第8片

 僕はトイレの中で、自身が過去に能力が使えなくなった理由を、ふいに思い出した。



【10年前 僕:12歳】

 中学に入学し1週間ほど経ったある日、教室でレオが僕のそばに寄って来た。レオと僕は小学校からの付き合いだった。レオは、僕の知らない人を2人連れて来ていた。


 そう、レオは、もう新しい友達が2人も出来ていたのだ。


 僕はいくら人気ものだとはいえ、レオのコミュ力や気楽さは到底、真似出来ないなと思った。


 レオは、僕の机に手を乗せ、もたれかかりながら小さな声で唐突に切り出した。


「なあ、担任にいたずらしようぜ」


 他の2人が笑う。僕は目を丸くして固まっている。(どうしていきなりそんなことを言うんだ?)と脳内で変換できるまでに時間がかかった。その言葉を伝えると、レオは追撃した。


 「お前なら能力でなんでもできるだろ!」

と言って、レオは笑う。全く返事になっていない。


 僕は(また能力の話か……)と思った。『想像したことが本当になる』という万能型の能力を持つと、このていの頼まれ事が多くなってくる。


 「「そうだよ」」

と、他の2人も頷く。もう一度言うが、僕はこの2人を知らない。知らないのになにがわかるんだよと言いたくなった。


 だが、僕は素直で頼まれ事は全部引き受けてしまう性格だ。


 「だから、担任が教室に入って来た瞬間に上から水を降らせようぜ」

とレオがワクワクしたような顔で言うと、


「それは面白そうだ!」

と、2人がわざとらしく笑った。僕はなぜか頷いてしまった。


 「OK!決定な。」


(本当にいたずらする事が決まってしまった。まあ、そんな大したことではないだろう。)と、僕は軽く考えてしまう。


 そして、僕が心の準備をする余裕もないまま、担任の先生かと思われる足音と声が廊下に響いた。その音が近づいてくる。日差しが差し込む昼休みの教室内に緊張が走る。


「ほら、行け、今だ!」


[ドアの上から水が降ってくる]


この光景を頭に思い浮かべた。すると、担任の先生がタイミングよくドアを開け、入って来た。


 僕の想像通り、担任の先生に水がかかった。その後、僕が想像していなかったことが起こった。

  

 担任の先生が滑って、頭を打ったのである。僕はその後を想像する事をやめてしまった為に、このような事が起こった。担任の先生は幸い、軽い脳震盪のうしんとうで済んだが、最悪の場合死んでしまう可能性もあった。


 僕は校長先生や、生活指導の先生に当然、怒鳴られた。


 この事が原因で僕は想像することがトラウマになってしまった。


 今でも、想像する時にはこの事故が頭をよぎる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る