第2話 平凡女子 8年前の12月12日の約束 異世界

「やっと起きたか。ヒカリ。」

「えっ?あなた誰?ですか?ここは?」

一瞬、乙女チックになったものの、普段の好奇心の私が顔を出す。

私は目の前のイケメン男子は、さておき

部屋中を探索。

なにもかも違う。外の景色は緑の木々がある。広い庭らしき?いや

やっぱりお城だ。お城の整ったきれいな花が咲き乱れている庭も見える。

広い部屋中探索してとりあえず、私は椅子?

ふかふかのソファーに座った。

「あー、喉がかわいた。」

イケメン男子が「ヒカリ、相変わらずだな。

少しは大人の女子になったとか思っていたが、あの時と変わらない。

嬉しいが、どうしたものか?

そんなんで、クリスマスのお城の舞踏会で踊れるのか?」

目の前の男子が何かしゃべっているらしいけど、全然脳内に話が入ってこない。

「とにかく、水。水ちょうだい。」

「はい。はい。」

イケメン男子は侍女に水を持ってこさせた。

「はい。ヒカリ。」

「ゴクゴク。あー、冷たくて、おいしい。

私の家の水と大違いね。」

「当たり前だ。この国は山と緑に囲まれている。水脈にめぐまれた王国、

サバラ王国だ。」

水を飲んだ私は脳内がすっきりした。

改めて周りを見渡して、状況を把握した。

「で、ここはどこ?あなたは誰?

今日は火曜日。週はじめよ。

仕事は休めないの。早く帰って寝たいんだけど。

家に帰してくれない?」」こういうときの私は意外と冷静で

大胆不敵だ。そう私は現実主義なのだ。

「ヒカリ、いい加減に目の前の俺様の顔を見ろよ。

俺様を忘れたのか?」

確かに目の前の男子はイケメンだ。

「はい。はい。イケメン男子ですね。」

「おい。ヒカリ茶化すな。よく見ろよ。」

テーブル越しに私の両手首をギュっと握って

「俺様だ。ゼノだ。」

手首が痛い。

至近距離で顔を見る。

うーん?

緑の瞳。「ゼノ。」

自然と名前が口から出た。

「ゼノ、わかった。痛い。手が痛い。ちゃんと見るから手を放していたい。」

真っ赤になった私の手首を見てゼノは急いで手を離した。

「悪いヒカリ。つい力が入った。

しかし俺様を忘れていたお前が悪いんだぞ。」

私はテーブルの水をまた飲んだ。

思いだした。ゼノ。電車の中であった。

高校の部活の帰りに試合で負けて荒れていた。

高3のインターハイ行けなかった。

あの時だ。渋谷から友達と乗った。

乗り換え九段下でみんなとわかれた。

私はひとり電車の中に。その電車にゼノがいた。出会った。思い出した。

見かけはただの高校男子だった思っていた。

6月の土曜日。電車は意外と空いていた。

私は空いてる席に座ることなく脳内で試合を振り返っていった。

最後の試合はあっけなく負けた。

試合終了ホイッスルの音が。縦じまの審判の両手を上げた、あの終了の姿が

グルグルと脳内に残っている。

悔しかった。負けた。あんなに練習したのに。

女子力の前に筋力をつけろと監督に言われ、

筋トレ、シュート練習あんなにしたのに。

負けた。次はない。

汗臭いジャージも今日で終わり。

シュートを外した。自分がわるい。わるい。

いや、わるくない。いやわるい。

大きな部活のバックが電車の揺れで隣の男子にぶつかる。

わあ、ぼっちゃん高校の男子だ。横に可愛い彼女がピタリとくっついてる。

モヤモヤしていたせいもあるけど、瞬間に素直にごめんなさいが言えなかった。

でも自分のバックであてたから、やっぱり謝らないと、とごめんなさいを言いかけた瞬間。「君、人にぶつけておいて何も謝らないって

ひどくないか。」

遅れて「ごめんなさい。」と口にした。

「遅いんだよ。それに部活帰り。汗臭いんだけど。」

その言葉で私はプチンと切れた。

「何よ。謝ったんじゃない。ボーっと立ってる方が悪いのよ。」

ぼっちゃん高校の男子の横の可愛い彼女が

「自分からカバンぶつけておいて。」

私は「だから、ごめんなさいって言ったじゃない。」

その女子は「キャーこわい。」こわがるふりをする。

私は聞こえるように「バカ女。」と言った。

電車内のみんなが私を注目する。

声が聞こえる。

「女子なのにすごいね。」

お母さんらしき人は子供に「見ちゃだめよ。」

なんだか私だけが悪者みたいになっている。

「ドン。」男子が肘で私を押した。

「痛い。」

間に別の男子の手が入る。

ぼっちゃん高校の男子の手を握り

「その肘はいけないな。今、君、彼女を肘で押したよな。」

ぼっちゃん高校の男子の手が曲がっていくのが分かった。赤くなってる。

「痛い。」ぼっちゃん高校の男子が「やめてくれ。俺が悪かった。」

「じゃあ、そこのジャージの女子に謝るんだな。肘で押したこと。」

「ごめん。」電車が駅に止まる。

ぼっちゃん高校の男子は彼女を連れて急いで電車から降りていく。

間際に助けてくれた男子が

「お前のその彼女、可愛いふりしてるが性格わるいぞ。ハハハ。」

その彼女は怒って真っ赤な顔で2人、逃げるように降りて行った。

「ガタン。」ドアが閉まり電車が走りだした。

「助けてくれてありがとう。」

「いいや。たいしたことはしてない。」

「君、高校生?」

「高校生?違う。王子だ。」

「えっ?王子?なにそれ。君は嘘つきなの?」

その男子は真面目に「俺様は嘘はつかない。」

「えっ?俺様キャラ?なんだ。まあ、いいや。でも助けてくれて、ほんとありがとう。

正直、私もいけないの。試合に負けて、むしゃくしゃしてたから。

でも君、さっきの握力すごくない?

何かスポーツしてるの?

ちなみに私はバスケだけどね。

君は?」

「バスケ?俺様の世界にそれはない。」

「えっ?」

「俺様は武芸だ。剣と馬術だ。」

「へーえ、ほんとどこかの国の王子様の習い事のようね。」

「そうだ。さっきからそう言ってるぞ。」

電車が私の駅に止まる。「君、名前は?」

「ゼノ。いい名前ね。緑の瞳もキレイね。」

「お前の名前は?」

「私はヒカリ。」

「ヒカリ。また会おう。12月12日。

私の国のクリスマス舞踏会に一緒にいこう。

約束だぞ。」

「ありがとう。おぼえてたらね。じゃまたね。ゼノ。」



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