Dreamless and Hopeful-夢失いし希望持つ者-

釣ール

Dreamless and Hopeful

△血の中でしか生きられない


 会長業というのも難しいな。

 はしらは引退後ずっとそう思っていた。

 別に食う為にジムを設立した訳では無い。

 元々、科学選考をしていた大学生で武力とは縁が無かった。

 それに余り何も食べなかったからダイエット目的でも無い。

 自分には科学者としての才能が開花される事が無かった。


「最高の人類を生み出す?そんな世迷言よまいごとをいい歳してして言えるなんてな」


「確かにかないそうだ。だが倫理りんりを守って貰わないとな?」


 あの実験は確実に発展はってんへと繋がる!

 いつまでも遅れた倫理りんりで島国を生きているのはお前達の方だろ?


 そうしてはしらは法を犯すことになった。

 自分でしか発見出来なかった研究成果を今ここで公開する!

 しかし大学から追放され、家計の都合ではしらは就職をしようと決めていた。


 だが日本では低賃金で肉体労働が多く、自分の特技を発揮できずにいた。

 当時インターネットにいたハイパーメディアクリエイターのコラージュを独自で作成し、五寸釘で毎日恨みを晴らす毎日もあった。


 そこで前会長に出会った。


「君は社会不適合者じゃない!いや、そもそもそんな人間はいないのだ。自身の特技、信念、未来を現実で失った辛さをよく知っている。そんな私の一提案に過ぎないが、ぜひ君の力を格闘技で活かして欲しい。君がバイトで書籍化した人間の効率を最大限に活かしたトレーニング方法がジムで役立っている。自分の理論を証明する方法として、私も手伝えないか……そう思ったのだ」


 はしらは言葉だけではなく勝利にこだわる前会長の執念を感じ取ってジムに住み込みで修行した。


「それから二十年。こうも規制が厳しくなれば私の理論も根性のように思われるのか。なんともプライドが傷つく現実ばかり」


 それでも前会長の執念を受け継ぎ、乱立する格闘技界隈で生き残る為の術はベテランから若手に教えている。

 大学を追放された走は事情があって生き残る為に夢を持つ若手にどうベストを尽くせば良いか考えていた。


 あの実験を再開する必要がある。


 とはいえジムの仲間を利用したくはない。

 更に敵対しているジムへ無理に近付くのは情報が漏洩ろうえいするから危険だ。


 はしらは自分がもし大きな怪我をした時の為に、自分の若い頃のトレーニング記録として細胞を移植させ前会長の借金を無くそうと極秘で開発し売っていた科学技術を復活させて″ヤツ“を起動する事にした。


 武力にしろ科学にしろ、はしらは理解した。

 前会長が自分に注目した理由。


 それは


「私も……血の中でしか生きていけない……その初心を永らく忘れてしまっていました。見抜いていたのですね。会長……」




△卒業と同時に



━━二〇二一年三月


竜南たつな媛了りる!写真撮ろうぜ!」


 差柱有我さもあるがは俺と媛了りるを呼び、インスタントカメラで卒業記念写真を撮った。


「他の子に挨拶行きたかったんだけどなあ。写真を撮る時間なんていくらでもあるじゃん」


 媛了りるはダウナーな女子で人生に一度の経験もいつもの日常としか捉えていない。


「いやいや竜南たつなが上京だぜ?しかも格闘家として強くなるためとかそんなカッコイイこと俺達世代で言う奴いる? って、ここにいるんだよ! 俺達は特別な存在だろ? なあ、竜南たつな媛了りるにもっと笑顔で写ってくれないかたのんで欲しいなあ」


 ありがたい友だが俺もチャラチャラした行事は好きじゃない。

 本当は欠席したかったが、有我あるが媛了りると最後のやり取りになるかもしれないと感じて出席する事にした。

 別に他生徒とコミュニケーションに問題は無かった。

 むしろ大事な友ばかり。

 インターネットさえ無ければもう少し自分らしく弄れなかったかもしれないと感じていただけ。


「分かった。うその笑顔なら得意だし」


媛了りる、無理するなら逆に怒った表情で撮るけど?」


「喧嘩売ってる?」


 そこを俺がカメラに収めた。


「え?インスタントカメラって竜南たつなも持ってたのか?」


「端末に残したら媛了りるに殴られるしな」


 これも想い出の一つ。

 なんてことの無い特別で五年後には忘れてしまう日常。

 友情というのは一緒でも離れても変化する宝。

 ただそう思っている。

 だから、早くこの場を出て三人かこれから集まる最後の仲間達と焼肉でも食べて永遠のフィルターで美化させていきたかった。

 俺もまだまだ若いな。


 何となく流れは店へ行く雰囲気へ。


「それでさ、金が無いからって推薦すいせん落とされたんだよね。俺、我慢して結構習い事続けたよ? それで選択出来る就職先なんて警官、自衛隊、工場勤め! なんでそんな硬派だったらずっと結婚しにくい職業に行かなきゃならないんだい! って話。つまらない自己啓発じこけいはつうながされた結果! そんな洗脳体質せんのうたいしつの職業いくくらいなら俺は引きこもるぜ?

