二章 口は悪いけどデレデレな後輩の話
第10話 口が悪い後輩が可愛すぎる件①
高校生二年生になってしばらく経った僕だけど、悲しい事に同級生で友達と呼べる人は未だに出来ていなかった。
まぁ一応、最近友達というか推しというかお隣さんと急速に仲良くなれたけど、以前として学校生活はモノ寂しく、青春とは無縁の生活を送っている。
しかしながらボッチと思われるほど腫物扱いはされておらず、挨拶や軽い雑談をする程度の知り合いはいるものの、みんな同じ部活仲間や趣味で繋がった深い友人がいるため、どうしても遊びに行くほどの進展が期待できないのが悩ましい状況であった。敗因として考えられるのは、やはり受け身になり過ぎたせいだろう。もっと積極的に遊びに誘うような積極性があれば何か変わっていたかもしれない。
あるいは同じ趣味の人がいれば……いやぁそれはちょっとバレたら社会的に死にそうなので言える訳がないからなぁ。
別に不登校にになるほど辛くはないけれど、一人でいいから一緒に帰るぐらい仲がいい友達が欲しい所存である。
「う~ん……」
「何を悩んでいるですか先輩。どうせ友達が出来る方法でも考えていたんじゃないですか?」
「あれ、口に出してた? 滅茶苦茶恥ずかしいだけど」
「なんで適当に言ったのに当たってたんですか……。こっちも恥ずかしくなって来たじゃないですか死ね」
視線を横に向けると――背中まで伸ばした艶やかな白髪を持つ後輩と目が合った。
「何ですか……こっち見られると照れるじゃないですかぶっ殺しますよ」
「語尾が強い語尾が強い」
彼女はぶすっとした顔で最上級の暴言を放つと、プイッと目を反らして手に持ったサンドイッチを口に含む。相変わらず愛嬌が死んでいる可愛い後輩が面白くて思わず笑みが零れてしまった。
「……なに笑ってるんですがぶっ殺しますよ」
「あははごめんごめん。ちょっと後輩が可愛くて」
「…………死ねばいいのに」
完全に拗ねた後輩は完全に僕に背中を向けて食事を再開し始めた。僕はごめんごめんと謝りながら彼女の隣に座ろうとして――二、三歩距離を離された。もしかして怒ってる……? いや耳が赤くなっているから察するに、照れているだけだろう。
まるで人形のような精工に整っている顔。スラリと誰しもが羨むモデル体型。まるで宝石のような黄金色の瞳は見た人の誰かも魅了させる美しさを持っていた。
誰がどう見ても文句の付け所が無い圧倒的美人が、何故か僕の少し離れた場所でモソモソとお昼ご飯を食べていた。
彼女の名前は――『
姫廻とは今と同じ屋上で初めて出会った。
というのもこの学校の屋上は今時には珍しく常に開放されているのだけど、そのことにあまり知られておらず、また屋上のため風が強く吹くため基本的に誰もいない。
一人で昼食を食べるのはちょっと恥ずかしく便所飯は絶対に嫌――そんな気持ちで僕は昼食をほぼ毎日この屋上で食べていたのだけど、偶然にも同じ意見を持っていたのが彼女である。
最初こそはいつも同じ人がいるなぁって印象で話しかけることはしなかったけど、何のきっかけか忘れたけど今ではこうやって軽口を言い合うぐらいの仲になった。
姫廻は口と愛想が悪いけど、話してみた感じ嫌な人じゃないようだ。……どっかのお隣は愛想が良いのに性格が悪いんだけどね。
ただ、お昼になったら同じ屋上で食べる関係。
彼女の事は――ほどんど何も知らない。
友達と呼ぶには余りにも遠く、重なりが少なすぎる関係。でも、不思議と気まずくなく心地い距離感で――
「あ、そうだ先輩。友達いないんですか?」
仏頂面の姫廻がこちらを向く。その口角はほんの少し上がっている気がした。
「……友達はいるにはいるよ。中学生の友達が地元に三人ぐらい」
「あ、もういいです。その遠回しの発言でお察ししました。中学生の友達も四捨五入すればゼロじゃないですか」
「なんで四捨五入すんだよ。消すな僕の友達を。……そう言う姫廻はどうなんだよ?」
「いる訳ないじゃないですか。私の口の悪さを舐めないで下さい」
「自覚あるなら直せばいいのに……」
姫廻は得意げに鼻を鳴らす。なんでこの人は性格に難があるのだろう。まるでお隣みたいだな! なんか最近変な美人としか会話していない気がするぜ!
「――じゃあ先輩。私と友達になりませんか?」
「…………へ?」
意外過ぎる言葉に脳が理解できず、思わず裏声で返事してしまった。驚き過ぎて手に持っていたパンをうっかり落としそうになった。
その言葉が冗談かどうか分別するために僕は彼女の顔を見る。
姫廻の表情は馴染みのあるいつもの仏頂面。しかし――誤魔化せないほど彼女の顔は真っ赤に染まっていた。
「…………えっと。……その」
「躊躇しないで下さいぶっ殺しますよ。……恥ずかし過ぎて照れ隠しに殺したくなりますので、今すぐ迅速に友達になると今誓って下さい。断ったら絶対許しませんから。私のあらゆる手段を使って先輩の人生を滅茶苦茶にしてやりますので」
「う、うん! 友達になろう姫廻!」
相変わらず口は悪いけど願ったり叶ったりの提案に断る理由もなく、僕は喜んで承諾した。
「うん。それで良しです」
そう言うと、彼女には珍しく――誰でも感情が読み取れるぐらいにニッコリと口角を上げた。
――そんなこんなで、可愛い後輩と友達になった。
次の更新予定
2025年1月9日 08:03
お隣の推し(29歳独身雑談系Vtuber)が死ぬほど炎上している件 阿賀岡あすか @asuka112
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