第12話
翌日、僕はDJバトルの会場についてセットアップを確認する。
参加者を見ると年上だらけだ。でも僕は不思議と僕は緊張しなかった。これは野球の経験が生きているんだろうと思う。
今までも大事な試合の負ける寸前に打席が回ってくる事もあったし、アウトにするからしないかで勝負が決まるギリギリの状態で難しい打球を処理した事もあった。
だれにも負けない準備をした。その自信が僕を落ち着かせた。
僕の出番が回ってくるとステージに上がる。ステージが明るいので客席は暗くて見えない。
流石に緊張が僕を包む。
でもどこかで今日はナオとクリとジュンが見てくれている。「僕はみんなの隣に胸を張って立ちたいんだ」心の中でそう誓う。
「テツー頑張れー!」
ナオの声がした。その瞬間僕はきっとニコッと笑ったに違いない。ナオのその言葉で緊張が解ける。
フェーダーの動きを軽く確かめてヘッドホンをつける。右手でレコードを動かしフェーダーをオンにする。
「フッーー。」大きくため息。
10分間の僕のセッションが始まった。
会場のライト、観客の声、全てがクリアに聞こえる。
「(ナオの声はあっちからだったな。きっとあそこにいるんだろうな。ナオも見てくれてる。)」
最後にレコードを離しフェーダーを切る。そのフォロースルーで僕は動きを止める。
一瞬静寂が会場を包みこむ。
そして雪崩のように歓声が沸き起こった。
僕は照らされるライトの中肩で息をしながら会場に礼をして離れる。
会場の外でナオが待っててくれた。
ナオは僕を見つけると笑顔で手を振って僕に飛びつく。
「テツ。凄かった。かっこよかった。」
「テツ。優勝してもどこにも行かないでね。」
「何言ってるんだよ。どこにもいくわけないだろ。」
ナオは泣いているようだった。
ナオの涙は喜びと共に少しの不安も含んでいた。
僕の心は常にナオと一緒だし、クリとジュンと一緒だ。
「俺お前らに並べれたかな?」
僕はクリとジュンに聞く。
「何言ってるんだよ。お前は最初から俺たちと友達だろ?お前が何者でもそれは変わらねーよ。ナオも泣くな。ナオが泣いてうろたえているテツ見てみろ。だらしなくていつものテツと変わんないだろ?」
ナオが顔を上げて僕の顔を見る。
「テツ…何その顔。変なの」
僕達はそのナオの言葉で笑いに変わった。
この空間いつまでも続くといいな。本当にそう感じた。
その後に結果発表があった。
結果僕は優勝…
とはいかなかったが2位となった。
今回参加メンバーの中では最年少で2位だった。
僕の名前が呼ばれた時に会場がどよめいたのでよっぽど珍しかったのだろう。
表彰式の後にバトルに参加したメンバーで検討を称え合った。
何人かから「君めっちゃクールだったよ!」ってレコグニションを貰った。しかも参加していた何人かのDJの連絡先を交換する事ができた。
このバトルの参加で僕はDJ仲間が増えるきっかけとなった。この一歩が未来の可能性を広げる第一歩だった。
僕は着替えてみんな待つ入り口まで向かった。
今回の経験は僕を一回り成長させた。
なんかいつもと違う景色が広がっている。そんな気にさせた。
「あっテツ…2位おめでとう!せーの!」
コンビニで買ってきたクラッカーを会場の入り口でナオとクリとジュンが鳴らす。
「あ、やべ」
警備員が駆けつけてくる。
「逃げるぞー」
ジュンが走り出す。
「何やってんだよもう!」
「いやクラッカーはナオのせいだぞ!」
「えへへへごめーん!」
やっぱりこのみんなと一緒に過ごすこの時間が好きだ。僕はここが僕の居場所だと再確認する事ができた。
次の更新予定
【変遷する風景】—僕が強くなる理由は君の隣に立つため— @Ta-1
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