神界転生~神のいない世界へ転生しようとしたら、神界に来ちゃった⁉︎~

乙桜

現世~神との勝負編~

第1話 神と父

俺の父親は狂っている。


「ただいまー!」


いつも通り高校から帰宅する。すると、いつも家にいる父親は


「おう。おかえり。じゃあ今日も”いつもの”やるぞ。手洗ってから本堂に来い。お前も今日から高校2年生だ。一種の区切りなんだからいつもよりも効き目のある儀式をする」


俺こと桜 藍塁の父親、桜 哀悲は言う。


俺の父親は本気で神がいると思っている。そこまではいい。


一番悪いこと、それは神を信じる父が俺にもそれを押し付けてくることだ。


勿論だが、俺は神を信じてない。世界は神が興したなんて地学的にそんな訳ない。

さらに、よく「お天道様は見ているよ」と言って親が子を躾けることがあるが、神が見ているからと言って背筋をピンと伸ばして胸を張って生きていかなければならないのは、とんでもない苦痛だろう。神なんて見たことがないんだから。

ましてや、世界のどこでも見られて、なんとなく人の思考を支配できるような超常的な存在がいてたまるかとも思う。


小さい頃は、仏像の前で1時間正座して、父親がボソボソと何か唱えるのを聞いているだけで良かった。


しかし、最近の父は仏像の前で俺も念仏(?)を唱えるように強制してくるし、そうしないといとも簡単に俺のことを殴ってくる。

 「神はお前をみているぞ」って言って。

それなら神罰が下るのは父、お前だろうと思いながらも、痛いのは嫌なので仕方なくやっている。


「わかったよ。じゃあ仏像のある本堂に行けばいいんだね。新しく何をするって?」

「いいから手洗ってから来い。その後説明するから!」


俺は玄関に入り、右に曲がって洗面所に向かい、石鹸でよく手を洗う。

ゴシゴシと洗ったら、ついているタオルで水気をよく拭き取って、玄関を出て本堂へ向かう。

本堂の中には父が待ち構えていて、


「まずはいつものだ。できるよな。」

「はいはい。できますよーっと」


俺は正座し、膝の真ん中で右手と左手を重ね、一回深呼吸をした。


「すーーーはーーー」

 


一息で


「我ら生物の活気の源・太陽の神、我ら生物の源・水の神、我ら気づかずして不可欠な・空の神、我らの足立つを支える・地の神、我ら................(以下略)」


長い文章を言う。

よくよく聞くとなんかいろんな神の話をしているだけで、一つ一つはそこまで長くない。

太陽、水、空気、大地、月、力、などなど。


父によると、それらは実在するものらしい。

一回父はそれらの存在と出会ったことがあるみたいだ。

人のような形をしていて、こちらの思考を口に出していないのにも読んでくるような、そんな存在らしい。

それは寝ている時に起こったらしくて、俺は夢なんじゃないかと父に言ったことがあるが、父はそうでないと言う確信があるかのように自信満々にそんな訳ないだろうと一蹴された。


「よし。きょうはしっかり声が出ているな。いいぞ。神様もきっと喜んでいるだろう。じゃあ新しい儀式のやり方を教えよう」


そう言って父は新しい布のようなものを仏像の下から取り出した。


「これは私がいわゆる”神“に出会ったきっかけをおそらく作ったものだ。私はあの時、お前のおじいちゃんつまり私の父だが、が持っていたこの布で遊んでいた」



あれは父とかくれんぼをしていた時だった。

私はいい隠れ場所がないかと家中を探し回っていた。

ついに見つけたその場所は仏像の下、つまりこの布が入っていた場所だった。

当時小学一年生だった私はあの小さい隙間に入ることができて、そこで鬼であった父が探しにくるのを待っていたのだ。

しかし、父もついぞ見つけられなかったらしい。

おかげで長いことそこに隠れることになってしまった。

その時俺は寝てしまった。この布に包まれて。

その時に夢に出てきたのだ。

これは神だと一目で分かった。

その神は自らを◯◯◯◯と名乗った。

彼は「神の神」らしい。


「あなたたちの概念にもあるでしょう。太陽の神とか、時の神とか。そう言う神たちのさらに上位の神ですよ。私は」


彼はそう言うとどこかに消えていった。背景は真っ白な空間だった。だから多分彼は「白」になったんだと思う。彼は説明の中でそのほかの神の権能の一部は操れると言っていた。


その時急に目の前が眩しくなって目が覚めてしまったらしい。



「そんなことがあってから、私は一度も神と会っていない。なぜあんなものも見てしまったのか、私にもわからなかった。だが、それは私の父が知っていた。あの布は神の虫とも呼ばれる蚕の絹糸を使ってできているものらしい。しかもそれを何もほかの不純物、ノリや漆などを使わずに作っているらしかった。父は多くを語ることなく、お前が生まれる1ヶ月前に死んでしまった」


父は言った。

俺はその布をよく見た。

白というか綺麗な銀色をしていて、祖父の時代からあったとは思えないほど厳重に保管されてきたのが窺える。


「それで俺はそれをどうすればいいの」


「お前にはこの布に包まって寝てもらう。それが新しい儀式だ」


なるほど、父が神を見た状況を再現しようとしていることを察した。


「まずは服を脱いで洗濯したものに着替えてこい。これは見ての通り神云々に関わらず貴重なものだ。痛んだりしたらかなわん」


「わかったよ。着替えてくる」


俺は一回本堂を出て家へ戻る。そして2階に上がり、右の扉を開けて自分部屋に入る。箪笥を開けて、新しい服を出し、着ていた服を脱いで洗濯カゴに入れて、着替えた。

そして、もう一度本堂へ行く。


「おう着替えたな。そうしたらこの上に寝転べ」


「おっけー」


どうせ何もないだろと思いつつ銀色の高そうな布の上に寝転ぶ。

すると、父が布を俺の体に巻き付けてきた。俺が左側に寝転んだから、時計回りにだ。


「ちょ、何してんの。身動き取れないんだけど」


「実は、俺も何回かこの布をかぶって寝てみて試してみているんだが、うまく行ってなくてな。だからできるだけ当時の私を再現しようとしているんだ。我慢してくれ」


そういうことかと理解し、全身から力を抜いた。


「これで寝ればいいんだよね」


「そうだ、流石にその状態じゃ寝れんだろう。アイマスクとってくるからちょっと待っておけ」


妙なことに気を使うなと思ったが、当時の再現だと思えばどうってことなかった。小学一年生の眠りが浅いわけがない。

俺はもう高校2年生でもはや来年には受験も控えている身で、いつの臨戦体制だ。

この本堂がいくら薄暗いとはいえ寝室にしては十分明るい所で熟睡するのは厳しいだろう。


父はこんなので本当に神とあったのだろうか。こんな簡単なことなら結構誰でもあっていそうだなとも思う。平安時代とか綿とかないだろうし、寝る時には、絹の布団しかなさそう。


そんなこと思っていたら、父が戻ってきて


「ほれ、アイマスク」


父がアイマスクを投げてきた。


俺はそれをつけて


「おやすみ」


徐々に意識が遠のいっていった。







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2024年12月18日 21:00
2024年12月22日 21:00
2024年12月25日 21:00

神界転生~神のいない世界へ転生しようとしたら、神界に来ちゃった⁉︎~ 乙桜 @chynoteberry

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