ~」
校門までつくと、予想通り、編集長さんとお付きの人が出てきた。
「こんにちは。待っていたわ。さ、二人とも乗ってちょうだい」
「ちょっと待ってもらえますか。その件なんですが、おれとこいつも一緒で良いですか?あと、相談もあるのでお願いします」
編集長さんはしばらく考えてから笑顔を見せて了解してくれた。
暫く考えていたのは、単純に定員オーバーだからだ。
ギュウギュウ詰めでみんながベンツに乗り込むと、他の生徒には見られることもなく学校を後にした。
「あー、編集長さんにお願いがあるんですけど、聞いてもらえますかね?」
「どうぞ、なんでも言ってちょうだい」
隆司は袋から数々のウィッグを取り出して編集長さんに理由を説明をした。
「実は、こいつは写真とか苦手でカメラを向けられると顔面がカチカチになっちゃうんで、このどれかのウィッグをつけて軽く変装してもらいたいんですよね。理由はもうひとつあって、おれたちは学校の生徒会で、おれが生徒会長で、こいつが副会長なんで学校にバレるとまずいんですよ。なので、この条件を飲んでもらえないのでしたら、おれ達はここで降ります」
折角の美咲の初デビューだったが、少し強気に出てみた。
美咲は隆司の袖を引っ張って不安がっていたが、編集長さんはしばらく考えてから了解してくれた。
「わかったわ。そういう事情があるのなら仕方ないわね。スタジオにもフルウィッグはいくつかあるからメイクさんとカメラマンさんと相談して決めましょう」
「ふぅ~・・・良かったな、杏子。それに、美咲も初デビューだ」
車を走らせること30分ほどでスタジオについた。
お付きの運転手以外、車から降りるとエレベーターで昇ってスタジオの中に入った。
「ひゃ~・・・こりゃまた本格的だな、おぃ」
「おにいちゃん、当たり前でしょ~・・・私も緊張してきちゃった~」
スタジオには大きなスピーカーが付いていてBGMが流れている。
かなり大きいスタジオだ。
「ちょっとそこのソファーにかけて待っていてくれるかしら?」
編集長さんがそう言うとみんなでソファーに座るとドリンクのメニューが出てきた。
杏子と三紀子と美咲はロイヤルミルクティーを頼んで、隆司はコーヒーを頼んだ。
暫く待っていると編集長さんが来て「話がまとまったから、二人とも来てちょうだい」というと杏子と美咲はメイクルームに入っていった。
「なぁ、三紀子・・・撮影ってどれくらい時間がかかるんだろうな~」
「さぁ~・・・待ってる間にこれでも読む?」
三紀子は普通にBL本を差し出してきた。
「そんなもん読むかっ!おまえは一人の世界にでも入ってろ。まったくもう」
「えへへ・・・そうするぅ~・・・・・えへ・・・えへへへ」
「やめんかぃ!無言で無表情で読めっ!」
隆司はたまらず三紀子の頭をこずくと三紀子はショボーンとしていると、見違えた二人が出てきた。
美咲もウィッグを着けている。
杏子はセミロングで色はアッシュオリーブでがっつりメイクが施されていて別人のようだった。
美咲は、元のロングのピンクカラーから髪を上にまとめられて前下がりボブの色はグレーベージュだった。
「おぃおぃ・・・あの二人、高校生とは思えんぞ。すげぇーな。すれ違っても誰だかわからん。杏子は大学生に見えるし、愛しの妹様もおれよりも年上に見えるぞ・・・」
「うわぁ~・・・二人とも、とってもキレイだねぇ~。絵に納めたいわぁ~」
三紀子は両手を前に出して人差し指と親指で四角を作ってキャンバスのイメージをしている。
まずは秋物の新作かららしい。
杏子も緊張はしていない様子だった。
プロのメイクアップアーティストの腕前に驚いたのだろう。
「あー!つーか、おれが必死で買いに行ったウィッグはボツかよっ!」
一着で色々なポーズをとって撮影が進められて、次々と秋物の着替えていた。
「おぃおぃ・・・秋物だけで何十枚撮ってんだ?服だけじゃなくてバッグも流行りがあるんだな~・・・っと、次は冬服か?」
髪型とメイクも若干変わっている。
「秋と冬だと髪型とかの流行りもあんのかねぇ~」
「そうだよぉ~。私は年中三つ編みだけどねぇ~。私は目立つのとかは嫌だからぁ~」
「おまえは変な意味で生徒会室で目立っとるわぁ!この変態腐女子が!」
冬服も何着か着替えて数えきれないほど撮っている。
撮ること数時間。
スタッフさんから「はい、オッケーです。お疲れ様です」と声が聞こえてきた。
時計を見ると21時過ぎになっていた。
「休憩なしでぶっ続け何時間だ?すげぇ~な」
二人はメイクルームに戻ると、暫くしてから元の髪型とうっすらとメイクした感じで制服姿で出てきた。
杏子は、なんだか一冊のノートを手にいている。
「おぅ、おつかれさん。美咲、綺麗だったぞ~。おれの嫁になってくれ~」
「もう、おにいちゃんってば~・・・でも楽しかった~。ね、杏子先輩」
ノートをペラペラめくってる杏子が「あ、うん。なんだか夢中になっちゃった」と言いながら、またノートを見始めた。
「杏子、なんだそれ?エロ本か?」
「違うわよっ!メイクさんから教わったことを書いてきたの。やっぱりプロのメイクアップアーティストさんは格が違いすぎるわ~」
編集長さんがお付きの人を連れてこっちにきた。
「みなさん、遅くまでおつかれさまでした。おかげでいい写真が撮れたわ。帰りはうちのバンで送らせてもらうわ」
帰りは大人数で乗れるハイエースを手配してくれて、各自宅まで送ってもらえることになった。
バンの中で色々な話をして、杏子も良い経験が出来たと喜んでいたが一番はしゃいでいたのが美咲だった。
夢が叶ったというのもあるが美咲にとっては人生で一番充実した一日だと言っていた。
「美咲、よかったな。これで夢が叶ったわけだが、専属になれるといいよな~。本当の夢はそこだろ?。専属にならなければ読モとは言えんからな。おにいちゃんは応援しちゃうぞ~」
隆司は隆司は腕を美咲の首に回すと抱き寄せる形になった。
「うん!専属になれたら本当に夢が叶ったことになるよ~」
各自が家に送られるといつもと変わらないひと時となった。
隆司は自分の部屋に戻ったが美咲は母親に今日のことを嬉しそうに話していた。
「座ってるだけだったが、今日は疲れたな~。寝るか~」
電気を消して、ベッドに横になるとスマホからラインの着信音が聞こえてきた。
「あっ、隆司・・・遅くにごめんね。今日はありがと!あんたと三紀子が着いてきてくれたおかげで緊張もしなかったわ。それに撮影にも必死になっちゃって今日は疲れたわ~。読モって大変なのね~。雑誌は出版する前にもらえることになったの。それを聞いて美咲ちゃんってばはしゃいじゃってさ~。私はプロのメイクアップアーティストから教えてもらった技術をノートに書き留めて大満足。じゃあ、明日また学校でね!おやすみ、隆司」
「さてと、寝るか~。流石に今日は疲れたわ。美咲も流石に疲れただろうな~」
隆司は布団にくるまって寝ようとしているが、母親と美咲の会話がうるさくて眠れないでいた。
単発とはいえ、母親も大喜びだ。
美咲も余韻が残って中々寝つけないでいるだろうなと隆司は思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます