第3話 『奇襲』

どうも...ロベルト・フィンセントです。

今日は、父、俺、義妹の3人で、フィンセント公爵領地の視察を終え、帰るところでした。


途中までは平和だったのですが、何故か現在...何らかの集団、数十名に囲まれています。


ゲームでもなかったイベントです。

全く意味がわかりません。


「フィンセント閣下、ご家族とともにお逃げください。ここは我々が引き受けます。」


「ッ!駄目だ。...ここに其方らを置いて逃げたのならフィンセント公爵家一生の恥となる!!」


フィンセント公爵家。

この家系の先代や先先代は、いずれも戦場で命果てる事を選んだ真っ当な騎士の家系。


戦場で果てた後、その名誉が讃えられ、2代という短い年月でこの公爵家という地位にまで上り詰めてきた敏腕当主と世間では謳われているが、言い換えれば只の死に急ぎ野郎の家系である。


そして、父もまたその家系の当主。

戦場で散る事に何の躊躇いすらも感じていない。


「ですが!!このままでは...!!」


「フィンセント公爵だな...?」


護衛の声を遮り、集団の中から出てきた長身の男がまるで感情の籠もっていない虚な声で疑問の言葉を投げかける。


「貴様ら、何者だ!!」


「フンッ。」


「ッ!!ふざけるな!!誰の命令で動いてる?!」


「...はぁ。その問答が、無駄だという事が分からんのか?」


「な、何だと?!」


「貴様らは死ぬ。それ以外に何と返せば良いのだ。ここから逃してやるとでも?」


「何?!」


「周りを見ろ。赤子でも分かる事だろう?」


「ッ!」


あの男、異様に冷静すぎる。

数で、圧倒的有利に立っているのは分かるが今彼らが襲っているのは、公爵家...国に支える貴族の中でも上位の地位の人間だ。

襲うとしても、こんなに余裕のある立ち居振る舞いができるだろうか?


「聞け、お前達。私はここに残り、我が兵とともにお前らの逃げる隙を作る。お前達は必ず生き残りなさい...。」


「父さん。」


絶妙なタイミングでの敵の奇襲に、周りの護衛達も父も冷静な判断ができていない。

今のまま戦っても、勝率は半分にも満たないだろう。


「お父様...お別れなんて、言わないで。」


「大丈夫だ、セシリア。私は必ず生きて戻る。ロベルト、後の事はお前に託したぞ。」


ゲーム開始時の時系列はここから約2年後。

その事とストーリーを知っているという慢心が俺にはあった。

だが、俺というイレギュラー的存在がいる時点で、シナリオ通りに物語が進むなんていう考えは既に捨てておくべきだった。


「...。」


クソッ。

打開策を考えている時間も余裕もない。


この包囲網の中上手く逃げれたとしても、俺たちが逃げ出したという事は必ず、すぐにバレてしまう。

それにセシリアの足では追っ手を撒くことは不可能に近い。


1番生存率の高い選択....。


「いや、俺がやる。」


これしかない...。


「なっ...。ロベルトッ!何を言っている!この大馬鹿者がッ!」


「...大丈夫だよ。」


「お兄さ...!」


パチンッ。


半径0.5キロメートル以内の物体、物質をドーム状の魔法防壁で囲む。


これが俺がこの世界に来て、極めに極め抜いた魔法だ。

本来は暗殺防止のために、自力でコツコツと試行錯誤を重ねて生み出した魔法だが、こういう場面で役に立つとは思っても見なかった。


魔力量の消費と効果時間が長ければ、このまま馬車を走らせて強行突破をしても良かったが、効果時間は3分程度、その上、持続間に魔力をジリジリと吸われていく、というまだまだ欠陥の多い魔法だ。