 動画配信のネタなんて困らないくらいに俺……俺達は濃ゆい学生生活を送ってたんだからなあ!」


 不良高校生では無い有我あるがだが遅れた暮らしが嫌いだったからか卒業したとたん、まるでベテランコント師ような愚痴ぐちを吐いている。


「それって竜南たつなをネタに喧嘩自慢か健康路線けんこうろせんの発信したいってこと? 有我あるがって凄いカッコイイ理想と技術あるのにマネタイズが上手いから安直な企画を選びがちだよね。ま、そんな有我あるがの本当は強制された金稼ぎなんて嫌なんだって情熱は一緒にいて安心するけどね」


 媛了りるもなんだかんだ卒業式でテンションが上がってるのか俺の前で凄い告白をしている。


「り、媛了りるが……ここでそんな……お、おい竜南たつな! ふぉ、フォローしてぇ……お願い!」


 出来るか。

 かざなって素直に言われた気持ちを受け取ればいいのに。

 俺はそんな関係を目指してレンタル彼女を未成年の時に試した事もあるんだぞ?


「俺達ってオーバーエイジだが何だか言われてるけどさ、起こってることって変わらないわけだろ? とらええ方が違うからトラブルがあるだけでさ。何で俺達しか経験できないわずかな楽しさをおっさん、おばさん達に盗られないと行けないわけ? ってサンドバッグやスパーでどうにもならない不満を抱えながら未来へと歩く。そんな媛了りるの告白を受けた有我あるがは俺が見た人間の中で一番、幸せに近い気がするけどね」


 不器用ながらフォローさせてもらった。

 そうしたら二人がスマートフォンでメモをしていた。


「流石だなあ竜南たつな! SNSで使えばバズれるぜ。やっぱ格闘家ってすげえな」


 と言ったのが有我あるが


「今のカッコよかったよ。私は自分へのはげみとして記録と記憶に残したいな」


 と媛了りる


 どうやら俺達は長い付き合いになりそうだ。


「卒業祝いだ。俺が全額払うから拡散かくさんするなよ。っていうかさ。有我あるがは自分の気持ちやアイデアに自信持てよ! 自分の言葉で語るからあこがれられるんだよ。それが男だろうが!」


 二人はまたスマートフォンに指を走らせる。

 闇だこれ。

まぎれもなく現代の闇。




△想い出を胸に秘めて今日もまた励む



 あれから一年が経った。

 竜南たつなも成人式が近い。

 高校時代にプロ入りしていたし、物欲なんて今時ギークにすら無いし自分にもなかったから念願の自動二輪車を買うことが出来た。


 昔見た配信主がゲームグッズを買って一人誕生日を迎えていた動画を見たがあれを今自分もやってみたい。

 自分がハマる趣味なんて、特に無かったし。


 高校時代に日本一にはなったがもう少し他の同階級の奴らを血祭りに上げたい。

 何故そんな物騒な事を竜南たつなが思うのかと言うと地元の先輩が昔からの友、有我あるがの夢を否定したからだ。


「インフルエンサーにもなれねえガキは一生消費者になってまな板の鯉のようにパクパク口あけてえさを待ってりゃいいんだよ」


 といくら、らしさにとらわれなくていい時代とはいえ女々めめしくて陰湿いんしつ暴言ぼうげんをはかれた。


 お洒落な見た目で一時期のオタク生主のようなあおりをいきなりふっかけたあいつをライセンスが無かったらすぐにつぶしたかったところだ。


 まさかあいつがプロ格闘家だったなんて知らなかった。

 団体が乱立しすぎているからか、もしくはあいつがコンプラをよく理解しているからか前に発表された自分の対戦カードでようやく知った。


 日本人……だよな?

 いや国籍こくせきはどうでもいい。



 この情報社会で試合が全く流れていないファイターなんているのか?

 他の格闘技経験はあるのか?

 何者なんだ?


 だが竜南たつなにとってはいいリベンジになる。

 あの後有我あるががずっとGINEジイン越しで減量中の時にぐちを言われ続けられてコンディションが最悪だった。


 計量もクリアして試合にも勝てたから良かったがあの格闘家の言葉によるストレスと有我あるがのぐちを最後まで聞いてバイアスがかかった状態による重圧をどこかで発散出来ないかずっと悩んでいた。


 ここで白黒付けられるのなら何よりも竜南たつなにとって生きてきた意味があるというものだ。


竜南たつな君。ずっと怖い顔してるね」


 人見知りの激しい竜南たつなに語りかけてくれる、移籍先いせきさきの同い年。

 このジムには子どもの頃から所属しているらしいがくわしい事はまだ分からない。


「対戦相手に気になることでもあるのか? いつもなら相手のことなんてなんとも思ってなさそう……な印象だったが」


 彼の名前は佐波刺涉岐さわししゅうく

 竜南たつなは格闘技では歳上との関係が濃かったからか、彼はノーマークだった。

 多分語る事も無く格闘家として自分は人生をまっとうするだろうと思って他の誰かとの関わるのをこばんでいたのに同い年だからか彼は心を開いてくれた。


「あの格闘家は先輩だった。それ以外情報が無かったが、ここで出会うとは思わなくてさ。友人の悪口を言われたのと、言われた友人からバフを掛けさせられた恨みを晴らす時だ」


 佐波刺さわしは物騒な会話もまあ同業者だから仕方ないと流していく。


因縁いんねんの相手ってどうしても出てくるんだな」


「戦わなければ生き残れないってやつだ」


 つい昔の趣味で聞いたキャッチフレーズが出た。

 流石にこれはバレたら不味い。

 変に会話の取っかかりが生まれればふきがうまれる。

 同い年かつこのジムで古参こさんの彼にはこだしでもあまり会話はしたくなかった。

 するととんでもない返事があった。


「たまたま調べてたら、例の相手行方不明だってさ」


 は?

