第2話

世界の技術は飛躍的に進化した。データの中に仮想空間を作り、そこに意識の信号を入れる事で仮想空間の中に入り込む事が出来るようになった。昔のVRと言えば機器を通して視界に3Dの映像を映し出すものだったのだが、今の主流は仮想空間の中に入り込み、現実さながらのような世界を楽しむフルダイブ型だ。


脳の信号を通して身体を動かすため、現実で身体を動かすのとそう変わらない。様々なゲームが出来ていったが、僕は動物と戯れるタイプのやつしかやった事がない。でも動きには自信がある。一度物理的に虎の尾を踏んで森の中を駆け回った事があったからだ。


「うっ…嫌な思い出が…」


まあなんであれ、苦手な訳じゃない。人が怖いだけだし、ひたすらモンスター狩りに徹するとか、やりようはあるだろう。そう思った。


その時、メッセージの着信音が鳴る。湊人からだ。


「そういやゲームの名前…聞くの忘れてたっけ。」


送られてきたのは明後日、一緒にプレイする予定のオンラインゲームの公式サイトのURLだった。


『Free fantasy online』


自由な幻想の世界で、現実から解き放たれて遊びましょう。どうやら日本でしか発売されてないらしい。


「っげ、プレイヤーキルありなのか…。やだな…。いや、でも…森の奥底でモンスター狩りに勤しんでたら気付かれないでしょ…。多分」


配信日を確認すると、何と…今日の午後8時だった。現在の時刻は午後6時。2時間後には配信開始だ。


「…ちょっとだけやろっかな」


このゲームをプレイするハードは持っているし、思いの外ゲーム自体の値段も大した事はない。簡単に手を出せると思い、カートに入れ購入した。


(レベリングだけしといて足を引っ張らないようにしないとね)


鼻歌まじりに夕飯の支度をする。おたまに軽く出汁を掬い取って啜る。本当ならこんなに手間暇をかける必要などないしどうせ一人暮らしなのだからもっと軽く済ませてもいいのだが、あいにく彼は形から入るタチだった。


「ご馳走様でした…。」


食器を水につけて置いておき、いろいろな家事をしているうちにあっという間に時間は経っていった。


「スタートしたら速攻で街から逃げよ…。」


あくまで目的はレベリング、キャラの育成でしかない。湊人はベータ版?をプレイしていたようだし、きっと足を引っ張る。ただでさえ色々心配をかけているのだ。それは避けないと。


ソファに横になりデバイスをセットしてから、目を瞑る。


一瞬だけ、意識が途切れる。次の瞬間、月音はどこかの遺跡で幾つかのウィンドウを見ていた。


『キャラクターグラフィック設定』

『ステータス設定』

『初期種族、ジョブ設定』

『スキル設定』


の四つだった。キャラクターグラフィックはランダム設定にしたので特に言う事はない。リアル寄りにしたらもし元いた高校の奴に会ったとき、絶対に嫌な思いをするし…。


ステータスは防御と体力以外に振った万能アタッカーにした。特に深い意味はないが攻撃を受けて痛い目には遭いたくない。なら一撃で楽に逝けた方が楽だ。


「種族はぁ…。なにこれ、ユニーク?」


初期選択可能種族と言う枠に書かれている種族とは別に、もう一つ項目があった。


【野狐】

狐の獣人、魔法の扱いに長け、固有の幻覚魔法を取得可能。

種族ボーナス:幻覚魔法習得可能、消費MP4分の1効率化


「野狐って…妖狐の中で1番位の低いやつじゃん…。ユニークって言うぐらいだからレアそうだけど…。」


少し悩むが、きっと何かしらの伸び代があるはずだ。この幻覚魔法とやらで場をかき乱す事も出来るかも知れない。そう思って野狐を選択する。次に、ジョブ設定…だが、不意に一つ目に止まった物があった。


【霊術師】

霊を操り、共に戦わせる事が出来る。ただし、霊は自らの手で仲間にしないといけない。

ジョブボーナス:魔力成長率up、霊術スキル習得可能


「…これでいいか。対人戦になっても不意打ちに使えそう。」


月音は性格が悪かった。


最後に名前の設定。これは…


「名前を入れ替えて狐…とか?いや、安直かな…。」


うーん…と唸りながら考える。しばらくして…


「祈祷 いつね…とか?」


名前を入れ替えただけである。月音は発想力が微妙に足りなかった。


『ようこそ、自由な冒険の世界へ』


完了ボタンを押し、開いたポータルのような物に向け、足を踏み出す。


「さ、行こう!」


己を奮い立たせるかの様に言って、ポータルに飛び込むのであった。

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霊媒お狐様のVR配信日記 @yuyu_yu4696

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