働け、メロス

京葉知性

走らないで、メロス。

 ある男が居た。

 仮面を被り、自分には似合わない振袖を着て、高下駄を履き暮らす、奇妙な男だ。

 端的に言えば、家に引きこもり、匿名でTwitterというSNSを使い、自己啓発系のインフルエンサーとして暮らしていた。

 その者の名はメロスと言った。




 メロスは激怒した、かの邪智暴虐なCEO、イーロン・マスクを必ず除いて見せると。

 メロスには社会が分からぬ。メロスは高校を卒業し、生まれてこの方働かずに遊び呆けていた。

 メロスはFFの者に聞いた、

「何故このSNSの名前はXになったのだ?」

 FFは答えた。

「それはイーロン・マスク様がCEOになったからです。名称をXに変更し、APIを制限し、アプリ連携に法外な重税をかけたのです」

 メロスは更に尋ねた。

「どうしてイーロン・マスクはそのようなことをするのだ?」と。

 FFは答えた。

「イーロン・マスクはめちゃくちゃです。道行く人々を凍結させ処刑し、挙句の果てには陶酔した芸術家には金銀財宝を送ったというのです。彼はまともではありません」

 メロスはそれを聞き居ても立ってもいられなくなった。

 しかし、メロスにはXに意見を通す方法が分からぬ。メロスはしかたなく、イーロン・マスクと検索し彼のアカウントを探した。

 メロスは誹謗中傷してみせた。かのイーロン・マスクを必ずCEOから降ろしてみせると。


 メロスには法が分からぬ。

 自身の郵便受けに溜まった開示請求の存在など知りもしなかった。

 メロスはご飯を摂ることも忘れ、偶然にもフラフラと扉を開け外に出た。そして郵便受けから溢れる開示請求の数々をついに見つけたのだった。


 メロスは開示請求元にメンションした。DMをした。

「今は父の葬儀に行かねばならぬ。必ず七日後に帰る。七日後に帰るまでは連帯保証人であり竹馬の友であるセリヌンティウスに裁判の代理人を任せる」と。

 イーロン・マスクはあっさりと承諾した。

 メロスは急いだ。無論、メロスに死ぬ父などおらぬ。竹馬の友もおらぬ。嘘八百、高飛びする気満々であった。




 メロスは山を超え、谷を超え、黒い風よりも、登る太陽よりも、リニア新幹線よりも、5G回線よりも早く走った。

 メロスが高飛び、夜逃げ、をする道中、メロスの前には集団ストーカー対策集団がゆく手を阻んだ。

 メロスは言った、

「確かにわたしは5G回線よりも早く走った。だからといって汝らに健康被害を出すわけが無い。私を訴える必要は無い、連行する必要は無い」と。

 集団ストーカー対策集団は言った、

「我々が欲しいのはそのTwitterアカウントだ。我々はそのアカウントで世に5G電波の危険性を知らしめたいのだ」と。

 当然メロスはそれを許さなかった。

「Twitter、いやXのアカウントなど秘中の秘、そうそう容易く受け渡すことなど出来ぬ」と。

 集団ストーカー対策集団は答えた、

「それならば、力ずくで奪い取るまで」と。

 メロスは戦った、誰よりも勇ましく、誰よりも雄弁に、誰よりもねちっこく粘着した。




 結果、僅差でメロスは負けた。

 元々集団ストーカー対策集団のフォロワーは合計して14万人。いくらメロスひとりが粘着したところでたかが知れていた。

 こうして、メロスは泣く泣くフォロワー5.6万人のアカウントを集団ストーカー対策集団に明け渡し、集団ストーカー対策集団はイーロン・マスクに対する誹謗中傷を行ったとして処刑された。


 その後メロスは藪の中で虎となり通りかかった役人にクソリプを送る虎となったと言うが、それは別の物語である。

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働け、メロス 京葉知性 @keiyouchisei

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