第7話 私は魔法を使えますか。
「リンダ、火と水と風の魔導書は持ってきたんだよね?」
「あ、はい、持ってきました」
アルベルトの言葉に持参した魔導書を見せた。火と水と風、それぞれの属性の初級魔法の魔導書。
魔法属性はたくさんあるが、大体、魔法が使える六割以上の人が火か水か風にあてはまる。
リンダなら、モブキャラクターなら、きっとこの三つのどれかだろう。
その他の魔導書はアルベルトとデュランが持ってきてくれた。魔導書は高級品だ。値段は属性の希少さに応じて跳ね上がる。
魔法属性は火、水、風、氷、雷、土、治癒、光の8つがある。
六〜七割くらいが火、風、水のどれか。氷か雷か土が三割足らず、治癒と光は一割にも満たない。光はほぼほぼ王族しか使えない。
だから今回も光の魔導書は持ってきていない。アルベルトは家にあるとか持ってこようかとか怖いこと言ってきたので、丁重にお断りした。
アルベルトのローレル公爵家はエタロマのどこかの作品で光の王女と結婚しているから、あってもおかしくないけど持ってきて欲しくなかった。光の魔導書一冊で王都に家を一件建てられるくらいの値段だから、持ってきて欲しくなかった。
王族じゃなくても光魔法を使える人はいるし、なんなら攻略キャラクターとして出てくるのは知ってるけど、リンダには関係ないだろう。
光を除いて、アルベルトは治癒と雷の魔導書を、デュランは氷と土の魔導書をそれぞれ持ってきてくれた。
魔法属性の確認は、とりあえず全部使ってみる、なのよね。一番強く反応したのがあなたの属性ですよ、って見分け方。らしい。
アルベルトとデュランが私の前に魔導書を差し出してくれる。
「アルベルト様、さすがですわ。治癒魔法の魔導書なんて、初めて見ました」
「たまたま家にあっただけですよ、僕の力ではありません」
ティナも興味津々な様子は見て取れるが、魔導書に触ろうとしない。さすが貴族。心得ている。出来れば私だって手に取りたくはない。子供にしれっと持たせるものじゃない。
「じゃあ早速試してみようか、リンダ。どれから試す?」
「多分違うと思うので治癒から試して良いですか。その魔導書をお借りする時間を、できるだけ短くしたいです」
「じっくり見ても構わないのに。どうぞ」
そう言って、アルベルトは魔導書をあっさり手渡す。じっくり見ることはせず、さっそく試すことにした。
初めて手に取る魔導書。もっと気楽なのから試せばよかったと思うがもう遅い。
初めて見る魔導書……。
「……えっと、これって、どう使うのでしょう」
「あ、そうか、習ってないよね」
四英雄みたいに特別な家系じゃない限り、魔導書を使って魔法属性を確認するのは学園入学前。今はそれより五年以上前。そしてバーチ家は四英雄と関係ない。
つまり根本的な魔導書の使い方がわからない。
その私を助けるために、アルベルトが私に近づき、魔導書を覗き込む。
覗き込んできた至近距離のアルベルトには目もくれず、手の中の超高級品から目を逸らさない。
ティナから視線を感じるが、さすがに高級な魔導書を持っているときに何かするほど彼女もわからない子ではないと思いたい。というかわからない子ならデュランがなんとかして欲しい。
「では、やってみます」
一通り使い方を習った私は、魔導書を読み上げた。
リンダは、治癒の魔導書を使った!
しかし、何も起こらなかった!
……え?
これはもしかして……魔力なし?
魔法属性はどの魔法が適しているかだから、魔力の有無とは別だ。属性が違っていても少しは魔法が発動するはず。
なのに何も起こらない。
ん? ということは魔力なしなの?
もしかして、だからリンダは戦闘には参加しないし、アルベルトの婚約者候補でもなかったの?
