本作は小説として未完です。誤解を怖れずに記せば、そう言えます。
ホラー小説は恐ろしいですが、恐怖を最大限にかき立てるために因果関係をつまびらかにします。これなら怖いよ、そう言わせるのが王道です。
本作は逆張りをします。意図的に不明点を残します。まるで、友人から聞いた話のように……
作りものである小説が明確で、現実が不明確。この逆説に、小説として挑む連作をお書きになる作者による一作です。
血が出るから、殺されるから、恐いんじゃない。自分の身近で起きた出来事すら説明がつかないから、世界への信頼が壊れていく。そのとき読者の精神は、事故の際に「世界」の方を守る緩衝材、発泡スチロールに過ぎません。
世界の終末を映画館でポップコーンを頬張りながら観るのとは真逆の、我が身を揺らす体験となります。