第7話 デスアナルクエスト
「いいですか? 危険は一切ありませんが、油断はしないように。帰るまでがダンジョン探索です」
早朝。巨大な迷宮を模した建造物『ケカーン洞窟』の前に私たち1年生は集められていた。
ダンジョン探索はもっぱら冒険者たちの稼業であり、名家の出身が多い私たちには縁のない仕事だ。
だが、このケカーン洞窟では、死の危険がない難易度でモンスターを倒し、トラップを回避し、最深部の宝を目指して進むというダンジョン探索の真似ごとを体験することができる。
「それでは準備ができたら一人ずつそこのポータルからダンジョンに入っていきましょう。くれぐれも油断はしないように」
トリエ先生の号令で、一人ずつポータルからダンジョンに入っていく。
持ち物は冒険かばんが一つ。そして剣や槍、杖などの武器。かばんの中には、外部と通信ができる魔石や昼食用のパン、怪我をした時に使うポーションが入っている。
私もポータルをくぐり、ダンジョンへ突入した。ちなみにポータルはダンジョンのランダムな座標へ探索者を飛ばしてくれる。この機能で生徒たちが団子状態になって楽にダンジョン踏破してしまうのを防いでいるのだ。
中は意外と明るく、出現するモンスターはスライムやコウモリなどの弱いものばかりだった。
剣術も魔術も苦手な私でも、最奥の1つ手前の階までするすると下りられたのだから相当な接待ダンジョンに違いない。
「お、階段発見!」
すると、階下へ下りるための階段が見つかった。あとはここを下りてボスを倒せばダンジョンクリア――宝物を手に入れて帰還することができる。
階段を3段飛ばしでぴょんぴょん下りていると、魔石が震え始めた。トリエ先生からの通信だ。何かあったのだろうか?
「いいですかッ! この通信を聞いている人ッ! 絶対に最奥階まで下りてはなりませんよッ! なぜかあのドラゴンがッ! ダンジョン最奥に出現したとのことですッ! ここまでで最奥階に辿り着いた人は全員転移魔法で逃しましたが、私も魔力が尽きてしまいました……! ドラゴンはS級のモンスターですッ! 絶ッ対に! 最奥階まで下りてはなりませんッ!」
トリエ先生のヒステリックな声が響く。え、これってマズくない?
私はすぐさま踵を返して階段を駆け上ろうとした。
「グルルルル……」
唸り声。そして爛々と輝く2つの巨大な目が私を睨みつけていた。
「ど、どどど、ドラ……ドラゴンだァ――ッ!」
コッテコテのリアクションでそのまますっ転び、後頭部をしたたかに打ち付けた。目の端に星が舞う。
「ギャオース!!」
緑の鱗に尖った角。口元からは炎を撒き散らす。本物のドラゴンだ。
「ひぃぃぃ! お助けー!」
普段のお嬢様キャラはどこへやら。腰が抜けた私は必死で通路の曲がり角を右に折れる。ドラゴンも叫びながら追ってきた。
高層マンションほどはあろう大きさのドラゴンが足を踏み鳴らすたびにダンジョンが揺れ、天井からは石の破片が落ちてくる。
私は、ただダンジョンを走り回って逃げ続けるだけのか弱い女の子と化した。
いや、ちょっと待てよ。私には最強最悪の【デスアナル】があるじゃないか。
しかし、以前使った高速移動は逃げ回るには良いかもしれないが、この大きさのドラゴンには決定的なダメージを与えることはできないだろう。
いつの間にか私は、ドラゴンから逃げることからドラゴンを倒すことに思考をシフトさせていた。
「ボハァ――ッ!」
ドラゴンが炎のブレスを放つ。石の壁すら溶かす高温の息は、瞬く間に通路内の酸素を燃やし尽くしていく。
ブレスを吐き終わったドラゴンは、キョロキョロと辺りを見回している。私の姿が一瞬で消えたため、少し戸惑っているようだ。
しばらく逡巡した後、ドラゴンは興味を失ったのかそれとも腹でも減ったのか、くるりと振り返り、来た道をのしのしと戻り始めた。
そして、計算通り私が潜んでいる箇所にドラゴンが近づいた瞬間――
「今だッ!」
予め地面に広げて仕掛けておいた肛門――いわばアナルの罠、ワナルといったところか――を一気に収縮させる。
ガオン! という音ともに私の【デスアナル】が閉じ、ドラゴンの全身は肛門内に飲み込まれていった。
いくらS級モンスターのドラゴンといえど、私の【デスアナル】に飲み込まれてしまえばあっけないものだ。最強の竜族は、私の尻でその生涯を終えた。
「ふう……ま、こんなものかな……」
私は未だに熱気が残るダンジョンの最奥に眠る宝箱に手をかけた。ドラゴンが守っていた宝物。一体どんな物なんだろう。
[ここまでの冒険が最高の宝物だよ!]
宝箱の中にはそう書かれた紙切れが一枚入っていた。
「クソァ!!!!」
私の絶叫が誰もいないダンジョンにこだました。
チートスキル【デスアナル】で剣と魔法の学園を無双 不悪院 @fac
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