納得がいってしまい、内心はあわあわと焦りながら、体は固まっている私に、冷静に声をかけたのはデュランだった。
「治癒属性ではないようですね」
「そうだね、じゃあ次は何を試す?」
アルベルトも明るく次の魔導書を渡そうとしてくる。
「え、あの、これって、魔力なしなのでは……」
「いえ、光と治癒の場合は、属性者じゃなければ何も起こりません。魔力があっても」
「デュラン様の言うとおりだよ、何も起きない方が普通だから。最初に言えば良かったね、ごめん。初めて試すには向いてなかったかな?」
向いてないよ! 言ってよ!! 知らないよそんなの!!
と、二人に対して怒ることもモブの分際でできるわけがない。
「光と治癒以外は魔力があれば反応しますから、本来は他の六属性を試して反応がなければ治癒、最後に光を試すんですよね」
そういうことは本当に教えてほしかった。治癒の魔導書を手に取る必要なかった。
ん? そうするとゲームのあのキャラクターたちって……と、ふと疑問がわいた。
「光属性と治癒属性の方は、他の魔導書だと反応はあるんですか?」
「いいえ、光と治癒の属性者は他の魔法は一切使えません」
「光も治癒も、すごく魔導書高価ですよね? 一般的に手に入りませんし。そうすると実は光や治癒属性なのに気づかず魔力なし、ってなりそうじゃないですか?」
「そういう人もいるでしょうね、俺達のような家に生まれていると、そうはいかないでしょうが」
なるほど。このゲームには光属性も治癒属性も攻略キャラクターとして出てくる。一人は魔法属性を見つけるのに苦労してたけど、そういう事情があったのね。
そして四英雄の家に生まれたら生まれたで、大変なんだろうな……。そう思えるくらいに、先ほどのデュランの物言いは、俺たちのような家に生まれたことを否定的に感じられた。
「それでリンダ、次は何を試そうか? 火はどう?」
アルベルトが自らの属性を無邪気に勧めてくる。火は嫌だ。でも試さないわけにもいかない。
「では、一度火を試したいです」
嫌なことはさっさと終わらせるに限る。
火の魔導書を手に取り、読み上げる。
すると、ライターくらいの火が、一瞬パッとついて、消えた。
……これは? どういうこと?
正解のわからない私が三人を見ると、ティナがにっこりと微笑んだ。
「リンダ様は火属性ではありませんわね!」
よかった!!
「魔力が弱いわけではないのですね?」
「うん、見た方がわかりやすいよね。ちょっと貸して?」
そういうアルベルトに火の魔導書を手渡す。
「少し離れて」
アルベルトが火の魔導書を読み上げると、その手の上にバレーボールくらいの大きさの火球が現れた。
「わぁ! すごいですわ!」
ティナが声を上げる。
確かに、私のライターとは比べものにならない。
「デュラン様もお願いできますか? 属性かそうでないか、見たほうがわかりやすいと思うので」
「そうですね」
アルベルトはデュランに魔導書を渡した。同じようにやってみせたデュランの火は、私とあまり変わらなかった。
なるほど、属性かそうでないかは、結構はっきり違いが出るものだな。
「魔力があることはわかったわけだし、他の魔導書も試してみようよ」
確かに反応があったのは嬉しいことだった。アルベルトは、次はこれね、と風の魔導書を手渡す。
そよ風が吹いたが、私がやったのか本当に風が吹いたのかはわからなかった。
アルベルトとデュランはティナを見て、ティナは首を横に振った。風属性のティナからすると、風属性ではないということらしかった。
水の魔導書を使ったところ、小さな水球がいくつか浮かんだ。今度はアルベルトとティナがデュランを見た。
デュランは首をかしげた。
……? 首をかしげる……?
みんなの視線を受けて、考え込んだ様子でデュランはつぶやいた。
「違うとも言い切れないですね……。他の属性も見てからの判断になるかと思います」
じゃあ他の魔導書を、と思い伸ばした手はアルベルトに止められた。
「少し休憩しようか?」
「魔法の発動が落ちますからね」
「わたし、お茶したいです」
アルベルト、デュラン、ティナの意見が一致していたので、気づいたらどこかだるい感覚になっていた私も、お茶がしたいです、と賛成した。
私は単なる支援キャラクターですよね? それって無課金ルートに限りますか? みしまりま @msm-remind
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