散々人の事をこき使っておきながら今更偽物の勇者呼ばわりして来た婚約者と弟。お望み通り追放されてやるから後は勝手にしろ
こまの ととと
第1話
突然だが俺は婚約を破棄されるらしい。
それは煌びやかなパーティー会場での出来事。高い天井に吊るされたシャンデリアが柔らかい光を放ち、着飾った貴族たちが優雅に談笑している。間違いなく今この国で一番華やかな場所だろう。
そんな中、第二王女であるジュリアの声が静寂を引き起こしたのだ。
「ケヴィン・クロウノート。貴方との婚約をここに破棄します」
俺に向けられた冷たい声、咄嗟に言葉を失った。それでも、動揺を表に出してはならないと自身に言い聞かせる。
会場中の視線が一斉にこちらに集まる中、なるべく冷静を装って問い返した。
「ジュリア、そんな決定を突然告げられる理由がまるでわからない。理由はなんなんだ?」
「理由は簡単よ。貴方が偽りの勇者であり、本当の勇者であるアランを虐げてきたから」
王女の隣には、俺の弟であるアランが立っていた。
(どういうことだ……?)
状況に取り残される中、奴は大粒の涙を浮かべて俯き、震える声でこう言った。
「あ、兄上は今まで俺を無能な弟として振る舞うように命じていたんです……っ。俺はずっと怖かったけれど……やっと真実を話せましたっ!」
周囲の貴族たちはざわめき、一斉に非難の視線を向けてきた。
アランは人一倍その容姿に自信を持っており、現に美しい顔が涙で濡れたその姿に多くの人が心を動かされているのが分かる。
「嘘だっ!」
俺は強い声で否定する。
まるで意味がわからず、悪人として仕立て上げられた事が認められないからだ。
「アランは嘘を言ってる。知ってるよな? 俺は勇者として神託を受け、その役目を今日という日まで果たしてきた……ずっと身を粉にしてこの国の為に働いてきた! なのに一体、あいつの言うことに何の証拠がある?!」
しかし、ジュリアは俺の言葉の聞く必要もないと言わんばかりに、遮るが如く冷たく言い放った。
「証拠? そんなの必要ないわ。このアランの純真の姿を見れば分かるでしょう。貴方のような醜い下衆と婚約を続けるわけにはいかないわ! この国の王族として、このような悪縁は断ち切らなければ国の災いにもなりえる! 私だってこんな非情な決断に苦しいのよ。私の事を愛しているなら、わかってもらえると信じているわ」
そういう彼女の言葉は、到底己の判断に苦しんでるようには聞こえない。
俺は拳を握りしめた。冷静であろうと努めたが視界が怒りで滲む。
いつも俺が支える存在だったはずのジュリアが、こんなにも簡単に俺を見限るとは思わなかった。
こんなに……!
「兄上、もういい加減認めてください!」
アランが追い打ちをかけるように言う。奴の声には確かな勝ち誇りが含まれていた。
俺は屈辱に塗れながらも深々と礼をし、その場を立ち去った。
これ以上話をしても意味がないと悟ったのだ。誤解だとかは関係ない、俺の存在そのものが彼らにとって疎ましいとわかった。
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