 竜南たつなも早速調べる。

 確かにあいつの名前がニュースに出ていた。

 しかしおかしい。

 あいつのようなタイプが表に出る?

 しかもソースが格闘関係のサイトじゃない。

 まさか犯罪でもしたのか?

 いや、それをする奴ならもっとマスコミが露悪的ろあくてきなやり方をする。


 すると佐波刺さわしが耳打ちする。


「あまりしゃべらない君だから言うけど、あのひとうらで謎の手術を受けてたよ」


「謎の手術? どういうことだ?」


 話をさかのぼると佐波刺さわしがトレーニング中にあいつこと辣晴界憑らつはらかいつは重度の健康マニアで献血けんけつも何度かおこない、ドナー登録までしているらしく医療いりょう貢献こうけんしているとの事。

 逆に言えば、自分の命をいつでも投げ出せるという事。

 しかし自分の身体を傷つけるようなことはしない。

 自分を守るためなら平気で他者に嘘や暴言も吐けるし、物欲も人一倍強い。

 それは竜南たつなから見た辣晴らつはらの感想でしかないが、それ以外では見た目が出会った頃と明らかに違うことにある。

 整形や成長とも違う。

 明らかに骨格が同世代とは異なる。

 ドーピングなんてリスクの高いことをあいつがしない事は明白だ。


「簡単に対戦相手も決まりそうになさそうだし、俺もひまだからさぐってみようぜ」


 どうやら彼もあいつと何か関係が有りそうだ。

 しかし対戦しないならそれはそれで興味が湧かなかった。

 人なつっこい佐波刺さわしの趣味には付き合えない。

 すると佐波刺さわしから写真を渡された。


「ほら。辣晴らつはら選手が手を伸ばしてるとこ撮ったけど、明らかに人間の手じゃないだろ? これ、俺達で真相を暴けば一攫千いっかくせんきんも夢じゃなくない?」


 そうだった。

 彼は人よりも好奇心が強い。

 それと他にもマスコミがうろついている可能性もある。

 もしこれで辣晴らつはらなぐるチャンスが無くなったら後ろ向きの人生を歩く事になる。

 それに物欲は無くても金がほしくないわけじゃなかった。


「もしその腕の主がコスプレとかだったら俺達は一発でリングに上がれなくなるぞ?」


「ふっふっふ。言ってなかったが俺は心霊ドキュメンタリー関係のバイトもかけ持ってる。武力なんて使わねえよ」


「いや自信満々に言われても。それじゃあ取り逃がすだろ」


「あれ?それ別の会社のDVDだろ?今回はフィクションじゃない。って言ってもどうせ信じられないか。同門どうもんになったって言っても最近だしな」


「なら協力する。こればかりは行動でしか成果は出ないからな」


 まさかここで彼とバディを組むとは。

 しかも秘密が多すぎる。

 こりゃ、相手が人間じゃない可能性を考慮こうりょしないとな。


 いつものように練習しながら、野郎二人で怪奇を暴こうとする。






 午後十一時。


 都市だからまだ夜は長い。

 最近は規制で時短要請じたんようせいがあって出歩くのは難しい。

 ちっ。生きづらい。


「この場所で間違いないよな?」


「上京した君よりも長く俺はここに住んでる」


「心配し過ぎた。なら安心だ」


「意外と俺って信頼されてたりする?」


「誰も信用はしない。だが協力はする」


「リング外でも殴りたい程にあの人は君に恨まれているのか、それとも金に目がくらんだ?」


「ぐちは後で聞く。今はまわりにマスコミや他の連中がマークしていないかチェックしてくれ。今はアイドル路線で格闘家の怖さを知ってる信者は少ない。なめられないように生きていくにはちょうどいい経験だ」


 謎の追求…確か有我あるがが自分の足りない部分としてその事を言っていた。

 自分が遭遇そうぐうするとは。


「おっと。怪しい人が入っていった」


「ふうん。本当に怪しい奴かどうか分かってる奴のセリフだ」


「静かに。ほら。あれ、コスプレか?」


 やり取りを続けていると就活生が着るようなスーツに身を包んだガタイの良い男性がガチガチにオーダーメイドでしか売ってないだろと思うほどの見たことの無いコートで案内していた。


「確かに。特撮とくさつなら納得なっとくだがどうにもきなくさい」


「まあ真相があばけたなら正体なんてなんでもいい。まわりも確認したけど様子見しているね」


「入りにくいな」


 すると久しぶりに見覚えのある人間が当たり前のように例のビルに入っていく。


 まさか?


「あ、有我あるが? な、何で有我あるがが東京に?」


 佐波刺さわしが説明をして欲しいとお願いした。


 これは良くないな。




△上京の理由



 俺は差柱有我さもあるが

 早生まれの〇三年生まれだが、学年は〇二年生まれと一緒だ。

 ってそんな事言わなくてもわかるか。

 けど自己紹介なんて最近はPRみたいで嫌じゃないか?

 趣味にしろ何にしろ、


「自分は〇〇で〇〇をしています」


 なんて興味ねえだろ?

