元邪教の聖女様メフィエルちゃんは、のんびり錬金術師スローライフを目指してるだけなのに、気づいたらメロメロになった信者たちがはぁはぁ言いながら奴隷になっているようです。
第4話 メフィエルちゃんはユーニさんが大好きですよっ……!
第4話 メフィエルちゃんはユーニさんが大好きですよっ……!
購入していただいた木材を背負い鞄に入れたメフィエルちゃんは、カノッサさんに「ありがとうございましたっ」とちゃんとお礼を言ってから、セドリックさんを連れてメフィエルちゃんのお店まで戻ります。
ウキウキと軽い足取りで歩くメフィエルちゃんの後ろで、セドリックさんが心あらずといった様子で「メフィエル様のご奉仕……ご奉仕……でゅふ……でゅふふふふ……」などと呟きを漏らしています。なんだかシアワセそうな雰囲気なので、メフィエルちゃんもいい気分になって、「ふんふんふ~ん♪」と鼻歌を歌いながらお店までの道のりをスキップして歩きました。
お店に到着したところで、セドリックさんがこう言いました。
「め、メフィエル様っ! 自分はメフィエル様の奴隷として、メフィエル様のためにお金をたくさん稼がなければなりませんっ! ずっとメフィエル様といたいのはやまやまですが、いったん自分はここで失礼させていただきますっ!」
セドリックさんの素晴らしい心がけに、メフィエルちゃんは思わず「おおっ」と感動の声をあげてしまいました。
「セドリックさんがそこまで敬虔な心をお持ちでしたとは。メフィエルちゃんは感銘を受けました。この感謝を伝える方法は、メフィエルちゃんにはこれしか思いつきません」
メフィエルちゃんは、セドリックさんの方へ一歩二歩と踏み込んでいき、セドリックさんのお胸にぎゅっと抱き着くようにハグをしてあげました。
メフィエルちゃんの胸の膨らみがセドリックさんのお腹の上部に当たって形をむにゅむにゅと変えていきます。間近で見上げたセドリックさんの表情も、形をむにゅむにゅと変えていました。
「あ……あへっ……あへへっ……あへへへへっ……!」
勢い余って魂そのものをぎゅーっと抱きしめて吸収してしまったせいか、セドリックさんはこの世の天国のような様子であへあへとしています。なんだかとってもシアワセそうな表情で、それを見つめるメフィエルちゃんも「うーむ、また一つ善行を積んでしまいました」と満足気に頷きます。
満足したメフィエルちゃんは、ぱっと背中に回していた手を離してセドリックさんから一歩引きます。その瞬間、セドリックさんは天国が終わってしまったようなとても寂しそうな表情をしていましたが、それからふるふると首を振って、こう宣言しました。
「このセドリック、生涯をメフィエル様に捧げさせていただく覚悟ができました。ですのでどうか、どうか時々でいいですので、メフィエル様のご慈悲をいただけたら幸いでございます」
「そうなのですね。立派ですよ、セドリックさん」
メフィエルちゃんは、セドリックさんのような敬虔な信者から熱い眼差しを向けられる事には慣れていますので、聖女だった頃のままの立ち振る舞いでその想いに応えます。
「いつの日も、メフィエルちゃんがセドリックさんを愛している事を忘れないでください。セドリックさんがやがて天国に行くその日、それまでメフィエルちゃんに一生懸命奉仕していれば、メフィエルちゃんがとっても素敵なお返しをしてくれます。その日こそ、セドリックさんの人生で一番シアワセな日であり、その時セドリックさんは本物のシアワセニンゲンとなるのです」
「う、うわあああああああああ! いまなにか、メフィエル様に後光のようなものが差して見えましたっ! このセドリック、これから心を入れ替え、誠心誠意メフィエル様に尽くさせていただきますぅううううううう!」
セドリックさんは、メフィエルちゃんにひれ伏すように礼をしてから、その場を去っていきました。
「冒険、頑張ってくださいね~」
メフィエルちゃんもひらひらと見送るように手を振ってから、気を取り直してお店の中に入っていきます。
さて、色々あって手に入れた50万ゼニーのトネリコの木材ですが、まずは杖の形に加工しつつ、魔石や魔法陣を埋め込んで魔道具として加工しなければいけません。
メフィエルちゃんは魔法の杖を作るのは初めてですので、今一度メフィエルちゃんの参考図書である『錬金術師になる方法はたったこれだけ! あなたもラクラクメソッドでキラキラ錬金術師に!』を参考に、魔法の杖作りの手順をおさらいします。
木材を杖の形に加工するには、加工ポーションというポーションを水で割ったもので錬金釜を満たして、そこに木材をそのまま入れ、釜を火にかけてぐーるぐーるとかき混ぜるそうです。そしてその際、「【ぐーるぐーるっ】」という呪文と共に完成形の杖をばちっとイメージし、錬金魔法を発動させると、思い通りの形の杖ができるとの事。錬金術とは素晴らしいものですね。
