第7話 弱さ
昼休みに夏樹たちがお昼ご飯を食べていると、元パーティーメンバーの英里がやってきた。
夏樹は気まずさを感じながら、英里を見上げる。
「その……どんなご用事ですか?」
「端的に言えば、帝間くんをもう一度パーティーに誘おうと思ってね」
「……え?」
「前の帝間くんはネズミしかテイムしていなくて戦力にならなかった。だから、パーティーから抜けて貰ったけど、ドラゴンをテイムしたなら話は別だよ」
弱いからパーティーを追い出したが、強くなったからもう一度誘う。
とても簡単な話である。
理解は出来るのだが、夏樹としては胸のモヤモヤが止まらなかった。
「どうかな?」
「それは都合が良すぎるんじゃない?」
夏樹が何かを言うよりも早く、心海が立ち上がった。
キッと鋭い目つきで英里を睨む。
「君は? 私は帝間くんと話しているんだけど?」
「私は夏樹くんの友だち。友人として夏樹くんを馬鹿にされるのは気に入らないの」
「馬鹿になんてしていないよ。弱いから出て行って貰った。強くなったからまた誘った。ただ、それだけ」
「それを馬鹿にしているって言ってるの。夏樹くんがパーティーを追い出されて、どれだけ陰口を言われたか知ってるでしょ?」
心海の言う事は事実だった。
夏樹はパーティーを追い出されて、その噂が広がると陰口をたたかれた。
『寄生虫が追い出されたwww』
『ザコは学校辞めれば良いのに』
『マジでテイマーとか場違いなんだよなー』
その陰口は英里が悪いわけじゃない。
そもそもの事実としてテイマーは弱い。探索者には向いて居ないのだ。
陰口の原因は夏樹の弱さにある。
しかし、悪意の導火線に火を付けたのは、英里によるパーティー追放が原因だった。
夏樹はそのことを恨んでいない。恨んではいけないと思っている。
あくまでも、原因は自分の弱さなのだから。
しかし、もう一度パーティーに誘われるのは気分が悪かった。
「陰口の責任を私に押し付けないで。私はただパーティーから出て行って貰っただけ」
「だからって、もう一度パーティーに誘うのは無神経だって言ってるの!」
「意味が分からない。私は現状の帝間くんを正当に評価したから――」
「ちょっと良いかな」
ヒートアップしそうになった二人に夏樹が割り込んだ。
場の視線が夏樹に集まる。
「僕ば……剣崎さんのパーティーに参加することはできないよ。きっと、お互いにとって良くないと思う」
夏樹は誘いを断った。
これは自分の気持ちの問題もあるが、きっと英里にとっても良くないと判断してのことだった。
「たぶん、今の状況で僕が剣崎さんのパーティーに入ったら、悪い意味で注目されると思うんだ」
夏樹の評判は、クロミツのおかげで高まっている。
その状況で、再び英里のパーティーに入るとなったら、今度は英里たちに悪意が向けられるかもしれない。
ついでに、問題はそれだけじゃない。そもそも英里は勘違いをしているのだ。
「それに僕はクロミツを――ドラゴンをテイムしたわけじゃないんだ。クロミツは僕の友だちで、ただお願いを聞いて貰ってるだけだから」
「テイムしたわけじゃない……そう……」
英里は隠す様にため息を吐いた。スッと瞳から色が抜ける。
夏樹への興味を失ったのか、長い黒髪を揺らしてくるりと振り向いた。
「私の勘違いだったみたい。邪魔してごめん」
そうして英里が立ち去ろうとした――その時だった。
「キャァァァァァ!?」
「うわぁぁぁぁぁぁあ!?」
「逃げろォォォォォォォォォ!!」
校舎から生徒たちの悲鳴が響いた。なに事かと夏樹たちは校舎に目を向ける。
「あれって……」
「ッ!?」
「う、うそ……」
校舎裏から巨大な影が飛び立った。
ズシン!!
