観音、竜に化けた
@maru924
観音、竜に化けた
今から随分昔のこと、鷹を飼育して上納することを仕事として暮らしている者がいた。その男は鷹を捕まえるのがとても上手なので住民たちの間では結構有名であった。
あるとき、野生の鷹を捕まえようとして山奥に入っていった。そこで、大きな鷹を見つけたのである。「これは上納するのにとてもいい鷹だ、これを捕まえればさらに有名になれる」と思ったその男は、その鷹のあとをついて行った。随分長くあとを追っていたので男は疲れてしまった。そのとき、鷹はある大きな高い木に止まった。見ると、そこには巣があった。男は「ついでに雛も捕まえてしまおう」と考えた。大きな鷹に育てようとしたのだ。そこで、いつも通り鷹を捕まえる準備をして、木に登った。その木はこれまた大きくて高かったので、慎重に登っていくとようやくその鷹が近くにいるところまで来た。ここからはさらに慎重に行かないと逃げられてしまう。
そう思った時、急に大雨が降ってきた。「これはまずい」と思った男はすぐに降りようとしたが、いつもの倍の高さがあり降りることができなかった。男はすぐに登れるが、あまりに高いと降りられないのである。こんなことはよくあるので、いつもは仲間の助けを借りていた。しかし、この時は仲間を連れてこず、1人で来ていた。男はいつも仲間に助けられていて、「今度こそ1人で捕まえて俺のすごさを分からせてやる」と決心していたので、今日は1人だったのである。そのうち、どんどん雨は激しくなり雷も鳴り始めた。このままでは死んでしまうと焦った彼は、小さい時から観音経を読んでいたので、「お助けください」と深く念じて、ひたすら祈っていた。「弘誓深如海」とあるあたりを読んでいた時に、頭上からバサッバサッと音がした。何かが飛んできたのである。慌てて上を見上げると、そこには竜がいた。竜はまっしぐらにこちらに寄ってきた。「何かされるんじゃないか、観音様にお助けくださいと祈ったのに、どうしてくれる」と思って、さらに念じているが、だんだん迫ってきた。「もうだめだ」と目を瞑ったが、竜は何もしてこなかった。目を開けてみると、竜はこちらを見て背中を向けた。一瞬何か分からなかったが、男は「乗れ」と言っているのだと感じ、恐る恐る背中に飛び乗った。すると、竜は瞬く間に空へと飛び上がり、その男の家の近くまで飛んだ。静かに竜は地面へと着地した。男は慎重に背中から降りた。竜の優しさに感動し、涙を流しながらお礼を言うと、竜はどこかへ飛んで行ってしまった。その時には、もう雨はいつの間にか止んでいた。男は嬉しくなり、急いで家に帰った。夜遅かったのと疲れていたので、すぐに眠ってしまった。
朝、目を覚まし外に出ると、住民たちが寄ってきて「昨日はずっと帰ってこなかったけど、どうした」などと声をかけた。男は、昨日あったことを隠さず全てを話した。当然住民たちは信じられずにバカにした。男は「本当のことだから信じてくれ」と言うが、それでも信じてくれなかった。悲しくなって家に帰り、ふといつも読んでいる経を広げると、昨日の竜の鱗が「弘誓深如海」の文句のところに挟まっていた。「この経が竜になって自分を助けてくれたのか」と気付き、嬉しくありがたく思うのであった。これをさっきバカにしていた住民たちのところへ持って行き、この鱗を見せてもう一度昨日あったことを話した。これを見た住民たちは驚愕し、男を信じたという。男は、このことがあってから毎日経を読み、日々感謝しながら暮らしていったのである。さらに、鷹を捕まえるときには2度とこんなことがないよう、必ず仲間たちを連れて助けを借りたという。
観音、竜に化けた @maru924
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