第二話 これ勝てなくないか?

「つまり俺は、今後この世界でスライム一体で戦っていかなければならないって事か?」

「んん、、ええまあ、そうともいうのかしらねえ?」

一向に目を合わせようとしない自称女神。

終わった。俺の異世界無双ライフの終わりを告げる金が心の中で高々と鳴り響いた。

足元のスライムは嬉しそうに俺の足に擦り寄っている。

もうこの世界では慎ましくこの可愛い物体と共に農家でもして生ていこう。そう心に誓った。俺は女神を睨んだ。びくつきつつも彼女は口を開いた。

「ま、まあスライムっていってもできることはたくさんあるわよ。」

「たとえば?」

「え、、そ、そうねえ。やっぱりなんといってもその跳躍力!山の一つや二つ軽々と超えてみせるはずよ!ほら!」

スライムの方を見る。ぴょんぴょんと飛び跳ねているその高さは30センチにも満たないだろう。もう一度女神をみる。何故か目が合わない。

はあ。大きなため息をつく。まあ、戦いを避け、平和に暮らすのも悪くないだろう。

さて、今後どうしていこうか。冷静になって周囲を見渡すと、明らかに獣のようなもの通った跡がいくつもある。スライムだけではそいつらとも戦えないだろうし、とりあえずはこの森の中を抜けることが最優先事項だろう。

「おい女神。この森の出口はどっちなんだ?」

「はあ?私が聞きたいわよそんなこと。」

「・・・。」

すっかり開き直っている。だめだ、このへっぽこ女神に任せていては命がいくつあっても足りない。スライムは当然道なんて分かりそうにないだろうし、俺はとりあえず、道の下っている方向へと歩みをすすめることにした。



深い茂みの中を俺たちはゆっくりと進んでいった。

「そういえばお前、名前はなんなんだ?」

「人の名前を聞くときは、まず自分が名乗るべきじゃない?鍵谷カズキ」

「知ってんじゃねえか。てかなんで知ってんだよ。」

「まあ、女神の権能ってやつ?(ドヤ)」

なんて人を苛立たせるのが得意な女神なんだ。

「私の名前はユウリ。職業は案内者(ナビゲーター)よ。」

「案内者?」

「そう。あんたみたいな右も左も分からない転生者のサポートをするためにここにいるってわけ。感謝しなさい!」

無い胸を張り威張るユウリ。まだこれといったサポートを受けた気がしないんだが。とりあえず俺はこの世界のことについて色々聞いてみることにした。

「この世界には文明が存在するのか?」

「もちろんよ。ただこの世界の文明はあなたの元居た世界のような科学文明ではなく、魔法文明によって栄えているわ。」

「魔法文明か。いかにも異世界だな。てことは俺がさっきこのスライムと契約したのも魔法か?」

「そうよ。この世界では個人差あれどもどの人間、動物、種族にも体内にマナが含まれているわ。それを様々な力に変換するエネルギーにしているってわけ。あんたの場合、その変換した力が『友好契約』になるわね。」

なるほど、つまり俺はこの世界の特権である魔法をこのスライムにしか使えないってことか。改めて自分がしてしまった事の重大さを実感する。

「ん、さっき種族って言ってたけどもしかして、この世界には人間以外にも種族が存在するのか?」

「何言ってんのよ!現に今あんたが連れてるスライムは列記とした魔族種の最弱ゆるふわ担当モンスターよ!」

とうとうこいつ最弱って言いやがった。スライムも心なしか自慢気にしているように見える。

「ほかにも妖精族とかエルフ族とかドワーフ族なんてのもいるわね。」

「フーン。人間と他種族との関係はどうなんだ?良好なのか?」

「んーまぁ、種族の中でも上位の知性の高い種になると社会的な地位や領土争いによって人間と対立してるのも多いけど、やっぱり魔族は知性が低くても本能的に人間を敵対視する奴らが多いわね。この森にいるのでも魔族の獣種である黒い狼みたいな見た目のアークウルフ達なんかは人を見ると噛み付いて喰らおうとしてくる凶暴な魔物よ。」

「なるほどなぁ、なあまさか、ちょうどいま周りをかこんでいるこいつらではないよな?」

「あーそうそう、こいつらがアークウルフね。、、、え?」

「グルルルル、、」

鋭い牙をむき出しにしてヨダレを垂らしながら唸っている黒い狼達がそこにはいた。いつの間にか俺たちはアークウルフの群れに取り囲まれていたのだ。ヤバイ、本当にヤバイ。

「ユウリ、お前何か戦える能力はないのか!」

「ある訳ないでしょ、私は案内役で戦闘は専門外!!」

こいつはほんとにとことん頼りにならない。くそ、こうなれば俺がやるしかないのか、足元のスライムが任せてくれと言わんばかりの表情でこちらを見ている。もうこいつを信じるしかない!

「よっしゃ!いけえ、俺の相棒、スライム!」

スライムは勢いアークウルフの群れへと飛び込んだ。

「!!」

先頭のアークウルフにスライムが全力の体当たりをする!

ぺち

柔らかい音がしてスライムはアークウルフの脚にびったりとついた。アークウルフは蚊でもとまったかのような反応をし、スライムを前脚で踏み抑えた。スライム、戦闘不能。

「スライムーーぅぅぅぅっ!!」

「アークウルフの前脚はマナによってとても強化されているからすごい力なのよ!」

「今そんな情報いらねえよっ!」

ヤバイヤバイ、完全に万策尽きた。こうなったら逃げるしかないが逃げようにもあまりの数の多さに道が塞がれている。そのうち一体のアークウルフが前脚を上げると鉤爪を紫色に光らせそれを振り下ろした。

「グカァッッ!!」

「「ひいいぃっ」」

俺とユウリは情けない声を上げながら間一髪のところでそれを避けた。地面を見ると鉤爪状に地面が深くえぐれている。

「なんだこれ!こんなんくらったらひとたまりもないじゃないか!」

「これはアークウルフの固有攻撃『黒爪(ブラッククロー)』よ。闇のマナが込められていて人間が生身でくらったらまず即死ね。」

知りたくない情報だけこいつはよく知っているもんだ。ついさっき前世で死んだばかりなのにまたこんなすぐに死んでたまるか!

「ガルルル、、」

アークウルフの包囲網かどんどん近づいてくる。

ど、どうすればいいんだ、、。

「ガアッッッ!」

一斉にアークウルフがおそってきたそのとき、俺の視界には1人の人影がみえた。










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召喚士俺、スライム一体で無双します @Sekimu

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