第2話 大波乱は突然に
「あれ、赤坂先輩じゃない!?」
「登校姿から綺麗だわ〜。」
「ねー!流石四大天使様って感じ!」
そんな声が廊下から聞こえる。
四大天使の1人、
一宮高校3年5組の彼女はまさしく『大和なでしこ』と呼ぶに相応しい見た目に加え、県内模試1位の頭脳を持っているとんでもないやつである。
ついでに俺の事が嫌いだ。
俺が殴ったのは赤坂栞でなく別の天使様なのだが、悪評というのはすぐ広まるもので…
事件を起こした次の日には彼女から直々に『二度と私と関わらないでください。』とまで言われる始末。
例の事件さえ起こさなければ、赤坂栞とまだ仲良くやれていたのだろうか。
まあ今更そんな事考えても意味無いし、今日一日の予定でも考えよう。
いつもと同じ、誰とも話さない平和な一日を過ごすにはどうするか……
「失礼します。宮倉一成はいますか。」
平和な一日が終わりを告げた。
「お、おい赤坂先輩直々にこのクラスに来たぞ。宮……サタンは何したんだ?」
「また天使様の誰かを殴ったとかじゃね?」
「うっわ、ありそう。」
クラスがざわつき始めた、いかんなこれは。
……にしても、赤坂栞が俺を呼び出しか。
二度と私と関わるなと言ってきたのにそっちから呼び出しって……は?
ふつふつと怒りが湧いてくる。
「……はい、俺ならここに。」
とはいえ俺が名乗り出ない事には何も進まない。嫌々名乗り出ることにした。
「宮倉君にちょっと話があるので、HR後に生徒会室までお願いします。」
――生徒会室。その響きだけで不快だ。
全ての元凶の場所であり、俺が1番忘れられない場所でもある。
「どうしても行かなきゃダメですか。」
「はい。拒否権はないです。」
「……分かりました。」
拒否権はない……か。そりゃそうだよな。
なんたって俺は、
♦︎♦︎♦︎
HR終了後、俺は重い足取りで生徒会室へと向かっていた。
「静かだな。」
生徒会室は別棟にあるため、渡り廊下を通っていかなければならない。
放課後にもなればそこそこ人がいるのだが、なんせ朝のHR後だ。別棟に行く人なんてほとんどいない。
「……着いちまった。」
なんて事を考えていたら、いつの間にか生徒会室の前まで辿り着いていた。
すう、はあ、と深呼吸をして一度呼吸を整える。俺にとってここに入るのはそれだけ勇気のいることだ。
「失礼します。」
コンコンとノックをし、生徒会室へと入る。
「よく来てくれました。宮倉一成くん。」
「随分と他人行儀になりましたね。まあ、俺が悪いんですけど。」
赤坂栞は来客用ソファーに腰かけており、『あなたも座りなさい』とでも言いたげな視線を送ってきている。
なんで俺があんたの横に座らなきゃいけないんだよ。と言いたい。
「で、お話というのはなんでしょう。」
「まあそう急がないことです。軽い世間話でもしませんか?」
「お断りします。この後の授業に間に合わなくなるんで。」
「……全く、変な所で真面目ですね。」
生徒会書記であるあんたが不真面目なのもどうかと思うんだが?
「さあ、本題を話してください。」
「……私はあなたが嫌いです。」
「何を今更。もう耳が腐るほど聞きましたよそのセリフ。」
「結論を急ぐのは宮倉君の悪いところです。治した方がいいですよ。」
ダメだ、どうにも話が読めない。
俺が嫌いだからなんだ?そこから広がる話なんてとうの昔に尽きたんじゃないのか?
