道長と黒い犬

@kuri2005

道長と黒い犬

今となっては昔の事だが、御堂関白こと藤原道長は法成寺を建て、毎日そこに通っていた。道長は、黒い柴犬をとても可愛がっていていつも、その犬を傍に置いてお供させていた。

ある日、道長がお寺の門をくぐろうとすると、その犬が、門の前に立ち塞がるようにして吠えまわり、牛車を中へいれないようにしていた。

「どうしたのだ」

と、道長が牛車から降りて、門をくぐろうとすると、黒い犬は道長の着物の裾をくわえて引き止めようとした。そこで、

「これは何か理由があるのだろう」

と、踏み台を持ってこさせて、腰をかけ、安倍晴明のところに

「急いで来い」

と使者を送った。晴明はすぐにやってきた。

「こういう事があるのだが、どういう意味なのだろうか」

と事の成り行きを話すと、晴明はしばらく占ってから、

「これは道長様に呪詛をかけるための物が道に埋めてあります。もし門をくぐっていた暁には、不吉な事が起こっていたでしょう。犬は神通力を持っているので、道長様に危険が起こる前に教えてくれていたのです」

と晴明は答えた。

「ならば、それは一体何処に埋めてあるのか。見つけ出して欲しい」

と道長が言うと、晴明は、

「容易い御用です」

と申し上げて、しばらく占い、

「ここです」

と指を示した。そこを従者に掘らせてみると、二メートルほど掘ったところで、予想していた通り呪具が見つかった。

その呪具は、土器を二つ合わせ、黄色いこよりで十文字にかけて結んである。中を開いてみると、何あるわけではなく、朱砂で「一」という文字が土器の底に書いてあるだけだった。晴明はそれを見て、

「この術は私の以外に知っている人はいません。これが使えるとなると道摩法師がやったのかもしれません。問いただしてみましょう。」

と晴明は言い、懐から紙を取りだして、鳥の姿に結び、呪文と唱えて空へ投げ上げた。するとたちまち白鷲に姿を変えて、南の方へ飛んで行った。

「この鳥が落ちて行くところを見て来い」

と晴明が従者に言い、走らせた。すると、六条坊門万里小路辺りに、両開きの戸のある古びた家に落ちるように入った。その家はまさに道摩法師の家であった。

従者はすぐさま、法師を縛り上げ道長の前に連れてきた。呪詛を使った理由を聞かれると、

「堀川左大臣、藤原顕光に依頼されてやりました」

と白状した。

「この者は流罪にすべきだが、依頼されたのなら道摩法師の罪ではない」

と道長はいい、

「今後、二度とこの様な事をしてはいけない」

と誓わせ、法師は故郷の播磨へ追放された。 首謀者である顕光は、死後怨霊となり、道長の周辺の人々を祟ろうとした。そのため、悪霊左府と呼ばれたとか……。

道長はこの一件依頼黒い犬をますます可愛がり、大切にしたという。

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