第5話 銃と博打と疑いと

渡辺は今かつて無い程に不機嫌だった。

その訳を話すには10分ほど時を戻さねばならない。


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渡辺が瑞希を説得しボイスレコーダーを渡した後、渡辺は紙を探しに行った。

ペンはあるのだが、詳しい状況を書ける程の大きさの紙が無かったのだ。

渡辺は、紙を見つけ食堂に戻る途中の廊下で1人ふと呟く。


渡辺「…今井は私の味方についたのだろうか…。些か不安が残る。おそらく山下の野郎も泉や今井に私と同じような事をしていた筈。最悪、戻った瞬間刺される。泉が落とせないまま2vs2の現実での格闘リアルファイトになった時の事も想定しておかなければな…。しかし、私にはこいつがある」


そう言い、渡辺は背広の内ポケットから銀色に光る武器を取り出した。

下手すれば武器から凶器にもなり得るそれを持ち、渡辺は多少口元を歪ませ、狂気を孕んだ微笑を作った。

まるで、10年間追い求めた親の仇を殺し、静かに狂喜している様な笑みだった。


その銀に輝く準凶器は、十特ナイフでは無かった。

コルトパイソン357マグナム2.5インチ。


日本では決して手に入るはずも無いそれは、ギラギラと光る拳銃ピストルだった。


ピストル


日本生まれ日本育ちの骨の髄まで日本人であるはずの渡辺吉影には到底持ち得ない、現代において最も手軽に人を殺せる火薬兵器である。


渡辺「色々あったがやっと彼奴を殺す機会が手に入ったんだ。殺してみせるぞ…!他の何を犠牲にしてでもッ!!」


誠也「東京都奥多摩、亡憂村6の1の…ゲェーーッ!渡辺さん」


渡辺「!?」


渡辺は咄嗟にピストルを懐に戻す。

幸い、誠也が渡辺の後ろから来たおかげで、ピストルは見えていない様だ。


渡辺「…お、おい泉…。ゲェーッ!は無いだろうが…」


誠也「ハハハ、すいません。あ!住所わかりましたよ!奥多摩の亡憂村…」


渡辺(こいつ…朝は私を怖がってた癖に、もうフレンドリーに話しかけてきやがる。バカか?危機管理能力を身につけろってんだ。ケッ!しかしこれは好都合。こちらもフレンドリーに接して懐柔し、じっくり山下が犯人だと吹き込んでやる)


渡辺「なうい村ァ?漢字はどう書くんだ」


誠也「えっとぉ、亡霊の亡に、憂いの憂です」


渡辺「うい?あぁ、憂いか」


誠也「そうですよ。そう言えば、渡辺さんはこんな所で何してるんですか?」


渡辺「手紙を書く紙をな」


渡辺は取ってきた紙を見せる。


誠也「ふーん。でも紙が見つかったなら部屋に戻りましょう。もう太郎さんも戻ってましたよ」


渡辺「あぁ、そうだな…うん?」


渡辺「お前……!?」


誠也「え?あぁ、僕が住所は表札の下だって思い出して外に行ったら、玄関の隣の部屋あたりの壁に立ってまして、そのままドアから屋敷に入って行きまして…。鳩は捕まえてましたよ」


渡辺「それならお前も玄関から入っていけば良いだろう。何故ここから来た」


誠也「結局見つかんなくて、書類室を調べてたんです」


渡辺「なるほど…」


渡辺(泉め…。こいつも結構怪しいな。山下を見ておいて話しかけなかったということだろう…?私には話しかけておいて…。山下が玄関の隣の部屋…隣の部屋?)


渡辺「ハッ!!」


渡辺(奴は食堂での我々の会話を聞いていたァーーーーッ!!)


渡辺(山下は先に食堂に戻った。奴は殺人鬼。食堂には私が先程に説得した今井…)


渡辺「まずい!早く食堂に戻るぞ!」


誠也「え!?」


渡辺(これは賭けギャンブルだ…。殺人鬼やましたが今井を殺す前に食堂に戻れるか、と言う賭けギャンブル!!私も結構な命知らずギャンブラーだな…。九分九厘負ける賭けギャンブルに乗って。今逃げれば良いものを…)


ダダダダダ…


誠也「渡辺さんどうしたんですか!?チョコット待って下さいよ…!」


渡辺「着いたッ!食堂だ!」


誠也「ふぅ〜疲れた」


ギィィ!!


渡辺「なッ…」


誠也「え?」


渡辺「何ぃ!?」


続く

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