そんな考えが頭を駆け巡る。
「私はあなたが嫌い、この事実は変わりません。ですが――
――申し訳ないとも、思っています。」
赤坂栞から発せられたその言葉に、俺の理解は追いつかなかった。いや、追いつこうとしなかったと言う方が正しいかもしれない。
「申し訳ないって……何がですか。」
「四大天使という立場は、私の思っていた以上の影響力でした。それ故に、あなたが学校で孤立するようになってしまったことを謝りたいと、そう思っていたんです。」
要するにこの人は俺に対する謝罪をしたくて、嫌いで嫌いで仕方ないけど我慢してここに呼んだと。
なんだ、そんなことか。
「は、ははっ。」
「……何がおかしいんですか。」
「謝る気も大してないのにそんな申し訳なさそうな雰囲気を出してる先輩は面白いなーって思ったんです。」
「……そんなことは。」
『本心から謝罪してくれたのかも』なんて淡い期待を持っていた俺はアホだ。
「嘘をついてるときは髪を触る、ですっけ」
1年の頃、とある事情で生徒会室に行き来していた俺が気づいた赤坂栞の癖だ。
今回も俺と話し始めてから髪をいじり始めていた。つまり………
「いや、私は本当に……。」
「だったらなんで『私はあなたが嫌い。』が謝罪より先に出てくるんですか。本当に申し訳ないと思ってるのなら、その嫌いという気持ちを隠してでも謝罪するべきです。」
「……っ!」
そんな怖い顔するなよ天使様。
ご自慢の顔が台無しですぜ。
「もちろん、嫌われるような事をした俺が悪いのは言うまでもありません。ですが――
――誠意のない謝罪ほど、されて傷つくものも無いと思います。」
そう、これでいい。これでいいんだ。
この人に嫌われるような事をした俺が悪いのは当然。これ以上責め立てるのは良くない。
「じゃあ、そういうことなので俺は教室に戻りますね。」
「……待って。」
肩を掴まれ引き止められる。
その行動に対し、俺は何も言わなかった。
「私は……会長。いや、
神宮寺言葉。俺が殴ってしまった張本人。
全ての発端であり、俺の事を世界で1番嫌っているであろう人だ。
生徒会書記である赤坂栞は恐らく、会長である神宮寺からあることないこと吹き込まれてるのだろう。んで、その事実確認をしたかったのが今日の本来の目的という所か。
まあ、返す言葉なんて1つしかないな。
「俺に聞かなくても分かることですよ。」
「……そうですか。」
その言葉を最後に俺は生徒会室を退出した。
なんとも言えない不快感を抱えながら。
「……朝から最悪の気分だ。」
2番目に会いたくない人物と会い、1番会いたくない人物の名前まで聞くことになるとは思いもしなかった。
多分、そう遠くないうちに神宮寺言葉とも顔を合わせることになるに違いない。
あー、まじで胃が痛い。
「あ、宮倉さんじゃないですか。」
……余計胃が痛くなってきた。
「海崎…だったっけ?なぜここに?」
「サタンが四大天使に呼び出されたって、軽く騒ぎになってたのでつい。」
「つい、じゃねえよ何してんだお前。」
「まあまあ、要件は他にもありますから。」
げっ、絶対めんどくさいやつじゃん。
「今週の土曜日は空いてますか?」
「……まあ空いてるけど。」
「じゃあモール集合でお願いします。この前の話の続きも聞きたいので。」
「え、なんでわざわざそこ?別に駅前のカフェとかでよくね?」
ショッピングモールと言ったら数駅離れた所にあるはずだ。
「駅前のカフェなんて行ったら100%在校生に見つかりますよ。ショッピングモールなら人多いですし、よっぽどの事がなければ宮倉一成だって分かりません。」
なんか……うん。俺の事を気にかけてくれるのは分かるんだけど、その『よっぽど』が起きそうで無茶苦茶不安だ。
「……てか、俺はともかくお前がバレるかもしれないだろ。」
「大丈夫です。私友達いないので。」
海崎の目のハイライトが消えた。
先日の過ちから何も学ばなかった馬鹿な俺に今すぐビンタをかましたい。
「あーそうだな、行くか。」
「目のハイライト消して同情してもらおう作戦も案外上手くいくものですなんですね。」
「え?」
「ということで、土曜日の10時ぐらいにショッピングモール入口で待ち合わせということにしましょう。」
何が『ということで』なの?
目のハイライトって意図的に消せるの?
この謎が解明するまで夜も眠れないよ?
「じゃあ私は教室に戻りますね。」
「あ、うん。またな。」
海崎は去っていった。
まじで何がしたいのあいつ。
次の更新予定
2024年12月12日 21:15
学校の四大天使様に嫌われている件 にゃー畜 @rurumiman
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