4 同棲? そして
受付は事務的に終わった。
事務的すぎて、あの戦い以降の事が全て夢か気のせいだったと感じる位に。
戦闘の認定についてとか、ドローンの話もなかった。
何もかもが夢のようだ。
建物も何処にでもある無個性なコンクリート製。
それが俺から失われかけていた現実感を引き戻す。
受付終了後、貰った案内を見ながら建物内と渡り廊下を歩いて男子寮へ。
「部屋は302号室だ。郵便物はそこにある郵便受けに入れてある。 連絡事項等もそこに入れる事があるから、朝と夕方には確認するように。あとは生徒心得に書いてある」
入口にある寮監室でいい加減な説明を受けた後、部屋へ。
階段を上って2つめの部屋の扉をカードキー開ける。
中は狭い玄関口と靴脱ぎ場、ベッドと作り付けのロッカーがある6畳位の部屋。
個室なのはありがたい。
そう思いつつ中に入り、バッグを置いた後回れ右をして扉を閉めたところで。
めまいがした気がした。
今までそんな事は無かったのに。そう思った直後。
「ようこそ、これからはおかえりなさい」
えっと思って振り向く。
扉を閉める前と同じなのは、床に置かれたバッグだけ。
目に入ったのはさっきよりずっと広い玄関と靴箱、明るい廊下。
そして前にいたのは先程消えた筈の地雷系女子、灰夜紺音だ。
ゴスロリ服は着替えたようで、今はダブダブの黒色長袖トレーナーとやはり黒色の短パン姿。
「ここは男子寮じゃないのか?」
わけがわからな過ぎて、適切な質問が出来ない。
「此処は男子寮でも女子寮でもない空間。扉を閉めると繋がるように設定した。だから一緒に居ても問題ない」
先程まで手元に戻っていた現実感が、また吹っ飛んでいった。
空間を繋げるなんて話、出るのはSFかファンタジー位だ。
あと一緒に居るとは、彼女もこの部屋に住むという事だろうか。
それは同棲ではないのか。
ついエロな方向に想像がいってしまう。
「寮も危険区域。だから大急ぎで創った。入って」
大急ぎでつくった!? もう常識ポーンだと感じつつ、彼女に誘われるまま中へ。
そこそこ広い部屋にソファー、テーブル、そして対面式のキッチン。
部屋の奥には広い窓があった。外は森だ。
「此処は学園島のどの辺なんだ?」
なんとなく聞いてみる。
「島とは別の場所。ン・カイの森」
「何県?」
「遠い場所」
追及しない方が良さそうだ。
「此処なら安全で便利。必要な設備は全部そろえた。風呂や洗濯で共同のに行かなくていい」
確かにそれは楽かもしれない。
寮内で元第6生徒会の3人と出くわすのは避けたいから。
「此処はリビング。その扉の向こうが大翔の寝室で、寮の部屋にあった荷物を入れておいた。そっちの扉が私の寝室。向こうの扉がトイレ、その向こうが洗面所と風呂」
同棲だけれど寝室は一緒じゃない訳か。エロい期待は外れたけれど、その方がきっと無難だろう。
「あと風呂も食事も準備済み。どっちにする?」
そこは『ご飯にする? お風呂にする? それとも私?』ではないだろうか。
なんて妄想は思っても顔に出ないよう押し込めて。
「ありがとう。それじゃ風呂に入ってくる」
同棲で風呂だと、どうしてもエロい想像をしてしまう。
しかし寝室が別だし、そんな事はないだろう、きっと。
バッグからタオルと着替えを取り出して、風呂へ。
浴槽も洗い場もうちの実家より広い風呂で、さっと身体を洗い、浴槽へ。
思い切り足を伸ばせるし、左右にも余裕がある。
思わず鼻歌の一つでも出そうになった、その時だった。
洗面所の扉が開いて、誰かが入ってきた。
風呂の引き戸の型ガラス越しに服を脱いでいるのが見える。
「俺、まだ入っているけれど」
「同じ時間に入った方がさめにくい。合理的」
ガラス戸が開き、灰夜が入ってきた。見ては申し訳ないと思いつつ、上から下まで見てしまう。
彼女はさっきで俺が座っていた風呂の椅子に座り、身体を洗い始めた。
これはアリなのだろうか。しっかり観察すべきだろうか。見てはいけないと思いつつも、つい視線がそちらへと……
身体と神を洗った彼女は、髪にタオルを巻いた後立ち上がって、俺がいる浴槽へ。
流石にここは理性を働かせて、こう聞いてみる。
「出ようか」
「問題ない」
彼女は俺の向かい側に腰を落とし、足を俺の横に伸ばす。
彼女の足が思い切り俺の尻の横に振れた。
当然俺の足も、同じ状態だ。
これは残念だけれど、まずいだろう。
だから仕方なく、俺はこう言ってしまう。
「流石に一緒に風呂に入るのはまずくないか。一応お互い微妙な年齢だしさ」
「私は気にしない。でも大翔がそう言うなら念のため」
俺の身体にぴりっと軽い電撃が走った。何だと思った次の瞬間、俺は気づく。
「同じ浴槽に入っている時だけ動けなくした。身体機能に関わる部分は問題ない。これなら安全上も問題ない」
動けない。手も腕も、足も首も……
◇◇◇
そうして状況は今に至る訳だ。
未だに何がどうなっているのか、俺は全く理解出来ていない。
しかし既に俺はこの学校に入校手続きをしてしまった。
住むのも此処で灰夜と一緒が確定。
何がどうなっていて、この先どうなるのだろう。
何もわからず、身体も動かせないまま、俺は浴槽でため息をついたのだった。
JK³(地雷系、邪神の化身、女子高生) 於田縫紀 @otanuki
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