「何だ?!あの魔法?!」


「クソッ、弓を放て!!」


敵が動揺している隙に、直ぐに次の手に移る。

魔法の根源は創造力とその創造力の効力を上手に発揮させる知識、この2つが魔法を行使させる上でもっとも必要な事だ。


だが、俺にはその創造力というものが欠けている。

知識はあっても、創造力がないのならば、その魔法は効力を発揮しない。

そう俺には『魔法』の才能がないのだ。


だが、魔法防壁の様に、単に創造力だけで魔法を行使するのではなく、知識を応用してゴリ押しで魔法を行使する事は一応、可能だ。

その代わりに、魔力量を大分削られてしまうというデメリットがあるが...。


「3分ねぇ...。」


やばい...ゲロ吐きそう。

初めてといって良いほどの対人戦。

見つからない様にダンジョンに出入りして、魔物を狩る事はあったが...。


生きた人を斬るとなると、話が違う...。



心臓の音がうるさい。


世界がスローモションにでもなったかの様に、進まない。

これが、『恐怖』だとでもいうのだろうか?


「ふぅ......。」


「撃てぇ!」


そう、敵の声が聞こえた瞬間、一気に時間が進み出したかの様に現実に引き戻される。


足が重い。

体が重い。


だが、敵は俺の家族を殺そうとしている。

俺がやらなければ、俺の家族は殺されるのだ。


「....ッ!クソッ!!」


俺は腰掛けていた鞘から剣を抜いて、自分の身体に魔法をかける。

一時的に筋力を増加させる魔法と視界を広げる魔法。


前世的の用語で言うと俺の魔法は、ほぼほぼ「バフ」の様なものしかない。


「行けッ!お前らッ!!敵は1人だぞ?!」


「ッオァ!!」


目の前の敵は人間ではない。

人ではないのだ。


そう頭の中で何度も唱える事で、思考を閉ざした。

そうしないと、これからまともに剣を触れないかもしれないと思ったから...。


「ハァ...ハァ...。」


ただ目の前の敵を、飛んでくる矢を、魔法を避けて、敵を斬った。


まだ感触が残るほどに脳裏に焼き付いた人を斬るという感覚が、気持ち悪いほどに手に染み付いている。


「お前...何者だ...?」


「......。」


「ク、クソッ!!来るんじゃねぇ!!」


長身のリーダー的な男が、縦横無尽に剣を振り回す。

どうやら、残ったのは1番風格のあった虚な声をした男だけだった...。


あれだけ、威勢の良い言葉を吐いていた男も窮地になればこのザマだ。


「ごめんな....。」


「や、やめてくれぇ!!」


謝っても済む事ではない。

人の命を絶ったのだから。

許される事ではないとは分かっている。


謝ったのは...ただの俺のエゴだ。

男に剣を振り落とす。


「お兄様!!やめてッ!!」


「ッ?!」


瞬間だった。

後ろから聞こえた声によって、俺の手はギリギリの所で剣を止める。


「...セシ...リア??」


セシリアが俺の方に向かって走って来ているのが、見えた。


何故だ??

魔法が切れたのか??


「こっちに来るな!!セシリア!」


「ハハッ!」


男の笑った顔が聞こえた。

その笑い声に反応して、男の方を見ようと体を反転させる。


「死ねぇ!!このクソ野郎!!」


「あ....?!」


右下腹部の辺りが、一気に熱くなる感覚。

俺は刺されたのか?


右腹をみると、男の左手と、その先には左手に持ったナイフが腹に刺さっているのが見えた。

意識した瞬間、右腹辺りが異常に脈打ちだす。


「....ッ!!」


「ハハッ、し.....!」


俺は止めていた剣を、力の抜けきる前に、全力で振り切る。


「この.....悪魔が...ッ!!」


「ハァ.....ハァ.......。」


上手く息ができない。

俺は...死ぬのだろうか?


「お兄....父様......治療を...早く!!」


セシリアの焦った声が、意識が呆然となる中、聞こえた。

最後に俺の視界に映ったのは、泣きながら俺の腹部を押さえているセシリアの顔だった。

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異世界に転生したら、義妹が乙女ゲーの悪役令嬢でした。~今世は義妹をハッピーエンドに導きたいと思います。~ 蜂乃巣 @Hatinosu3268

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