絶望の足跡
藍無
第1話 その闇人は。
冬の真っ白な雪が降る、とてもとても寒い日。
真っ暗な夜を、店のネオンや、ビルの電気が照らす。
夜なのに、明るい。
そんな中を、一人の
その
普通なら不審に思うであろう格好だが、誰も彼のことを見ていなかったし不審にも思わなかった。
「なあ。」
少女は、
「なんですか?」
と、やや警戒しつつ答えた。
「お前、あと10日で死ぬぞ。」
その瞬間、少女は、ぱぁぁっ、と輝くような笑顔になった。
「冗談だとしてもうれしいです。そう言ってくれてありがとうございます。」
と、その少女は言った。
闇人は、変な人間だな、と思い、
「死ぬのが怖くないのか?」
と、聞いた。
少女は、
「怖くないです。こんなゴミみたいな腐った世界にいる方がよっぽど嫌ですよ。」
と、言った。
闇人は、
「お前、変わった人間だな。」
と、言った。
「_、そうかもしれませんね。」
少女のほうも、自分が変なことを言っているという自覚があったので、そう言った。
「あと、さっき俺が言ったことは冗談じゃないぞ。」
その闇人の言葉は、少女の心の中にすんなりとはいってきた。
そんな体験は、嘘だらけのこの世界で久しぶりに感じたものだった。
干からびた心に、雪がしみこむような、そんな不思議な感覚だった。
少女は、
「あなたは、嘘をつかないんですか?」
と、闇人に聞いてみた。
初対面の人に聞くにはすごく変な質問だが、なんとなく聞いてみたい気がしたのだ。
「俺は、嘘を、つくこともあるかもしれないが、それは人間相手にはしない。」
闇人は、少し戸惑いながら、そう答えた。
「ふふっ。まるで、自分が人間ではないかのような答え方ですね。」
少女は、自然に笑い、そう言った。
少女は、久しぶりに自然に笑った気がした。
――いつも、作り笑いばかりだから。
「__、そうかもしれないな。」
闇人は、そう答えた。
「今から私、家に帰るんです。」
少女は言った。
「そうか、気をつけろよ。10日後まで死ぬことはないが。」
闇人は言った。
「良かったら、うち、来ませんか?」
少女はそう聞いた。
なぜそんなことを聞いたのか、それは、彼と話しているとなんだか懐かしい感じがして、もっと話していたい、と思ったからである。
「俺がお前を殺す可能性は考えないのか?」
闇人は尋ねた。
「それならそれでいいんです、早く死にたいですし。」
少女はそう言った。そして、
「別に私が死んだところで誰も悲しまないし、誰も_何も感じないでしょうから。」
と、少し目を伏せて言った。
「そうか。いってもいいのなら、行く。」
闇人は、静かな声で、そう言った。
「じゃあ決まりですね。」
少女はそう言って、闇人に手を差し出した。
「?」
闇人は、首を傾げた。
「手、つなぎましょうよ。それなりに人が多いですし、駅とかではぐれたら大変ですから。」
嘘である。
先ほど、闇人と出会う前、闇人の存在感がすごく薄いせいで、声を掛けられるまで視界にその闇人が目の前から歩いてきていることに気が付かなかったのだ。
つまり、存在感がとても薄いから駅などの人がたくさんいるところで、その闇人の存在を絶対に視認できないだろうな、と思ったから少女はそう言ったのである。
「_、いいよ。」
闇人は、そんな少女の思いを知ってか知らずか、手袋をした手を差し出した。
二人は、手をつないで歩きだした。
そんな二人を、夜の月が静かに見ていた。
絶望の足跡 藍無 @270
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