 ちょっとしか面接しない上に終身雇用なんて無くなって個人情報も厳しい今でなんでこんなやり取りをしなくちゃいけない?


 いいよなあ竜南たつなは。

 俺達と話す時は全然、格闘家って言うより怖い顔なだけで家庭とかもノーマルなのに。

 ま、別に竜南たつながどんな家庭だろうとそんなのは関係ないけどな。

 大事なのはこれからの人生で信頼関係が出来て、どうせっしていけるか。

 ある映画で伝説の有名なバンドが


「ファミリーは喧嘩けんかすることもある。だが、また共に生きる事もある」


 って言ってたしな。

 つまり、俺達はもうそんなのクリアしたのさ。


 あれから大学生になった媛了りると付き合う事になった。

 と言っても、特に今までと変わらない。

 媛了りる竜南たつなと一緒に上京するのかと思ったら別の都市で大学生活をすることにしたらしい。

 だが基本的に空いた時間は地元に戻って俺と話してくれる。


「また面接落ちた?」


「覚えられてるかあ。いやあ、高校卒業したんだから若さを優先して欲しかったけどなあ。高卒の資格じゃ無理か」


「学歴は貧富ひんぷの差で変わるし、良くないタイプなんて学歴も何も関係なくどこにでもいるのにね」


「フォローありがとう。就職したいっていうか、金が欲しいだけなんだけどなあ。やる気無いって思われてるのかな?」


 媛了りるはずっとぐちの多い俺の話を聞いてくれた。


竜南たつなには頼まないの? 海外とか都市で職を探すのもありだよ?」


 確かに。

 だが竜南たつなはプロ格闘家だ。

 しかもりょうとは違う形で練習しているらしい。

 やり取りは今は無いがそれだけ打ち込んでいるというわけだ。

 そんな友を頼るわけにはいかない。


「学歴や職歴なんてハローワークに行ったら判断材料になるに決まってる。私は大学生でバイトしている身だからあまり言えなかったけど、有我あるがなら配信でマネタイズするって選択肢もあるでしょ?」


「確かにそうだ。でも、俺達がガキの頃とはもう時代が違う。そもそも稼げるとかそんなインチキな話でもうけるのならかぶとかそういうのをやってる。俺みたいにデジタル強くても……この日本じゃ竜南たつなのような愚直ぐちょくだけど力や属性の強い人間の方が選択肢があって強い!」


 ぐちが多い俺とはいえパートナーにこんなこと言うなんて。

 竜南たつなも俺の事恨んでるだろうな。

 すると媛了りるは一瞬くもって返事をした。


有我あるがの事情は竜南たつななら考えてくれる。卒業して一年しか経ってないのに変わったの? 有我あるが!」


「いや……本当は働きたくないさ。けど、俺は竜南たつなの親友で媛了りるのパートナーだ。ヒモじゃないし取り巻きじゃない。

 やりたくないことを二人がやっていて、俺だけ好きなようにやるのは……なんて言うか……」


 媛了りるはどこから出してきたのかチラシを渡して耳打ちした。


「怪しいかどうか分からない。けれど有我あるがなら興味あるんじゃない?追求ではなく探求について」


 そのチラシを見ると驚くことばかり書かれていた。

 公的文書にも読める裏医者の雇用条件。


 問題は内容じゃない。

 出自だ。


「か、改造人間…だろ?この案件。献血っぽく書かれているけどこんなのだまされる奴いるか?」


 内容を説明しよう。



【不況が続く日本で生き、精神病と揶揄やゆされ体力を酷使こくしする事に疲れている皆様。精神論といいつつ肉体的な幻想へ導く人間の愚かさに私は医療に携わる者として疑心暗鬼しています。人間は誰しも老いや死からは逃れられない。私は新たな医療を立ち上げたい。その為には皆様のご協力が必要です。一回五万:現金払い。血液をご提供頂くだけ。献血とやり方は変わりません。その協力でがたった一人を救うのです。何卒なにとぞご協力頂けるよう】



 怪しすぎんだろ!


 改めて媛了りると俺は二人でツッコミわいれた。

 そして笑みがおたがいこぼれる。


竜南たつなが見たら理詰りづめで具体的に論破ろんぱしそうだよな」


「こんなのトップ選手が団体の乱立を助長するのと変わらない。医療関係者がチラシでこんなの書いたら薬事法やくじほうでアウトだ。 それにあまりにも文章として胡散臭うさんくさい。だまされるな!って竜南たつななら言いそうだよね」


 やっぱり夢……いや、竜南たつなのやろうとしていることって俺と媛了りるを助けてるな。

 それはおたがいに感じた。


「ほら。有我あるがも昔みたいに怪しい場所を魂賭たましいかけてあばいてみたら? 金にならなくても竜南たつなとはちがう等身大とうしんだいのヒーローになれるよ?」


「俺は百人殺して英雄になるより、誰も殺さずに媛了りると家庭を持ちたいな」


「さりげなく下心ださない。いや、有我あるがのセンスだね。……なんかさ、私が原因で就職活動辛かったら主夫しゅふって選択肢もあるんだよ? それに私も竜南たつな有我あるがの決めた事にどうのなんて、口出ししないよ」


 なんだか俺だけ気をつかってないみたいだ。

 大事な人間を盾に、逃げようとしているだけ。

 そんな俺を媛了りるは怪しい情報を手に入れて探究してみたらヒントをくれてる。


 けど……上京資金足りないんだよね。

 だからバイトも探しているけどバイトにも金がいるって言う……。


「はい資金。あのさ、他の人と私は感じ方が違うから一意見として言うね。パートナーだし、バイトや正社員目指すのに夢中で探究諦めるぐらい私は今時愚直ぐちょくだから。有我あるがも結婚前提で付き合ってるならパートナーをもっと頼ってよ! はい。私のぐちはおしまい」



 媛了りるは上京資金をポンと渡してくれた。

 逆に言えば意地でも真相を暴けという圧力だ。

 あれ?

