第2話
翌日、俺は国外追放を言い渡された。
ジュリアの命令だった。最低限の荷物だけを持ち、国を去る馬車に強引に乗せられた。護衛すらつかない冷遇には、さしもの苦笑を漏らすしかなかった。
追放の旅路の間、俺は考え続けた。
(アラン……あの嘘つき野郎、昔から気に入らない事には同情で従わせたな。ジュリアにもあまり近づかないように忠告はしておいたはずなのに……。どうしてそこまで簡単に俺を見限れるんだ)
しかし、答えが出ることはなかった。
「結局、俺は俺の役目を果たすだけ」
そう自分に言い聞かせることで、なんとか前を向こうとした。
現実は変わらない以上、そこに囚われる訳にもいかない。勇者といっても、王族の命令を撥ね退ける程の力は無いのだから。
馬車が着いたのは隣国の小さな村だった。
その国では、魔物の被害が頻発しているという噂を耳にしていたが……、それは予想以上に深刻だった。
いつ襲い来るともわからない魔物に村の人々は怯え切り、荒れ果てた土地がどこまでも広がる。
「ここで出来ることがあるはずだ」
俺はすぐに行動を開始した。
勇者としての力を真摯に捧げ、魔物の被害を撥ね退け、土地を浄化した。
何においても人々を助けることに専念し続けた。
その甲斐あってか、この地に近づく魔物は最早居ない。
そして作物がすくすくと育つ程の土壌が復活してくれた。
やがて俺の行動が村を救ったという噂は広がり、隣国の王女であるパトリシアの耳に入る程になった。
そして今日、王女が訪れることとなったのだ。
「貴方が、この国を救った勇者様なのですね」
パトリシアは穏やかで誠実な人柄だった。今まで出会った女性の中には居ないタイプ。
その眼差しには疑念や偏見はなく、ただ純粋な感謝が込められていた。
「俺は己の使命に殉じたまでだ。わざわざ王女様が訪れる程の者じゃない」
「そのような事、おっしゃられるものではありませんよ。貴方のおかげで、我が国の民が救われたのだから。むしろ王族として、挨拶の一つもしないなど……それはあってはならない事です」
彼女との交流を通じて、俺は次第に自分の心を取り戻していった。
一方、俺の母国では混乱が続いていたようだ。
俺を追放したことで勇者の守護が失われ、魔物が頻発するようになったらしい。アランは勇者としての力を父から受け継げなかった未熟者、その嘘は次第に明るみに出ていったとのこと。
「お前は偽りの勇者だったのか!」
国王の怒声が響き渡る中、アランは震えながら事実を認めるしかなかった。
さらに、ジュリアの行動もまた問題視された。
「第二王女として、無実の者を追放し、国を危機に陥れるとは……。もはや王族たる者の資格などない」
「な!? お待ちくださいお父様!!」
「黙れ! 誰かこの阿呆共を外へ連れ出せ」
「は、離しなさい!!? 私は王女なのよ!!」
「は、離せ!!? 離して下さい! これは何かの間違いです! 俺の身に何かあれば兄上が黙ってはいませんよ!」
国王の言葉により、ジュリアは王女としての地位を剥奪された。
アランも共に処罰され、魔物の蔓延る辺境の砦へ追放されることが決まった。
そんな噂を耳にしても、今更思うところもなし。
俺は隣国での活動を続ける中で、今日、パトリシアから不意にその想いを告げられていた。
「ケヴィンさん、貴方と共にこの国を守りたい。私の夫となっていただけますか?」
「俺みたいなのでよければ……っ」
その言葉に、俺は静かに微笑み、そして頷いた。
こうして俺は新たな国で、新たな人生を歩むこととなった。
過去の傷は完全には癒えないかもしれない。
それでも、今の俺は確かに幸せだと心から言える。
散々人の事をこき使っておきながら今更偽物の勇者呼ばわりして来た婚約者と弟。お望み通り追放されてやるから後は勝手にしろ こまの ととと @nanashio
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。