霊媒お狐様のVR配信日記

@yuyu_yu4696

第1話

「高校中退、これで晴れて中卒かぁ〜…。僕の人生詰んだな!」


とある一軒家にて、1人の少年が己を嘲るように言った。


彼の名は「射灯 月音いとうつきね」。小学、中学、高校と碌な目に遭って来なかった彼にとって、誰にも縛られることのない今は最高に幸せだった。


それでも中卒の自分に碌な未来はないと理解している。力もない。背も低い。コミュニケーション能力も低い。そんな自分にどんな未来が待っているか、想像したくないから、彼はただただ幸せなふりをして誤魔化しているにすぎない。


「あははっ!あはっはっ……は…」


しばらく1人で笑い続け、我に帰る。


「どうしよ……。」


そんな16歳の少年の嘆きは誰にも届かず、消える。家族はいない。幼い頃、事故で亡くなった。ただでさえ引っ込み思案で不気味な奴だといじめられていたのに、更にいじめはエスカレートした。


幼稚園の頃仲の良かった子も、校区が違うせいで別の小学校に行ってしまった。小学校の6年間など、思い出したくない。その子とは中学でまた会って、今も交流はあるが高校ではまた離れ離れだ。とことん人に恵まれない人生だ。消えた方が幸せだと思うぐらいには。


それでも生きていけてるのは、死ぬのが怖いからか、はたまた友達のためか…?どっちだっていい。もう、いじめに遭う事はない。これから会う人はきっと、僕を知らないから。そう願い、嫌な思考を振り払うために瞼を閉じる。


その時、着信音が鳴り響いた。


携帯に映される文字は、気心の知れた数少ない友人の名だった。


「もしもし?どうしたの急に。湊人みなと


友人の名を呼び、問いかける。普段彼は先にメッセージを送ってから連絡してくる。急にかけてくるのは珍しい。


『よ!月音!元気か?』

「…元気だよ。」

『そうか。急に連絡して悪いんだけどさー?』


彼の言う内容はこうだった。一緒にゲームしようぜと。


「いや、別にいいけど?それだけ?」

『ああ、今度出るフルダイブ型のVRゲーム。それ一緒にやろうと思ってさ。その…、知らない人でもゲームならお前の人見知りもどうにかなるだろって思ってさ?もっかい聞くけど…大丈夫?』

「あー…そーゆう…。」


正直悩む。ここでちゃんと話してもう一回聞いてくれる彼はやはり性格がいい。道理で人気者な訳だ。でも、ゲーム内でも人は怖い。いくらゲームでも、人がそこにいるのならそこは人の思いが交錯する渦潮の中だ、簡単には抜け出せない。そしてその中には、的確に僕を更に下へと引き摺り込もうとする魔の手悪意がある。それが怖い。


なんて言い始めたら何も出来ないのは理解してる。でも渦潮の中に飛び込んで溺れるのはもう嫌だ。だから高校を辞めた。もう一度飛び込む勇気なんてない。


それでも、彼となら…


「いや〜、湊人…実はさ?高校中退しちゃって…。時間なら、一杯あるからさ?」

『は!?嫌、おまっ、そんな簡単なノリで言える事じゃねぇって!…本当に大丈夫か?』

「…大丈夫じゃないかもだけどさ?湊人とか、少しでも仲の良い友達がいるってなったら、1人きりよりかは少しは勇気も出るよ。」


そう答えると、湊人は少し考えて『そうか、良かった。』と言って、今後の予定を立てて、通話を切った。


ただただ生身で渦潮に飛び込む訳じゃない。気心の知れた友人となら、きっと息ができる。美しい海を見ることができる。そう信じて、ガラッと勢いよくカーテンを開けた。


幸い、両親の遺産は莫大だ。それでも、一生遊べるわけじゃない。まずは、飛び込む事に慣れよう。そう思う月音だった。


「そういや、どんなゲームやるんだっけ…?」


肝心なことを聞き忘れていたが。



湊人「どんなゲームやるか言うの忘れてた…、やっべ。」

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