冒険者クリア、空を見上げる。

「なー、テラー、これって薬草かなー?」


 森。

 茂る木々の中にぽっかりとあいた野原。そこに生えた草をむしって持ち上げながら、背後で同じように薬草を探しているテラに、振り向きながらオレは問いかけた。


 そう。おわかりだろうか。

 オレ、生まれて初めてのクエストを受注してる。

 すごくね?

 プルガダンジョンから戻って二週間ほど経った。マックから合格をもらって、そこからなんやかんやすげえバタバタして、今日やっと初クエストを受注できた。

 長かったー。待ちわびたぞ。


「私にもわかんないわよー。ダンジョンには薬草なんて生えてなかったんだからー。すぐ横にバーバラさんがいるんだからそっちに聞きなさいよー」


 テラはオレを見る事もせずにそっけなく答えた。

 仕方ない。オレは隣にいる、昔は可愛かったらしい、今はしわがれた婆さんの顔を見る。

 婆さん教えて?

 そんな顔に。

 もちろん婆さんは首を横に振る。


「自分で考えな。さっき薬草の特徴は全部教えたよ」


「えー」


 魔女の婆さんさっきからスパルタなんだよー。教えてくんないんだよー。だからテラに聞いたのにー。わかんねえってー。ここにある草は全部オレにとって食える草って認識なんだよ。これも食えるし、あっちのも食えるし、あっちは食えるけど苦いやつなんだよ。

 ん? てかあの苦いやつが、婆さんの言ってた薬草の特徴に似てね?

 そこまでちょっと走ってって、草をむしって戻って婆さんに見せる。


「婆さん、これか!?」


「ああ、正解だよ。でもね、根っこをきちんとしないと納品物にはならないよ。バカだね、クリア坊は」


 婆さんは静かに笑った。


 またバカって言われたけど!?

 でもそんな事よりも、今婆さんが笑えててよかったな、とオレは思う。

 元パーティメンバーだったマックがあんな事になって婆さんは本当に沈んでいた。多分責任を感じていたんだろうと思う。そんな婆さんをほっとけないと言ったテラがオレの初クエストを手伝ってもらう口実で外へ連れ出した。


 そう、ダンジョンから脱出した後はほんと大変だった。

 オレとテラがマック爺さんを連れてギルドに帰ると、ガルグの街は騒然となり、それは一週間ほど続いた。


 ま、それもそうだよな。

 もうすぐ貴族にまで至ろうとしていたゴールド級冒険者が実は裏で長年に渡って人を殺し、その殺した人間のスキルを使っていたんだ。しかもゴールド級パーティのメンバーだと思われてたのはマックのスキルによって操り人形にされていた死体だったんだから。

 やっぱ死体だったのかー。そりゃーオレと行った時のダンジョンアタック中に誰も喋んねえわけだよなー。死んでんだから喋れねえよなー。ウーピーとトーイはあの時にはまだ殺されてなかったから普通に喋ってたわけだけど。次のオレの試験の段階ではもう殺されてスキルを奪われていた。

 そんな彼らはオレがマックのスキルであるハンドインザスター天の器を掃除した段階で一部を残してチリになって消えた。残されていたのは殺されたてだったトーイとウーピーの肉体だ。それが物的証拠になってマックの自供の裏付けとされた。

 それらの自供と証拠によって、マックはガルグの街の犯罪者収容所に収監された。


 そして結局最期までマックは教会との繋がりは言わなかった。

 全て自分の独断、欲望のままにスキルを用いて人を殺し、スキルを奪い、地位と名声と金の全てを手に入れようとしたのだと供述した。そしてギルドマスターのボルドはそれをそのまま受け入れた。

 実に事なかれ主義のボルドらしい。だけどオレもそれが良いと思う。オレもマックが教会と繋がっていると言った事は言わなかった。下手に教会を疑ってかかってこの街のみならず、国を越えて大陸中に権力を持ってる教会を刺激する必要はどこにもねえ。んなもんに巻き込まれたらオレの冒険者ライフがまた危うくなるのは、『ダンジョンの入り口を見るがごとく』だ。


 そしてマックはその収容所で死んだ。


 それが一週間前。


 苦悶の表情で死んでいたらしい。

 どう見ても自然死ではない。だけど収容所には誰も出入りしていない。牢は個室で同室はおらず、鍵も開けられていないし、見張りも異常はなかった。

 何一つの不自然なく。

 一つの不審死がそこにあった。


 だがこれもまたなかった事にされた。


 犯罪者の死体としてその日に炎で清められ天に帰された。


 オレが憧れた冒険者は名も無い犯罪者のチリとなった。


 あの日も今日みたいに晴れてた。

 かつてマックだったチリは天に昇っていった。


 オレは今日も空を見上げる。

 マックもオレと同じでスキルに踊らされた冒険者だったんだと思う。パワーウォッシュってスキルに絶望したオレもテラに出会わなかったらダンジョンで死んでいた。マックも魂を教会に売り払って冒険者として成功をおさめたが、大事だったバーバラ婆さんとは離れ離れになって、最後は名もなきチリになった。


 冒険者は自由で金も稼げて美味い飯を食えて良い生活ができるけど、一つやり方を間違えればすぐに転がり落ちてそれは人生が終わるまで落ち続ける。

 でもオレは冒険者になる事を選んだ。

 冒険者で食っていく事を選んだ。

 

 そうだ。オレはこっから冒険者になったんだ。

 ぜんぶはこっからだ。


 テラと一緒に。


 バーバラ婆さんに小言を言われながら。


 成り上がろう。マックと違うやり方で。ちゃんとしたやり方で。

 オレを生かしてくれたこの街に恩返しすんだ。


 手の中の雑草と空の青を眺めながらオレは誓った。

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ギルドで清掃ばかりしてたオレが授かったのはお掃除スキルのパワーウォッシュ~絶望の淵で出会ったのはダンジョンボスの女の子だった~ 山門紳士@穢れ令嬢メイベルシュート発売中 @sanmon_j

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