 媛了りるって頼もしいけどこんな豪胆ごうたんだったっけ?

 ここで逃げ出したら死ぬより辛い思いをすると判断したのでバイトの面接を全て丁寧ていねいにことわって上京した。


 ありがとうな媛了りる

 相手が相手……または時代が時代なら別れを切り出されてもおかしくないのに。

 俺の仲間は……優しい奴ばっかだ。




△振り返れば敵がいる




 やっと家を借りれた。

 ここまでのやり取りに時間はかかったが一人暮しなら大したことは無かった。

 媛了りるのサポートが無かったらヤバかったな。


 さあて、謎の解明だ。


 チラシの住所付近は事故物件が何故か多くて調査するにはやりやすいが不動産とのやり取りで苦戦した。

 いやあ事故物件って本当にあるんだな。

 そしてなんだかんだ住ませてもらえる。

 これはこれで別の仕事がもらえそうだ。

 と思いながらデバイスを駆使くしして操作した。

 知り合いの鍵垢から興味深い噂も聞いた。


「人体実験」


「格闘関係」


「強い身体」


 漫画のような裏ワードがわんさか。

 これじゃあ逆にガセつかまされてる?

 とも思ったが


《人通りが一定間隔かんかくで無くなるビル付近で何名か体格の良い人達がグロいコスプレイヤーに出会っている》


 という都市住まいの鍵垢からのアドバイス。


 そして午後十一時。

 こういう場所にはマスコミや警察関係、または俺のようなタイプが張り込むモノ…そして今日窓をのぞいたら


竜南たつな! あと誰かいる?」


 そう。

 公園の近くで竜南たつなと誰かが張り込みしている。


 意味が分からなかった。

 竜南たつなとは連絡はあまりしていなかった。

 なんでここに?

 リングで戦ってるんじゃなかったのか?


 まあいい。

 潜入せんにゅうするにはこの時間しかない!


 そうして俺は久しぶりの友との再会より真相を暴くことにした。

 そういう意味では竜南たつなが俺の目撃証言者もくげきしょうげんしゃで良かった。





「暗っ!しかも薬品くさい…」


 思わずつぶやいてしまった。


 宗教潜入しゅうきょうせんにゅう、UMA調査、浮気や不倫の確認、幽霊退治……

 色々と高校時代、独学で挑戦してきたが今回は明らかに公職案件こうしょくあんけんだ。

 しかも媛了りるがバックアップしているとはいえ、実質一人。

 懐中電灯を照らせばまるで水族館にいるような感覚になる。


 さっき人が入ったのに誰もいない…

 まるで神隠しのようだ。


 奥へ奥へ入っていく。

 竜南たつなはツッコミばかりしていたが俺が昔、遊びまくったサウンドノベルゲームのようなヤバさだ。


「頼む……頼むよぉ……こ こ に い る よぉ……とか言うなよ?大した真相じゃないといいなあ。ほら、つまらない真実より面白いうそって言うし……」


 独り言がとまらん!!


 いいんだどうせみんなさらわれちまってるし。

 いや、それって別の国のヤバい連中も目をつけてるのかなあ?

 いやあ、竜南たつながいたんだから誘えば良かったか。



 ドンッッ



 え?

 なんだこの音。


 だ、誰かいるのか?


 懐中電灯かいちゅうでんとうを向けるとスーツ姿の人がいた。


 え?こ、怖い…


 しかもその顔は見覚えがあった。

 竜南たつなじゃなくて、昔地元で俺に悪口言ってた先輩。


 スーツ越しに見える肩の筋肉やにの腕はSPのようでもあり、竜南たつなのような格闘家を観ているようだった。

 いやあ、なんでこんなに覚えているのにこの人の名前は覚えていないのだろう。



「侵入者ハッケン━━━━データ分析完━━━━二十歳前後のオトコ━━━━手加減しても始末デキル━━━━━博士が求める人材ジャナイ」


 来るよ来るよ来るよ!


 さりげなくちがう形でバカにされた。

 そう思ってるのもつかの間!


 蒸気をまとって筋肉質の爬虫類へと変貌。

 強いて言うなら

 有機物の機械。


 俺は散らばっていたロッカーなど武器になるものをぶつけて抵抗ていこうする。


 そして隠しインスタントカメラや端末で上手く撮る。

 〇ンスタは知らないが、えは知ってんだぜ。


 知り合いの爬虫類顔は格闘技術で攻撃してくる。

 竜南たつなとは違うがその対戦相手のようなプロの動きをしてくる。


竜南たつなが念の為に俺へ格闘家や暴漢ぼうかんに襲われた時の対処法を叩き込んでくれたんだ。出来るだけ攻撃せず守備や回避にてっしろってね!プロなら素人相手にも断定しないで、勉強して欲しいなあ!」


 そういいながら避ける。

 竜南たつなも高校生でプロになってねらわれた時によく一緒に逃げたもんだぜ。竜南たつなが強いのは打撃とかそういうのじゃない。


 攻撃をもらわない技術だ。


 塩試合なんて言わせねえよ?

