第7話 大団円
誘拐事件というのがあったにも関わらず、その事件は、別に営利誘拐ではなかったということだった。
「誘拐には、二つの動機が考えられる」
ということは桜井には分かっていた。
「一つは、身代金目的、そしてもう一つは復讐だった」
ということである。
桜井の両親が、なぜ手島一族に恨みを持ったのかということは分からなかったが、ただ、母親が、
「手島一族の家政婦をしていた」
ということは分かっていた。
その時に、強引だったのか、和解の上でのことだったのか?
もし、和解の上であれば、いくらかお金を積んでのことだったのだろう。
そこで、母親は懐妊した。
ただ、子供は父親の子供ではない。そこでムラムラときた母親は、後先を考えずに、
「復讐」
ということだけを思い、犯行に及んだということだった。
実行には、組織を使うことをしたのだった。
「どうせ死ぬんだから」
ということで、ここでも、母親の性格から、
「後先考えないところ」
で、この世に、自分が未練を残したくないということで、告白したのだった。
桜井は、根っからの
「ワル」
というわけではない。
ただ、母親の血を引いていることで、
「後先考えない」
というところがあった。
というよりも、
「考えてはいるのだが、結論を出す前に行動してしまう」
というところがあり、だから、このようないつも、最悪の結果が待っているという、
「スパイラル」
というものに落ち込んでしまったということだ。
ただ、これは、
「よく考えれば、俺は母さんの子供ではないんだ」
ということで、手島の両親が自分の親ということになり、どちらかが、
「焦って決めてしまう」
というところがあるのだろう。
父親であれば、今の会社をうまく切り盛りできるわけもなく、母親の性格からくるというものだろう。
俊太は、英才教育を受けてはきたが、本当は、桜井の母親の息子なのだ。
「後先考えない」
という性格が潜んでいることだろう。
桜井は、そのことも、遠回しであるが、話をした。
そうなると、手島一族も、
「俊太の時代になってくると、その勢力に陰りが生まれてきたのだった」
ということになるのだ。
「狂言誘拐」
というものを考えたのは、桜井の母親だった。
「後先考えない」
という性格が引き起こした事件であったが、
「表向きには、何もなかったかのような、まるで狐にでもつままれたかのような事件」
ということで、事なきを得ていたのだが、実際には、その事件は、
「これから始まる」
ということであり、
「復讐計画というものは、壮大だった」
ということになる。
それを、母親がなぜ、息子に告白しようとしたのか?
それはきっと、
「母親は、後先を考えない性格ではあったが、先を読むことができる」
という特殊能力のようなものを持っていたのかも知れない。
それを考えると、桜井は、俊太に対して、
「血のつながりはないが、兄弟のような意識がある」
と思うようになってきた。
育った環境が違っていて、
「どちらがよかったのか?」
などということが分かろうはずがない。
しかし、それ以上に、
「本当であれば、波風を立てるつもりもなかったのに、どうして、俊太に本当のことを言ってしまったのだろう?」
と考えてしまうのだった。
それは、
「何かの力が働いていて、自分は洗脳されているのではないか?」
ということを感じるようになってきた。
確かに。桜井は、
「母親から聞かされた時、自分が呪縛されているのではないか?」
という思いの中で聞いていた。
話を聞きながら、
「何かの力が働いている」
という意識をずっと持っていた。
そして、
「自分がこれからどうすればいいのか?」
ということを絶えず考えていたが、それは、
「結論がすぐに出ることではない」
と思っているにも関わらず、
「自分がすることは、決まっているのではないか?」
という結論めいたことは分かっていたような気がする。
「俺は、誰かの手のひらで踊らされていたのではないか?」
と思うと、それが洗脳であり、
「世の中には、洗脳というのが溢れている」
と考えるに至ったのだ。
「あの時の脅迫は、桜井だったのかどうか?」
それだけは、永遠の謎だったのだ。
( 完 )
洗脳の果てに 森本 晃次 @kakku
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