そして、その際、魔法陣を書き込むためのスペースを杖の先端に用意し、そこから魔力回路を繋げて魔石の設置台を作ると、魔法の杖ができるそうです。この魔法陣を書き込むスペースはある程度の広さがないと強力な魔法は使えないそうで、これが魔法の杖は先端が大きくなった形のものが多い理由だとか。
魔法陣の書き込みと魔力回路の接続は、魔石書き込み機という設備を使って魔石の粉末で記述していくのですが、この魔石書き込み機は幸いな事にこの工房に付属していました。メフィエルちゃんも聖女時代にお守りなどを作るために使ったことのある設備ですので、今回はぶっつけ本番で挑ませていただきたいと思います。
メフィエルちゃんはここまで述べてきた手順を頭に入れつつ、まずは加工ポーションとそれに合わせた量の水で錬金釜を満たしていきます。そこに、セドリックさんのおかげで手に入れる事が出来た光属性強化魔法つきのトネリコの木材を思い切って一気に沈めます。
慣れた手順で薪をくべて火をつけたメフィエルちゃんは、十分釜が熱せられるのを待ちます。それから混ぜる為の棒「まぜまぜ棒」(メフィエルちゃん命名)を使って、ぐーるぐーるとかき混ぜていきます。
「【ぐーるぐーるっ】」
呪文に合わせてメフィエルちゃんの魔力を練ると、錬金魔法が発動し、錬金釜が紫やオレンジなどが入り混じった複雑な色に光り輝きます。それにより、メフィエルちゃんのイメージ通りの形へと木材が加工されていきます。
メフィエルちゃんがイメージしたのは、先端が大きな球形になったワンドです。持ち手側から球形部分の空洞に魔石をセット出来る造りにして、そこから魔力回路と魔法陣を書き込んで、魔法が発動する作りにしようと考えました。
かき混ぜる事10分ほど、やがて錬金魔法の光は弱くなってきました。これは目的のワンドが完成した合図。メフィエルちゃんの瞳がキラっと輝き、まぜまぜ棒を上手に使って、ワンドを錬金釜から取り出します。
「おおお。見事な出来栄えです」
出来上がったのは、まさしくメフィエルちゃんが夢想した通りのワンドであり、加工の結果余った木材は、いくつかの破片となって釜の底に沈んでいました。
メフィエルちゃんはひとまずワンドを作業台の上に置き、火を止めて釜の中身を冷ましていきます。余った木材は、せっかくの優秀な素材ですので、他の用途に使うため保存しておく事としましょう。メフィエルちゃんの隙のない立ち振る舞いに、錬金術師として成長してきた充実感を感じます。
魔石書き込み機の方に移動し、メフィエルちゃんが保存していた光属性魔石の粉末を書き込み機にセットします。そして、描きたい魔法陣を専用の紙に専用の魔石粉末入りインクでさらさらと記述していきます。メフィエルちゃんの得意な光属性攻撃魔法「【ぴかぴかーっ】」を綺麗に魔法陣で表現しました。強力な魔法ですので、なかなか複雑かつ大きな魔法陣になってしまいましたが、メフィエルちゃんはワンドの球形部分を十分に大きく作っていますので、バッチリ書き込むことができる算段です。
メフィエルちゃんは、作業している間に室内温度で冷やされたワンドを魔石書き込み機にセットし、魔法陣の描かれた紙を良い感じの位置に差し込みます。また、魔力回路で魔石と繋げる必要がありますので、さっきの紙とは垂直方向の方角に魔力回路を描いた紙を書いて、そちらも良い感じの位置に差し込みます。
魔石書き込み機を扱うには光属性魔法の適性、または代用となる魔道具が必要になるのですが、光属性魔法はメフィエルちゃんのもっとも得意とする魔法ですので、正直にいえば朝飯前といってもいいでしょう。メフィエルちゃんは昔同様の機械を扱っていた頃を思い出しながら、書き込み機を起動し、機械を動かすための光属性魔法を発動させます。
「【ぴかぴかーっ】」
魔石書き込み機が眩い白色の光で輝き、その光によって、魔法陣と魔力回路が、メフィエルちゃんの描いた設計図通りに、ワンドへと転写されていきます。
「できましたっ」
光が収まった魔石書き込み機からワンドを取り出したメフィエルちゃんは、見事に美麗な魔法陣が描かれたワンドを眺め、完成を知ります。
のちのち実験するため、メフィエルちゃんは、わずかな量の光属性魔石を球形部分の中にセットしておきます。
それからワンドを持ってみて、横に構えてみたり、上に構えてみたりしつつ、メフィエルちゃんは自らの格好良さを脳内で想像し、しばし酔いしれます。
「ふふふっ、いい感じですっ」