 死ぬより五体満足で生きる事を選べって竜南たつなが言ってんだからよぉ!



「━━━━━━ターゲット博士の元へ━━━━━━━応戦要求━━━━━━ターゲットを始末セヨ」



 現実の怪物は攻撃は大人しいな。

 でも頭良すぎんだろ。

 応戦すんなよ。

 確実に死ぬじゃないか。


 しかしここで簡単には死ぬわけにはいかない。

 デジタル関係は昔、インターネット全盛期からしっかり調べた。

 博士と言われる人物の部屋に入るパスワードもハック完了。

 全く。

 俺達みたいなデジタル人間を老人達と同じ肉体労働や挙句の果てに意味不明なインフルエンサーや成功者に仕立てあげようなんて、こういう不正をさせない抵抗か?

 頭悪いんだよ!

 舐めんな!


 怪物が攻撃したのを利用し扉に当てさせる。

 念の為パスワードが失敗した時の保険だ。


「━━━━━━━シマッタ」


「元の人間が俺に悪口言ったからこうなったんじゃないの? 悪いことすんなよ」


 まあこの人は巻き込まれたな。

 一回採血だけで万単位の報酬が本当に支払われてるのならリピートするのがスタンダード。

 つまり一線を超えたってわけだ。


 そうして扉が開く。

 そこには自分の親と同じ年齢の男性がいた。


 何故かこの人も筋肉質だった。

 しかも恐らく、現役を退いた格闘家のそれ。


「まさか最新のマシンで作り上げた彼を一般人の若者に破られるなんてね。はっはっはっ。後世が育ってて光栄に思うよ」


 こんな事態なのに豪胆な人。

 こりゃあ、すぐ側の怪物よりもヤバそうだ。



「ようこそ。元格闘技ジムへ。君の身体つきは通常だね。太ってはいないが最低限の筋肉。だが、二ヶ月もあればプロのキックボクサーになれるかもしれないぐらいに過程を端折っている。見よう見まねで覚えられる技術ではないのだがね。知り合いに格闘家でもいるのかい?」


 一瞬で状況を判断されちゃったよ。

 さっきは年寄りを馬鹿にしたがこの人は違う!

 老いと世間と戦いながら時代についていけている……いや、先取りし過ぎている。



「何故、ここまで私が余裕で居られるのか分かるかい?それは、古株ふるかぶのボディガードもいるからさ」


 急に吐き気がした。


「グハッ!」


 殺されそうな一撃を腹に食らった…

 悪い媛了りる……今回……帰れなくなるかも……




△ランリツ




 有我あるがが奥へ入っていった。

 何体か兵のような役割の奴もいたが人間では無かったので二人で片付けた。

 でも護身術ごしんじゅつやプロの技術を叩き込んだとはいえ、練習環境のない有我あるががここまで爪痕つめあとを残してくれるとは思わなかった。


 あいつ絶対練習していない!


 だからこそ最新の技術は無いはずだが有我あるがの才能に嫉妬してしまう。


竜南たつな君の友達だっけ?すごねえ。暴力使わずにここまで逃げた上、奥の解析かいせきとかやってくれたんだ。火事場の馬鹿力にしては冷静すぎる。彼と心霊ドキュメンタリーの仕事を一緒にやりたいなあ。竜南たつな君。彼とは今も仲良い?」


 格闘技では普通に練習仲間でこんな会話しないのに、ドキュメンタリーに関してはやけに有我あるがを買っている。

 まあ、高校時代色んな偏見へんけんと戦う為にヤバいバイトしてたし。

 法的な意味じゃなくて馬鹿馬鹿しすぎることで。


「話は後だ。奥へ行くぞ」


 佐波刺さわしは不満げに奥へ行く。


「俺ってそんなに信用出来ない? 同門なのに?」


「俺は……お前とは関係が浅い!」


「そりゃあガキじゃないし。けどよ。水臭みずくさいぜ。ガキじゃないから、深くなくて良いだろ?」


 確かにそうだな。

 でも納得いかない点もある。


「成功者をネタにしてる動画で笑ってるだろ?」


 秘密の趣味だったのか会話が止まった。


「正義感が強いね。それじゃあ格闘家はやれないんじゃないか?」


「そこじゃない。何故その程度の趣味すら俺には言わない?お前は秘密主義ひみつしゅぎだと思ったから距離をとってたんだよ」


「神経質だなあ。秘密主義は君じゃないか? 俺は心霊ドキュメンタリーのスタッフって事も明かしたのに。まあこれは言う機会がたまたま出来ただけだけど」


「ならそれでいい。ありがとう。

 俺ならこんな機会でも深い関係の友にしか……言わない」


 ダンジョンの奥へ進む中でのやり取りは正直楽しい。

 格闘家でのやり取りはSNSで客観的に見ているよりも実際は選別している。

 いつ誰と試合をするか分からないから。

 特に国内の試合では。


 それと同門とはいえ俺は移籍組いせきぐみだ。

 俺の場合はほぼ初めましてだったから。


「やっぱり神経質だなあ。有我あるが……君?彼は大胆だいたんすぎじゃない? なんで連絡とってなかった?」


 俺はその質問には応えなかった。


「人間関係だから仕方ないか。逆に俺は君の徹底てっていぶりに感動しちゃったなあ。心霊ドキュメンタリー以外にも俺は副業してるけど、格闘家って言うフィルター無しで同い年ってくくりならどう?」


