第2話 君と見てよかった。

先輩と映画を見るにしても、僕らの隠れ家から映画館はバスの片道で31分程度はかかる。しかも、バスが来るのは数十分後だ。


そのため、バス停に到着したところで待つことになる。僕は先輩とのデートが気まずいものにならないように話題を絞り出している。


バス停に着くとベンチがあったのでそこで休むことにした。


まずい、話題がない…。


「あのっ!」


「ん?」


「先輩の血液型って何型でしたっけ?」


「A型だよ〜、ミズキくんは?」


「僕はO型です!」


「相性バッチリだ!やったぁ!」


意外と会話が弾んで盛り上がっている。


楽しい。


あっ、ようやくバスが来た。


僕らはバスの入口で発券機から整理券を抜き取ると後方の座席に並んで座った。


運転手のアナウンスと同時にバスが動き始める。


事件はその後に起こった。


明らかに先輩の顔が青ざめている。


「先輩…、少し具合が悪そうですよ…」


「平気さ…、ミズキくん…」


僕はすっかり忘れていた!


「酔い止めは?!」


「飲んでない…」


先輩が苦しそうに返事をする。乗り物酔いだ…。


「すみません…僕が気づかなかったせいで…」


「やだなぁ…ミズキくん…俺は大丈夫だから」


先輩の頬には汗がつたっていた。


今にもチョコレートミルクを吐き出しそうだった。


僕は先輩の背中をさする。


「もう付きますよ〜」


「うっ!もう着くの?」


「はい、映画館着いたら少し休みましょう…」


バスが停車して運転手がドアを開けると、先輩は支払いを済ませ真っ先に降りて外の空気を吸っていた。


僕も後を追うように支払いを済ませた。


外に出てみると先輩の顔色はいつも通りに戻っていることを確認出来た。


「大丈夫ですか…?」


「なんとか…」


体調が回復していたのを見て安心したのも束の間、今日はホラー映画を見ることが気がかりだった。


中に入ると、いつもは列になっている筈のチケット売り場がガラ空きになっていた。


2人でチケットを購入した後先輩は飲み物を買ってきてくれた。


「Mサイズでよかったか?」


先輩はコーラを手渡そうと僕と向かい合った。


「はい、大丈夫です///」


照れくさくて声が小さくなった。


そして、自然と体温が上がるのを感じた。


これがキュンっていう感情なのか…。


あっ、そろそろ

【ウィザード・デストラクション】の

上映が始まる。


館内に入ると人は殆どおらずボタンと先輩だけだった。


「貸し切りじゃん…」


「そのようですね…」


これからあの社会現象を起こした映画を見るというのに先輩だけと見ることに不安と安心が入り乱れている。


【ウィザード・デストラクション】

が始まった。


何で問題作かってすぐに分かった。


開始5分で死者が出るような作品だったから。


僕は恐怖の余り先輩の袖を掴んて震えていた。


「大丈夫だよ、怖くない。」


先輩がよしよしと僕の頭を撫でる。


映画の後半戦では怒涛のホラー展開に先輩も腰を抜かしていた。


「うわぁあぁああぁあぁあ…!もう嫌だぁ…!」


先輩は不気味な演出にかなり恐怖を覚えていた。


気付いた時には抱き合っていた。


僕らはくっていて離れない。


そうすると自然と謎の安心感に包まれている。


先輩も同じだといいな♪ 


終盤で事件が無事解決しエンドロールに入っても僕らは離れなかった。


映画館が明るくなると荷物を持って階段を降りた。


「ミズキくん…、」


「どうしましたか?」


先輩が不安そうに言ったからこちらも不安そうに返した。


「ちびってない?」


「いえ全く」


即答した。そもそもちびったら格好悪い。


先輩が好きだから。


映画館を出てバス停に着くとまたベンチで休む。


肝心な質問を先輩に投げかける。


 「先輩!」


「ん?!」


少し驚いていた。


「僕らの関係って何なのかな…」


「どうしたの〜?藪から棒に…」


明らかに返答に困っている表情だった。先輩は頬を赤くして言った。


「今日の映画はミズキくんとじゃなきゃ見れなかった、君と見てよかった。」


僕は水筒の水を飲み干した。


「こちらこそありがとうございました///」


また小声になる。


「かわいい」


「えへ…」


「この先も、俺の隣で笑ってくれるかな?」


それを聞いた途端口よりも先に体が動いた。


この瞬間先輩にキスをしてしまっていた。


「んっ、」


「あっ、」


ちゅっ…と音が聞こえる。


やらかした…。


自分からやってしまった…。


僕は数秒後に唇を離した。


「あっ、すみません…」


「全然大丈夫…、むしろ俺が告白っぽかったから…」


お互い目を合わせられなかった。


「け、結局僕らの関係って…」


「付き合ってるけど、ノーコメントで…笑」


その一言で一気に満たされた。


先輩から彼氏認定されたことに興奮が止まらなかった。


まずい…。


目が回る。


ようやくバスが来た。


帰り同様整理券を取って後方の席に座った。


「着いたら起こして」


先輩は酔わないように寝ようとしていた。僕も寝よう。僕ら肩を寄せ合って寝ていた。先輩との日々がもっと、ずっと続きますように。

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