第3話 魔法鑑賞会

火炎弾ファイヤーボール!!」


 金髪の少女は魔法を唱える。手を前にかざすとそこには魔法陣が出現する。

 そして彼女が『ファイヤーボール』と唱えるとその魔方陣から無数炎の弾が出現し、彼女の前にある木をめがけてその弾が飛ばされてゆく。

 その威力はものすごいもので当たった木には大きな削れた跡が残った。

 

 見た感じ前世でいうところの弓の練習みたいなことをしてるのかな?的を狙って撃って命中精度を上げるとかそんな感じ。まあ、だとしたら…


「…ッ!どうしてまた当たってないのよ!」


 そうなんだよね、全部外してるんだよね。炎の弾5、6発はさっき撃ってた気がしてたけど、なんか撃った球が途中でぶれだして全部周りの木に当たちゃってたんだよね。

 それにまた外したって言ってるし、多分ずっとこんな感じなんだろうな。


「次こそは!!くらえ!氷塊弾アイスショット!!」


 そうしてまた彼女は手を前にかざし、こんどは魔法陣から無数の氷を出現させる。

先端にかけてとがっているその氷塊は詠唱とともにカーブを描きながら的めがけて発射される。

 しかし、やはりその氷もほとんどが途中で軌道がぶれ明後日の方向に飛んで行ってしまう。そして残った数本の氷も軌道があっておらず外れてしまう。今回もすべて外れたかに思えたが、逆に軌道のずれた一本の氷がきれいな放物線を描いて的の真ん中に命中した。


 ようやく当たった一本、とはいえやはりこれはまぐれというやつだ。それにあれだけの数飛ばして一本しか当たってないのは精度が悪すぎるというほかない。

 まあ、魔法について何も知らない俺が偉そうに言えたもんじゃないけど…

 しかしまあ、彼女は人前では魔法使えないだろうな。普通に威力がある分、変な方向に飛んで行って誰かに当たったら大惨事になるだろうし。

 彼女もそれがわかってるからこんな人気のないところで練習してるんだろうな。


 …そうはそうといつ出てけばいいんだ?これ?つい魔法に夢中になってたから考えてなかったけど俺今ってただの覗きをしてる不審者だよな?今見つかったら言い訳できんぞ?

 しかもなんも気にしてなかったけどよく見たらあの金髪の少女、普通に貴族じゃないか?明らかに服がきれいで豪華だし、ていうか普通に腕のところに家紋あるし。

 …じゃあなおさら覗いてるのばれたら終わるじゃねえか!!


…よし、このままここで隠れるか。今んところばれる気配なさそうだしこのまま隠れ通して彼女が帰ったらその方向に向かおう。

 だから、勘違いすんなよ?そうすれば町のある方向に行けると思ったからであって決してストーカーとか覗き魔じゃないからな?


…さて、次の魔法なんだろ?


***


 その後もしばらく彼女は魔法を撃ち続けていたがやはり限界が来たのか、一旦魔法を撃つのをやめた彼女は近くの木に座ったのち、ポケットから取り出した細いカラスの容器から何か紫色の液体のようなものを飲みはじめた。


 …あれはなんだろ?あんな色の液体あんま見たことないぞ?

 見た感じ色的にぶどうジュースとかかな?…いや、それにしては少し赤すぎる気がする。それに大体、こういうときに飲むものって言ったらスポーツドリンクとかで、あんま水分補給でぶどうジュース飲むとかは聞いたことないしな。

 あっ…、もしや魔法がある世界だからマナポーションとかそう言う類のものなのでは?

 ああ、確かにそう思ったらイメージ通りだわ。大体あーいうのって紫か水色ってかんじだよな。

 …まあ、あんだけ魔法使ったあとなら補給いるわな。

 

 そうして彼女はおおよそ5分ほどマナポーションと思われるものを飲みながら休憩をした。

 その後、大きな息を吐きながら彼女は立ちあがり、また木の的の前に立った。


「…はあ、今日はもう一回あれ使ってから終わるか」


 そんなつぶやき声が聞こえてきて、どうやら次の魔法が今日のラストであることが分かった。

 ラストといわれそんなに時間がたったのかと空を見上げると、すでに赤色に染まりつつあることに気づいた。

 …世界初だろうな、隠れっぱなしで魔法鑑賞して一日つぶしたやつ。しかも異世界転生初日で。


 まあ考えたくないことを考えるのはやめにしてせっかくだし最後まで彼女の魔法を見るとしよう。正直なんやかんやいってたげど、彼女の魔法きれいなんだよな。素人目でも洗練されてる感じがする。


 そんなことを考えながら彼女を見ていると、なぜか彼女はさっきみたいに魔法を唱えようとはせず、自分のポケットに手を入れて何かのものを取りだした。

 何を取り出したのかとよく見てみるとそれは、一枚のカードのような大きさをした紙だった。

 そして彼女がそれを持った次の瞬間…そのカードはまるで星のように光りだした。


…なんだあれ。


 空にはさっきとは比べ物にならない量の魔法が浮き、周りから光の粒のようなものがその光の中心へと集まってゆく。

 その光景は一種の幻想的な世界に迷い込んだかのような感覚に陥ってしまうほど、美しい。

 そうして、集まった光は色を変え、青色になり彼女はその光輝く青色の星を一言の詠唱と共に放つ。


「凍星」


 そうして放たれた小さな青い星は的めがけて撃たれるもののやはりという感じに軌道がぶれ始め、その星は楕円を描くようにカーブしなんとまさかの俺の方向に飛んできた。

 そんな青く光る星を見て、さっき川を凍らせた魔法がこれであったことに気づく。彼女の魔法があさっての方向に行くことはあったけどあの威力でどうして川を凍らせたのか不思議だったけど、この明らかに強そうな魔法なら納得だわ、

 …あれ、待てよ?もし本当にそうだとしたら川を一面凍らす物体がこっちに飛んできてるってことにならないか?…待て待て待て!やっべ!俺ここにいたら凍って死ぬ!


「うおーー!魂の緊急回避―!!」


「ひぃ…!?」


 俺は何とか間一髪で草むらから前に飛び出し、凍り付く未来を回避した。…若い体じゃなきゃ危なかった。

 後ろを振り返ると見事に俺がいたところあたりが凍っており、気づけて本当に良かったと改めて実感した。ただまあ、命の危機は回避したんだけどさ…


「…だ、だれよあんた!?な、なんで草むらから!!」


「いやー、えーと。」


 …見つからないように隠れていた今日の時間が無駄になりました。

さて、どう言い訳しようかな…?



 

 

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よくある異世界の冒険のお話 kこう @kwkou

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