転
ゴーン、ゴーン
鳴り響く鐘の音を合図にアリーシアは目を開く。目の前に現れた鐘塔を見上げるとそこには真っ白の大鐘が日の光に照らされ輝いている。
アリーシアが辺りを見渡すと少し離れた物陰から人影が現れる。
「お待たせ」
と言って手を振るアリーシアにイアはやれやれ、と言いたげな表情で
「待ってないわよ」
と返す。
「そう、よかった」
と言ってアリーシアは笑う。
「アリーシアあのね…「ねえ、イア!雪って見たことある?」
アリーシアはイアの言葉を遮って尋ねる。
「あるわけないでしょう?フレットバーグでは降らないもの」
それを聞いたアリーシアは得意げになる。
「それがね、降ったのよ!ほんの少しの間だったけど」
「本当なの?どうだった?綺麗だって聞いたことはあるけど」
アリーシアは自慢げな表情になる。
「すっごく綺麗だったわよ!例えるなら…そうね、羽毛みいたいな。白くてふわふわで、でも羽毛と違ってキラキラ光ってるの。それが沢山空からひらひら降りてくるの!」
イアは少しだけ唇を尖らせる。
「ふーん、いいわね。私も…」
不意にイアの頬にヒヤリとしたものが触れた。イアは空を見上げ、ひらひらと舞い降りるふわふわとしたそれを手のひらで受け止める。
「これって…まさか!」
「そう、雪よ。イアに見せたかったの」
しんしんと降る雪は勢いを増し、次々とイアの手のひらにのってはすぐに体温で解けていく。
「綺麗…」
イアは思わず感嘆の声を漏らす。
「ならもっと見晴らしの良いところに行きましょう!」
そう言ってアリーシアはイアの手を引いて走り出す。
「ちょっと!」
慌てるイアの手を引いてアリーシアは空気の階段を登りはじめる。降る雪の結晶の中、二人は螺旋を描いて空へと登っていく。
「あそこに座りましょう!」
町が一望できるほどの高さまで来たアリーシアとイア。鐘塔のてっぺんに鎮座する白い鐘の下に腰掛けられそうな所を見つけたアリーシアがイアを連れてそこへ向かう。
並んで座り、そこから町を見下ろす2人。
刻々と町の様子は変化する。降り止まない雪は少しずつ町を白く染めていく。
「綺麗ね」
呟いたイア。
「そうね」
とアリーシア。しばらく二人は白く染められていく町を見下ろしていた。
「屋根が真っ白になっちゃった。道もね。こんな風になるのね!」
「…見たことあるんじゃないの?」
「言ったでしょう?少し降っただけって。こんな風になるほど降ってないわ」
それを聞いたイアは、なあんだ、と言って大袈裟に呆れた様子を見せる。
「イアと一緒に見たかったから取っといたのよ」
「それらしいこと言って誤魔化そうとしても無駄よ。それに言っていること滅茶苦茶じゃない」
むーっと唸るアリーシアをイアが笑う。それにつられてアリーシアも笑う。
こうしている間にも降り続く雪はフレットバーグの町から白以外の色を消していく。
「本当に白一色になっちゃったわね」
イアが町並みを見下ろしながら言った。
「道、通れるのかしら?」
「行ってみる?」
アリーシアが尋ねるとイアはかぶりを振る。
「嫌よ。冷たそうだし」
「ふふ、変なこと言うのね」
イアはムッとして
「わかってるわよ。こういうのは気分の問題なの」
と言ってそっぽを向いて見せる。それを見てアリーシアは楽しげに声を出して笑う。
「ねえ、イア」
アリーシアが声をかけたその時だった。
ゴーン、ゴーン
と再び鐘の音が鳴り響いた。
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