第5話 まよなかのほうもんしゃ

 寝ることにしたのだが、ベッドに寝転がってスマホを開く。寝る前のルーティン、パクシブパトロールである。フォローしている絵師さんが更新していないか、新たな神絵師は誕生していないか、俺のオタク生活において大切な時間である。


 と、暗い部屋の中でブルーライトをがんがんに浴びていると玄関のドアを開ける音がした。タイミングが悪いと言うべきか……。まあ、俺のところに来なければ別にそれでいいんだけど。


「康太〜、お腹すいた〜」


 やっぱりやつは俺の部屋のドアを開けながら大声で言ってくる。そんなことだろうと思いました。なんでいい感じに睡魔が襲ってきたタイミングで帰ってくるかな。


「自分で作れよ」


 俺はドアに背を向けて冷たく言う。それでも諦めることなくやつは俺の部屋の電気をぱちんとつけた。こっちの話を聞きやしない。ていうか、どう考えても寝に入ってるだからこっちのこと考えてもらってもいいですかね?


「なんでよ〜、バイトで疲れたお姉様に夕飯作るくらいどうってことないでしょ〜?」


 俺のベッドにどすんと座ってやつはぶーぶーと文句を垂れた。きれいに染め上げられた茶髪をゆるく巻いている今時風の彼女は俺の姉である中村 遥である。夜十一時に帰ってきて弟に夕飯を作るようせがむ姉である。


「仕方ないなぁ……」


 俺は眠い目を擦って立ち上がった。作ろうとしているというのにやつはまだ不満そうに唇を尖らせている。その顔を使えるのは合コンで出会った同級生男子だけだということをやつは知らない。


「何よ、高校通うためにうちに下宿すること許してやった恩を忘れたわけ〜?バイト頑張ってあんたの食費だって出してあげてるのにさ〜」


 大学に通っている姉の家からのほうが登校が楽だったために、俺は姉の家に下宿させてもらっている。まあこんな感じでのらりくらりと生きているので親とは会うとすぐ口喧嘩になるのだけれど。だからなのかここ最近、正月でさえ実家に帰っているところは見ていない気がする。


「はいはい、わかりましたよ。お姉様、ディナーを作りましょうね」


 金が無いのは親にそんなうるさく言うならいらなーいと突っぱねたからだ。俺の分の金はさすがに出すと言ったのに、それすらも突っぱねて。そのせいで最近、大学にはろくに行っていない気がする。


「どうせあんたも晩ごはん食べずに寝ようとしてたんでしょ?不摂生は許さないんだから。ほら、行くよ」


 口うるさい親のことをうざがっているくせに、しっかりその血を受け継いで口うるさい。でもそれを指摘すると本当の不機嫌になるので言わない。まあ、晩ごはんを食べずにいようとしたのは本当に良くないしね。


ピンポーン


 姉さんと2人でキッチンに向かっていると家のチャイムが鳴った。只今の時刻、23時。こんな時間に来客なんて普通来ないよな?


「え、今チャイム鳴った?」


 姉さんは空耳説を推しているらしいが、俺の耳にもしっかり聞こえているから無理がある。でも、こんな時間に何者……?不審者……?姉さんを狙ったストーカーとか。


「鳴った、確実に」


 俺は頷きながら姉さんと目を見合わせた。中の物音が全て聞こえる訳では無いと分かってはいるけれど歩く足まで止めてしまった。さあ、ここからどうするべきか。


ピンポーンピンポピンポピンポーン


 どうすべきか戸惑っていると連続してチャイムが鳴った。早く出るように催促しているようだ。いや、でも……。


「い、居留守使う?」


 姉さんが怯えた表情で言った。俺もそうしたいところだけれど多分それには無理がある。だって23時だし、電気ついてるし。


「いや、出るしかないだろ」


 俺は怯える姉さんの近くを離れて玄関へと向かった。このままにしておいたら襲撃してくるかもしれないし。大人しく、真正面から迎え撃つのみ……。


「ちょ、ちょっと待った!」


 姉さんが俺の服の袖を焦ったように掴んだ。その手にはお玉が握られている。そして臨戦態勢と言うがごとく、振りかぶる姿勢で構えていた。


「え、姉さんが出るの?その方が無理だろ」


「い、いやでも弟を危険な目に合わせられないって言うか……!」


 こんなところで姉風吹かせられても……。とは思いつつもその男気(女気?)は無下に出来ずに、結局2人で玄関に向かうことにした。そして結局俺がドアを開ける。


「は、はい……」


 そんなふうに迎えるにはだいぶ時間が経ってしまって不自然だけれど、あくまで普通に。するとそこに立っていたのは黒づくめの怪しげな男、ではなく……。俺より頭一つ分小さい黒髪の美少女だった。


「出るの遅せぇんだよ、この花畑が」


 俺を見上げて鋭く睨む大きな赤い目。そう、そこに立っていたのは水間 恵だった。ある意味黒づくめ不審者より驚きなんだが……。


「え!?めっちゃ可愛い!!康太のお友達!?」


 俺の後ろから身を乗り出した姉さんが水間を見て大きな声を出した。こんな時間に近所迷惑な……。水間も貧乏ゆすりしてて怖いし、姉さんの興奮は冷めやらぬ感じだったので俺はとりあえず猛獣を家に招くことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年12月13日 00:02 毎日 00:02

猛獣系美少女が本当は猫系デレツンデレ美少女だということは同盟組んだ俺しか知らない 雪宮 楓 @yukimiya0715

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画