調子に乗ったメフィエルちゃんは、いつの間にか球形部分に魔石をセットしていた事も忘れ、真上にワンドを構えて、迷宮で鳥型モンスターを倒すのを妄想しつつ、こう唱えていました。
「【ぴかぴか~っ】」
途端、光の奔流が柱となってワンドから天井へと発射されます。
「あ……」
入っていた魔石は本当にわずかな量だったのですが、それでも木造の建築物の天井に大穴を空ける程度の威力は出てしまうようでした。
すると、天井に空いた大穴から、なにやら白い大きな塊が同時に落ちてきます。
ドーン! と音を立てて木製の床に穴を空けながら着地した白い塊は、どうやら「バスタブ」のようでした。
そしてそのバスタブには、入浴していたと思しき上階の住人が入っていました。
そう、メフィエルちゃんの工房は、2階がアパートになっていて、そこには人が住んでいるのです。
「ちょ、ちょ、ちょ、なにこれーーーっ!?」
バスタブに入っていたのは、20代くらいと思しき裸の女性でした。女性とは挨拶や世間話程度はした事がある仲ですが、特に深い交流があるわけではありません。
「うーむ」
こうした少し距離感のある関係においては、挨拶というものが大切だと、メフィエルちゃんのバイブルである『最高に意識高い人間として世界をハッピーにしていくための47の心がけ~ミーシーでアプリオリな思考ロジックでミラクルパーソンを目指そう~』に書かれていました。
メフィエルちゃんはその記述を思い出し、その女性、ユーニさんに明るく挨拶をします。
「こんにちは、ユーニさん。今日もいい天気ですねっ」
その声に、ビクリと身体を反応させてこっちを振り向いたユーニさんは、メフィエルちゃんの顔を見て、こう言いました。
「……またお前か~~~~っ!!!」
ユーニさんは泡々に包まれた身体でバスタブから勢いよく飛び出すと、たった一歩でメフィエルちゃんの前に着地、素早くメフィエルちゃんの首を両手でつかんで、ぐらぐらと首を絞めるように揺らしてきます。
すごい運動神経の良さだな、と思わずメフィエルちゃんは感心してしまいます。さすがは既にC級冒険者にまで行き着いた一人前の冒険者、ユーニさんです。
「この、あほーっ!! なんでお前は毎回わたしの床に穴を空けるんだーっ!!!」
ぐらぐらぐらぐらと首を勢いよく揺らされ、メフィエルちゃんの目が回っていきます。
そういえば前回ユーニさんと挨拶や世間話をしたときも、メフィエルちゃんが釜を爆発させて、天井に大穴を空けてしまった時でした。
その時も、こんな風に首を揺らされていた事を思い出します。
メフィエルちゃんはすっかり忘れてしまっていましたが、ユーニさんはさすが昔のこともよく覚えているようです。
「お前金がないから、どうせまた弁償はわたしの建て替えになるだろうが~~~っ!」
そういえば、前回大穴を空けた時、ユーニさんは親切にも、天井の修理代を快く負担してくれていたのでした。
その時は「絶対いつか返してもらうからな~~~っ!!!」などと言っていましたが、結局それから連絡はなかったので、メフィエルちゃんはすっかりその事を記憶から無くしてしまっていました。
「この、ドあほ~~~~っ!!!!」
いい加減首が締まりすぎてメフィエルちゃんもいささか苦しくなってまいりました。
「ユーニさん……一つ聞いてください……」
メフィエルちゃんは苦しい息の中、一生懸命に言葉を紡ぎます。
「メフィエルちゃんはユーニさんが大好きですよっ……!」
どんな時も愛を忘れてはいけない、というメフィエルちゃんのバイブル『最高に意識高い人間として世界をハッピーにしていくための47の心がけ~ミーシーでアプリオリな思考ロジックでミラクルパーソンを目指そう~』に書かれていた記述を思い出しながらのメフィエルちゃんの懸命な愛の言葉です。
きっとユーニさんの心も動いたに違いないと確信していましたが……
「この……この……ウルトラミラクルあほ~~~~~~~っっ!!!!!」
ぎゅーっと首を勢いよく締められて、メフィエルちゃんの意識はこてんと暗転してしまったのでした。
あれあれ……?
元邪教の聖女様メフィエルちゃんは、のんびり錬金術師スローライフを目指してるだけなのに、気づいたらメロメロになった信者たちがはぁはぁ言いながら奴隷になっているようです。 火水希星 @himizutoruku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。元邪教の聖女様メフィエルちゃんは、のんびり錬金術師スローライフを目指してるだけなのに、気づいたらメロメロになった信者たちがはぁはぁ言いながら奴隷になっているようです。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます