学校の四大天使様に嫌われている件

にゃー畜

第1話 四大天使様に嫌われている件

突然だが、『ぼっち』という単語を聞いたことはあるだろうか?

ほとんどの人は『YES』と答えるはずだ。


だがしかし!


真に『ぼっち』と呼べるほど孤立している人は少ないのではないだろうか。

真の『ぼっち』とは俺、宮倉一成みやくらいっせいのようなやつの事を指す。


例えば今は昼休みであるわけだが、俺は校舎裏のベンチで1人悲しくパンを頬張っている。

別に『席が陽キャに取られていた…』とかではなく、単に教室の雰囲気に耐えられなかっただけなんだけども。


「どうしてこんなことになったんだか…。」


誰もいない校舎裏のベンチで呟いた一言は、誰にも聞こえないはずだった。


「……あの…そこで何されてるんですか。」


声の聞こえた方向を見れば、名も知らぬ女子生徒が俺のことを怪訝な顔で見つめながら立っていた。


「見ての通り、昼飯を食べてるだけだ。」

「なんかブツブツ独りごと言ってたので、薬物でもしてるのかと。」


独り言普通に聞かれてますやん。

話が違いますやんそれは。


「……てか、俺が誰なのか知って話しかけてるのかお前?」

「もしかして偉い人だったり?」

「……本当に知らないのか。」

「知りません。あなたは何者なんですか?」


この事を説明したら多分、こいつは俺を嫌いになるか、関わりたくないと思うだろう。

まあ今更1人増えたところで変わらない…か。


「学校の四大天使様っているだろ?」

「あーはいはい、いますねなんか。」


「その四大天使様をぶん殴ったのが俺だ。」


思い出したくもない記憶。

けど俺のことを知らないと言うならば、説明するのも俺の


「んでもって付けられたあだ名が『悪魔サタン』だ。笑える話だろ?」


さあ、こいつはどんな反応をする?

ドン引きするのか、走って逃げるのか、俺をぶん殴るのか、説教するのか。


「へー、そうなんですね。要するにあなたは凄い人じゃないと。」


その回答は想像とはかけ離れたものだった。


「いや、まあうん。凄い人じゃないのはそうなんだけどさ、今はそこじゃなくない?」

「逆にそこ以外どこに触れるんです?」

「いやいや…四大天使様を殴ったんだぜ?村八分ものだろ普通に。」


まあ実際されてるようなものですけどね。


「自覚あるならなんで殴ったんですか?」

「……それは言えない。」

「なんですかそれ、アホらしい。」


言えないものは言えないんだよなあ。

言ったことがバレたらどうなるか……。


「アホとでもなんとでも言え。ほれほれ事情が分かったなら帰った帰った。」


俺と話してたらあることないこと言われるぞ。

とは流石に言い出せなかった。


「お断りです。」

「そりゃまたなんで?」

「こんな面白い話、滅多に聞けたもんじゃないですから。」


こ、れ、が、面白い話だァ〜〜??


「なんも面白くないわ!早く帰れ!」

「いやいや、M1ぐらい面白いですよ。」


もはやM1に対する冒涜だろコレ。


「というか、そこまでして払いのけようとする理由はなんですか?嫌われ者のあなたが女子と話せるまたとないチャンスですよ?」

「……あのなあ、俺はお前を心配して言ってるんだぞ?話してるところを見られたら何言われるか……。」


俺の言葉を聞いた目の前の女子の顔が曇る。


「あなたに心配されるほど私は弱くないです。勝手に恩を売った気にならないで。」


なんだ……?

この怒られてるのに嬉しい感覚……。

俺、もしかしてドMだった?


なんて冗談は置いておいて、多分俺が嬉しく感じてる原因はこの目の前の女子にある。

『俺とではなく、一人の人間として話してくれた』という本当に単純な理由ではあるが。


「ごめん、そんなつもりじゃなかった。不快にさせて本当に申し訳ない。」

「……自分も言いすぎました。ごめんなさい。」


互いに謝罪したことで張り詰めた空気が少し和らいだ…ような気がする。

謝罪って大事だね。


「それにしても……なんというか、その。」

「なんだ?言いたいことがあるなら言ってくれ。クレームは慣れてるんだ。」

「とてもあなたが四大天使を殴るような人には見えないなーと思いまして。」


名も知らぬ女子生徒よ、見る目がないな。

俺はよくある冤罪系じゃなく本当に四大天使様を殴ったんだ。


「もし仮に殴ってたとしても、それなりの理由があって殴ったとか……。」


前言撤回、見る目あるよ君。


「……ビンゴ、ビンゴだよそれ!」

「急に元気になりましたね……。」

「お前相手だから言わせてもらうが、俺はちゃんと理由あって四大天使様…あいつらを殴ったんだ。元々暴力なんて好きじゃない。」

「で、その理由というのは……?」


話しても信じてくれるかは分からない。

実際、今までは信じてくれないやつばかりだった。


けど、こいつならもしかしたら……


「話は高校1年の頃に遡る。」

「うわ、なんか長そう。」


この話をする上で、先にこの高校の伝説について話しておかなければならない。

ここ一宮高校は常に四大天使様と呼ばれる生徒が学校に存在している。これはどういうことかと言うと、『1人四大天使様が卒業すればまた1人四大天使様に相応しい生徒が入学してくる』という謎のサイクルの事だ。


もちろんだが、四大天使様と呼ばれる美少女達に男なら一目会ってみたいと思うだろう。

彼女達目当てにこの高校に入学する生徒も多いと聞くし、俺も例に漏れず友人と共にこの高校に入学したわけだが……


「ちょっと待ってください。」

「なんだ、話の途中だぞ。」

「私、あなたの名前知りません。」


うん、確かに自己紹介してなかったわ。


「宮倉一成だ。2年3組。」

海崎紫音うみさきしおん。2年6組です。」

「同い年だったのか。てっきり1年かと…。」

「……馬鹿にしてます?」


ジト目でこちらを見る海崎。

なんというか……可愛いなおい。


「違う違う。俺の噂を知らない2年なんて居たんだなーって不思議に思っただけ。」

「友達いなさすぎてその辺疎いんですよ。」


あかーん!地雷踏んでもーた!!

まあ俺という存在が地雷みたいなもんやけどな!ガハハ!


「……ゴホン。じゃあ話の続きを。」


キーンコーンカーンコーン

昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。


「もうこんな時間かよ……はあ。」

「話の続きは今度聞かせてもらいますよ。」

「今度?今度ってなんだ……」


海崎がサラサラと紙に何かを書き始める。


「はいこれ。じゃあ私は教室戻りますね。」

「なんだこれ……連絡先?」


今どき紙に書いて渡してくるなんて古風なやつだな。と思いつつ連絡先を追加する俺であった。


♦︎♦︎♦︎

――宮倉一成の独り言――


ここで1つ、言っておかなければならないことがある。


俺は孤立しているが何か物を隠されたり、暴力を受けているわけではない。

ただただ、『孤立』しているのだ。


もちろん俺を嫌う層は一定数いる。だが興味無いやつの方が大半であり、うっすら噂を知っているやつらは俺と関わるのを辞めた。


それだけの事だ。


元から友好関係が広かったわけでもない俺が孤立してしまうのはある意味必然なのかもしれない。


え?友人は一人もいないのかって?


そんなわけないだろ。

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