第6話 自傷癖
渡辺「何ィ!?」
食堂の中では…。
高級そうな金の装飾が着いた黒いペン…。
渡辺の高級ボールペンを分解して弄くり回している瑞希の姿があった。
渡辺「お前何してる!?それは私のペンだァ!!!」
瑞希「うわ!びっくりした…。太郎さんが渡辺さんの胸ぐらを掴んだ時に落ちたみたいで、持ってたんですよ」
誠也「渡辺さん『まずい!』ってコレのことですか〜…懐弄ってましたもんね…」
渡辺「落ちてたからって弄くり回すんじゃない!それ高いんだぞ!オイ!」
瑞希「それがですね…。落ちた拍子に、壊れちゃったみたいでして…」
渡辺「は?」
瑞希の手元のボールペンをよく見てみると、縦にヒビが入り、少し割れていた。
誠也「うわ酷ェ。何でこうなるかな〜。コレもう修理は無理ですよ」
渡辺「…ッ!私は誰に怒鳴れば良いんだ…!いや!そんな事より山下は居ないのか!?」
瑞希「え?来てませんけど」
誠也「え〜?おっかしいなぁ。確かに屋敷の中に」
太郎「私は少しお手洗いに行かせてもらってたよ」
太郎はそう言いながら、鳩を抱えて帰ってきた。
渡辺「山下…
太郎「…私は鳩をかかえているんだぞ?」
渡辺「その状態の鳩は動かない習性があるんだ…。片手で持てるだろう。ハンカチはどこだ」
太郎「…上着の左のポケットだ。何がしたいんだ」
太郎は半ば呆れながら片手で鳩を持ち
渡辺は太郎のハンカチのポケットに手を入れる。
渡辺「ぬれていない。ハンカチが濡れていないぞ。本当に化粧室に行ったのか…?」
渡辺が太郎をギロリと睨む。
瑞希と誠也はグッと息を呑む。
太郎はハァとため息をつく。
太郎「私の手をよく見てくれ。濡れているだろう。まだ拭いていないだけだ」
渡辺「なッ…!クソ…
渡辺が山下から離れる。
太郎は半ば気持ち顔を緩める。
瑞希は少し笑う。
誠也はナンセンスギャグを見た時の様な顔をする。
太郎「渡辺さん…いや君か?まあいい。推理をして人を犯人だと思うのは『コウノトリを信じてるような子供に無修正ポルノを見せつける様な下卑た快楽』があるだろうが…。あまりやりすぎは辞めた方が良い」
渡辺「…殺人より辞めた方が良い事なんて有ると思うか?」
太郎「…少し、顔を洗ってきたらどうかな?気持ちをリフレッシュできる…」
渡辺「…失礼するよ」
ギィィ…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
と言うことがあったのだ。
自身の脳髄に絶対的自信を持ち他人を見下した節の有る渡辺からすると、今のタッタ10にも及ばない様な数の言葉の交わし合いこそ、記念すべき…否、忌むべき最初の
自身の推理を真正面から完膚なきまでに叩きのめされ、諭され、自分と山下とはこれ程の差が、溝が、壁が有るのだと嫌と言うほど理解してしまった。最終的に強引なる屁理屈での皮肉擬きしか捻り出せなかった自身の大脳を恨み祟り攻めているのだ。
渡辺「クソ…忌々しき山下太郎!!…だがそれ以上に!言葉が浮かばず
ガギィッ!
渡辺は壁に自分の頭を思い切りぶつける。
ガギィ!ガギィ!ガギィ!
ぶつける。ぶつける。ぶつける。
渡辺「このまま拗ねて伝書鳩に参加しなかったなら…!私は中学生と同じだ…!!!ここで切り替えろ!!」
ギィィ
渡辺「遅れてしまった。すまない」
太郎「渡辺くん…。伝書鳩がどうやって手紙を届けるか知ってるか?」
渡辺「帰巣本能という動物の巣に帰ろうとする特性…」
誠也「そうなんです。だからこの鳩を放っても巣に戻っちゃうと思うんです」
渡辺「落ちた橋から山の麓までどれくらいだ?」
瑞希「?…多分1kmくらいね」
渡辺「それくらいなら運が良ければ都市に行くだろう。落ちた橋の所に行こう」
誠也「それが良いですかね」
太郎「運…?運だって!?ふざけないでくれ!命がかかってるんだぞ!?」
渡辺「今のままなら可能性すら無いじゃないか。1%でも可能性があるなら乗った方が良い」
太郎「そう…だな。昼食を取ったら出発しよう。徒歩で山を降るのは夜までかかるからな」
太郎は目の端でチラッと時計を見る。
時計は両針とも12を指していた。
瑞希「キッチンに作り置きを探してくるわ」
渡辺「今は2人で行動した方が良い。私も行こう」
誠也「朝から食わないと流石にお腹空きますね」
太郎「橋は結構な麓にある。ちゃんと食べた方が良いな」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
渡辺「意外と作り置きがあったな」
瑞希「全部高級料理ですよ!お腹空いてきたな〜」
つづく
【犯人は渡辺】推理小説・ホトトギスの館 東西無駄無駄 @basekura8888
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