有我あるがに興味あるなら本人に話せ。俺に取り入るなんて卑怯ひきょうだ。らしくもない」


「取り入ってるねえ……なんかごめん。有我あるが……君も興味あるけど君とは上京してから一番関係が深くて頼れるのは俺だと思っていたから君と話してるだけなんだけどなあ」


 はぁ。

 やりにくい。

 だが敵意は無いし、ジムで見る殺気もない。


「悪かった。よろしくな。佐波刺さわし


 こうしているとガキのようだ。

 でも緊張きんちょうほぐれた。

 そして奥へと足を踏み入れる…すると、


有我あるが!」


 久しぶりに見た同郷どうきょうの友がアラレもない姿になっている。


「やっぱり……竜南たつなか……悪い……つかまっちまった…」


 呼吸はある。

 どうやら気絶させられた形跡がある。


 奥には初老の男がいた。

 ガッシリと今も身体が鍛えられている。


「君は八ツ橋竜南やつはしたつな選手だね。そして佐波刺涉岐さわししゅうく選手。という事は八ツ橋やつはし選手は移籍してきたんだね。よろしく。未来あるファイター」


 奥には兵達とは違う別の気配を感じる。

 佐波刺さわしもそれをさっして準備をしている。



「若手の考えは時代によって変わる。だが共通項は歳上や年長者への恨みだ。先達の多数派は私のような生き方をしていないから恨まれる要素が多い。真面目に取り組む事や楽をすることを批判するつもりは無いが、こうして秘密を守り研究し続ける私が君達より弱く思えるかな?」



「━━━━━━博士、侵入者の相手はワタシタチガ引き受けます。━━━━━━年齢等ハ関係ナクワタシタチハ力ヲアタエえられた身。━━━━━━━オテヲワズラワセルワケニハ……」


 手で幹部とおぼしき奴の会話を博士と呼ばれた男がさえぎる。


「むしろ大事な息子であり、娘である君達の手を汚させたくない。そこにつるした侵入者と竜南たつな君は友のようだね? しかもかけがえの無い」



 選手から君付けか。

 見下しているのではなくあおっている。

 そして佐波刺さわしがアップを始める。


「この人はおそらくどこかのジムの会長だ! 俺達の対策……いや、全ての国の選手の特徴全部完璧に対処出来るすべがある! それに……」


「分かってる……」


 こ の 男 は 改 造 を ほどこ し て な い


 兵隊が攻撃をしないで俺達を分断ぶんだんする。


 加勢させない気か……佐波刺さわしが危ない!

 遠くから男の声がする。

 わざとだ!


佐波刺さわし君。君は幼い頃からキックボクシングと総合、MMA、女子格闘技の基本を叩き込まれているね?しかも現代技術とはやや違う。先輩達の教えが色濃いな。勿体もったいないな。教えてあげよう。時代に適した生き様をアップデート出来ない者の末路まつろ顛末てんまつは、老いよりも残酷だということを!」


「うわぁぁぁ!」


 嘘だろ?


佐波刺さわしぃぃ!」


 すると男の声がまた響く。


「大丈夫だ。佐波刺さわし選手は気絶しているだけだ。君達のデータを分析ぶんせきし、他団体とはいえいつ試合を組んでもいいように私達はジム生とここにいる息子と娘達に教えているのだからね!」


 いくら何でも佐波刺さわし瞬殺しゅんさつだなんて有り得ない!

 だがただ一つ分かるのは男は兵力が無くても俺達を殺せるという脅威きょういだけだ。


 ふるえる。

 対戦カードが変更になった原因はあの男にあるのに。


 友を二人もたおされたのに。

 普通に考えれば逃げたくなる。

 だがこういう予定調和よていちょうわこわされる感覚は燃えてくる!


 俺をかこむもの。

 恐らく男の犠牲者達をこぶしあしで倒す。


「俺は若手だ。そこでアンタを守っている兵士は俺の対戦相手だ。更にアンタ自身の力で佐波刺をさわし……同門の仲間を簡単に倒され、俺の地元から縁が切れない親友をつるしている。けど、俺は全ての成功者を嘲笑あざわらう権利を得た。最強の相手と戦える今が、一瞬でも過ぎるのが惜しいと思うくらいにはな!」


 佐波刺さわし有我あるがが同時に声を出す。



「「その人は簡単に勝てる相手じゃない!」」


 おいおい。

 心配してくれるのか。


 優しいな。


 すると男が手を挙げる。


「残念だが君を相手にするのは私じゃない。佐波刺さわし選手を止めたのは彼が私に殺気を放ったからだ。正当防衛をしただけだよ。ライセンスのことは心配しなくていい。君を倒すのは私じゃない」