地響きのような音を響かせて校舎の屋上に真っ赤な影が舞い降りた。
そこらの一軒家よりも巨大な体。太陽を隠すような広い翼。名刀よりも鋭い爪と鋭い牙をギラギラと輝かせる。
「GYAOOOOOOOOOOON!!」
まごうことなきドラゴンが、ビリビリと空気を震わせて咆哮を上げた。
おそらく、昨日の夜にダンジョンから抜け出したモンスターの一匹だ。
校舎裏には人があまり入らない山がある。きっと、そこに一晩隠れていたのだろう。
「ねぇ……あれも夏樹くんのお友達だったりしない?」
「あ、あれと友達は無理そうだね」
ドラゴンはギラついた目で辺りを見回す。
そして校庭で遊んでいた生徒に目を向けると屋上から飛びだった。
ズン!!
校庭に降り立つと、鋭い牙の間からよだれを垂らしていた。
人間を、獲物として見ている。
「マズいね」
英里が腰にかけていた剣を抜いた。良く研がれた剣がキラリと光る。
心海がその様子を見て驚いた。
「もしかして、英里さん戦うつもりなの!? 相手はドラゴンだよ!?」
「このままじゃ被害が出る」
「いやいや!? 先生に任せた方が良くない!?」
「残念だけど、先生たちはあくまでも先生でしかない。一流探索者ほどの技量は無いよ」
英里の言う通りだった。
夏樹たちが通う高校は、探索者を育成している。なので、生徒や教師陣は普通よりも戦闘に慣れている。
しかし、教師陣はあくまでも先生である。
高校の教師が最前線を切り開く研究者ではないように、一流の探索者と同じように戦えるわけじゃない。
「むしろ、生徒のほうが単純な戦闘力は高い場合もある。私みたいにね」
「だ、だからって英里さんが戦わなくても……」
「強さには責任が伴う。強い私は皆を守らなくちゃいけない」
「あ、ちょっと!?」
心海の静止も聞かずに、英里は走り出した。
迫るはドラゴン。今にも生徒たちに襲い掛かろうと、大きな口を開いていた。
その目に剣を突き立てる。
「GARUU!!」
「ッ!? 流石に素早い」
しかし、英里に気づいたドラゴンは首を振った。
たったそれだけの動作でも、巨体の動きは英里への攻撃となる。
英里は剣を使ってガードする。吹き飛ばされるが、空中でくるりと回転して芝生に降り立った。
「私がドラゴンを引き付けるから、君たちは早く逃げて!!」
「は、はい!」
「ありがとう!!」
英里の指示に従って、校庭にいた生徒たちは逃げ出す。
どうやら、校舎の方でも先生が避難を進めているらしい。生徒たちを誘導する先生の姿が窓から見えた。
校舎裏から逃げ出すつもりなのだろう。
「剣崎さんは強いけど……ドラゴンを相手に一人で戦うのは無理だと思う……」
「えっと、すぐに警察が駆けつけるよね? それまで耐えられれば……」
「たぶん、それよりも早く無理が来ると思う。むしろ、生徒の非難も間に合わないかも」
ドラゴンと戦う英里は無理をしていた。
夏樹はお荷物でも、半年の間はパーティーを組んでいたのだ。
英里とドラゴンの強弱くらいは分かる。
ドラゴンの攻撃は、一撃一撃が重くて速い。英里では避けるのが精いっぱいだ。
一撃でも食らえば倒されるだろう。
一方で英里の攻撃は固い鱗に弾かれて、まともにダメージが入っていない。
「この場で唯一勝てる可能性があるのは、同じドラゴンのクロミツだけ……クロミツ?」
夏樹が振り返ると、クロミツは怯えた犬のように尻尾を丸めていた。
「……もしかして、あのドラゴンが怖いの?」
「がう……」
プルプルと震えるクロミツは、完全に戦意を喪失していた。
次の更新予定
裏庭にドラゴンが住み着いた~ぼっちテイマーはドラゴンと青春を無双する~ こがれ @kogare771
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