第9片
トイレから出ようとドアを開けると、目の前に見慣れた顔がぬっと現れた。
「……!」
僕は腰を抜かした。
「どうした?急に」
「こっちのセリフだよ!」
僕はレオに対してツッコミを入れた。
「急に走りだしたからさ、どうした?って思って」
レオが聞くと「トイレだけど?」と誤魔化した。それにはレオも気づいた様子で、
「他には?困ってる事あったら言っても良いから」
(急に優しいな、コイツ)とか思いながら、僕は「大丈夫、困りごとな
んかないよ」と答えた。
僕がトイレの個室から出ると、レオがこう言った。
「お前、汗かいてんじゃん」
「え?」
僕は汗をかいていた事がばれてしまった。
さっき念入りに拭いたつもりだったが、まだ残っていたみたいだ。
レオが聞いた。
「本当に何かない?困ってる事」
「実は……」
僕は言葉に詰まりながら本当のことを話した。周りからの視線を意識するようになった事とか、トラウマで能力を使えない事とかを話した。
すると、レオの口から予想外のひと言が飛び出した。
「ごめん!俺が悪かった!」
「は?」
トイレの外まで聞こえるような大声での謝罪に対し、目を見張り思わず言ってしまった。
「マジでごめん。あのいたずらが原因で、能力使えなくなったんだよな」
「まあ、それはそうだけど」
「ごめんな」
「うん。全然大丈夫」
僕は強がってしまった。大丈夫なはずないのに。
そして、お茶を濁そうと、「もう試験戻ろう」と促したが聞いてくれなかった。
「あと……」
僕は(まだあるのかよ)と内心、思いながら聞いた。
するとまた、レオが平常心を失いそうな予想外のひと言を発した。
「実は、周りに僕の能力の事、ばら撒いたの俺なんだ!」
僕は二度目の「は?」を繰り出した。
「ここに、職場体験で来た時とか……ウェザーズモールに遊びに来た時とかに調子乗ってばら撒いてしまったんだ」
(どこまで自分を追い詰めるんだろうか)と、僕が思った矢先、レオが自分から窮地に立つようなひと言を発した。ウェザーズモールとはウェザーヒーロー達が休憩時や退勤時に通うことで有名なショッピングモールだ。
そして間髪も入れずに発した言葉が会話に終止符を打った
「あとSNSとかでもばら撒いてた」
「は?」
僕の三度目の「は?」が炸裂した。
流石に腹が立った。そんな事をしたのに、レオは自分と気安く話していたのか……
僕は最悪の長話を切るように、トイレから出てさっきの会議室に向かった。青空が少し、くすんで見えた。
一方、レオはトイレの中で頽れたまま、しばらく呆然としていた。
マイスキルと彼女のおかげで世界の救世主になりました。 めーあ。 @kaito022349
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