結
鳴り響いた鐘の音にアリーシアは慌てて白い鐘の方へ振り返る。しかし真後ろに鎮座する白い鐘は揺れることなく静寂を貫いていた。にも関わらずゴーン、ゴーンと再び鐘の音が聞こえてくる。アリーシアは慌てて両耳を手で塞ぐ。
「アリーシア!」
イアはアリーシアの腕を引っ張って耳から手を剥がす。
「イア!やめて!」
叫ぶアリーシアの顔をイアは両手で挟んでじっと瞳を見つめる。
「アリーシア…ちゃんと聞いて」
イアに見つめられた瞳は僅かに赤く、涙を溜めていた。
「嫌よ…聞きたくない…」
そう言ったアリーシアの目の下をイアが親指で撫でる。
「鳴っているのは外の鐘よ。もう起きなきゃ」
アリーシアはイアの手に自分の手を重ねる。
「だったらイアも一緒に帰ろ?」
イアは視線を落として首を横に振る。
「私はそっちには行けないわ」
「どうして?!前は一緒にいたじゃない!」
「アリーシア…わかっているでしょう?」
アリーシアがかぶりを振る。
「わかってないわ…」
声は震えていた。
「あなたはちゃんとわかっているわ」
イアは両手をアリーシアの顔から離す。
「だからこっちで私に会いに来てくれるんでしょ?」
「でも!」
掴もうと手を伸ばすアリーシア。それより早くイアはアリーシアを鐘塔から突き落とす。
「イア!!」
叫んだ声は夢か現実か、自分の叫び声で目を覚ましたアリーシアは朝日の射す窓の方に視線を向ける。外からはゴーンと鳴ったあとの余韻が尾を引いて聞こえている。
ベッドから起き上がったアリーシアは窓を開け、鐘塔のてっぺんに鎮座する大鐘の色を確認する。
見事に黄金色。それだけを見てすぐに窓を閉める。
アリーシアは夢を見ていた。
それだけのこと。それだけのことのはずなのに…。
アリーシアは目尻から流れた涙の跡を親指で拭う。その時の親指がアリーシアにあの優しい指先を思い出させる。
アリーシアはもう一度大鐘の色を確認する。
どうか白くあれ、と願いながら。
フレットバーグの白い鐘 維七 @e7764
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