「ココ ニ イルンダゼイ!!!!」



 本来俺が試合をする相手だった。



辣晴界憑らつはらかいつ!」



「━━━━━━昔カラ敬意ヲカンジナイ

 ━━━━━━━無礼ナ若手を教育スルノハ━━━━━━━お、俺の…俺ノノノノノノノノち、違う…俺は…金が欲しかっただけだ!━━━━━━元の素体ノデータヲ読み取る━━━━━私、俺は俺は…てめえらのような奴らにしたがって、なめられてたまるかあ!!!」


 ちっ。

 まあこいつも強者か。


「敬意か。じゃあ辣晴界憑らつはらかいつ。逆の可能性を感じなかったか? 歳下にもリスペクトしようっていう発想は無かったのかよ? 俺達に品性ひんせい求めてんじゃねえ! 過去に有我あるがへ対して暴言を吐いたことは今の俺のやり取りで帳消ちょうけしだ。だが、ここで試合…いや、血祭りはさせては貰うけどなあ!!!」



 そして俺と辣晴界憑らつはらかいつ……異形いぎょうとなった対戦相手と戦いを続けた。



 ガシッ!

 ドンッ!


 様々なオノマトペが鳴り響く。



 男はだまって俺達の闘いを無視する。



「前会長。貴方が私に教えたかったのは、彼らのようなほとばしり…だったのでしょうか?」



 残っているのは俺と因縁の辣晴界憑らつはらかいつ


 面白ぇ!

 そうだ。

 この感覚だ!

 血湧ちわ肉躍にくおどるとも違う。

 そして酒池肉林しゅちにくりんで欲を楽しむのも違う。


 唯一無二ゆいいつむにの経験。


 俺は超人でも神でも不死身でもない。


 弱い人間だ。


 だからいいんじゃないか。

 若い人間にありがちな無敵だと思える盲信。

 そして明かされる現実。


 幻想じゃない!

 事実!


 俺はただ、なんの迷いも無く秘密裏で闘える!

 友を守る為?

 強さの証明?


 いや、違う。

 そんなものじゃない!


 死ぬまで戦ってやる!




△幻の対戦カード



 こ、ここは?


 そばは大の字で倒れている竜南たつな

 そして公園である人に飲みものをのませてもらっている。


「良かった。有我あるが君も丈夫のようだ」


 いやあ、佐波刺さわし……選手だっけ?

 竜南たつなも東京で仲間出来たじゃねえか。

 真相を解明した後に祝いたかったんだがな。


「さ、佐波刺さわし選手。竜南たつなは? 生きているのか?」


佐波刺さわしでいいよ。で、竜南たつなの事だけどずいぶんハデに戦ったよ。けど、顔に傷をもらってないところを見ると俺達の教えを守って今までの経験を活かして戦闘を楽しんでいたね。古臭ふるくさいって、初老しょろうのマッドサイエンティストにこき下ろされて俺はやられたけどさ」


 あれから体力がつきて覚えていない事もある。

 けど、勝負にも試合にも勝ったみたいだ。

 すげえよ竜南たつなは。



「インスタントカメラを持参したのは妙案みょうあんだったね。あのマッドサイエンティストがその辺り雑に残すわけなさそうだったから、多分わざと…かもね」


 そうか。つまり、


電子機器でんしきき証拠しょうこは 消されたか」


 壊さずに証拠隠滅しょうこいんめつか。

 本当にあの人は年寄りの範疇はんちゅうむのか?

 でも、なんで俺達は公園に?


「目が覚めたら俺達はビルの外。しかも他に見はっていたはずの誰かの気配も消えた。もしかしたらマスコミとか外部の圧力なんて簡単に制圧してて、俺達が来る事を見越してたのかも。有我あるが君だけ予想外だったらしいけど」


 佐波刺さわしく……言いにくいなー、佐波刺さわし選手は屈辱くつじょく的な仕打ちを受けたのに何事も無かったように状況を話す。

 この人同い歳?

 怖いんだけど。


「取りあえず、幻の対戦カードは組まれたわけか」


 佐波刺さわし選手は目を覚ます直前の竜南たつなを前に、俺に名刺を渡す。


「今回の真相は闇の中。せっかく、不確定要素も加えて一歩踏み入れたのに。有我あるが君。くわしいことは後で、彼が起きてから話そうか。俺の名は佐波刺涉岐さわししゅうく。心霊ドキュメンタリースタッフとしての名刺を渡すよ。一緒に、この地に眠る真相を暴かないか?」


 この人もすげえよ。

 他のファイターは知らないけどこの人、副業も理解の外だ。

 でも都市で友を応援しながら上京生活と未知の探求もできるのなら、それ以上のよろこびはないよな。


差柱有我さもあるがです。よろしく。

 まずは下っ端からで良いので…この闇深き半地獄の解明と探求に協力させてもらいます」


 また。

 あの博士と会いそうだ。




△・・・




 まさか狂気でも本能でもなく、闘いを求める人間がいるとは。


 私も腕によりをかけて実験にはげみ、そしてより選手を育てていくとしよう。


「━━━━━━━━こんかいのプロジェクトで判明致ハンメイイタシマシタ。より強固きょうこナシェルターヲ私達の手二ヨッテ作り上げマス」


 全ては走天月はしらあまつの協力に過ぎない。

 どの世界の中心にもいないからこそ存在理由がある。


「健闘を祈るよ。我が子達」



 アナタのソバでも怪奇かいきあり。

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Dreamless and Hopeful-夢失いし希望持つ者- 釣ール @pixixy1O

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