第6話 詐欺組織の殺人事件
詐欺組織には、
「詐欺はしても、人は殺さない」
という鉄則があった。
もし、殺人を行ってしまえば、いかなる理由であっても、即座にグループから抜けることになり、その人は、
「社会的に抹殺される」
ということで、下手をすれば、
「警察に捕まるよりも、たちが悪い」
ということである。
そもそも、犯罪者が警察に捕まると、そこでは、事実関係を明確にし、一つである、
「真実の究明」
というものが、当然のごとくということになるのだった。
つまりは、犯人が逮捕され、その裏付け捜査が行われることで、
「警察内部の真実が明らかになる」
ということで、検察が、容疑者を起訴することで、容疑者は、
「被告人」
ということになるのだ。
そして、今度は、裁判所に審議が持ち込まれ、そこで検察と弁護人の間で、真実が明らかにされ、
「裁判員と裁判官」
によって、判決が確定し、それが被告に対して宣告されることになる。
それまでに、検察側からの、求刑というものがあるが、それを経てのことになるのであった。
それが、
「犯人が逮捕されてから、刑が確定するまでの流れ」
ということであり、有罪で、執行猶予がつかなければ、そのまま、
「刑務に服す」
ということになるのだ。
しかし、世間というのは、それほど甘いものではない。
なるべく、犯罪者とはいえ、人権があるということで、警察が、その人が刑務に服したということであれば、
「過去に犯罪を犯した」
ということを軽々しくいうことは許されない。
それでも、どこかでそれが知れてしまうと、結果、その人は、
「その場にいることが許されない」
というようなことになってしまうということである。
それが、世の中の厳しさで、それだけ、
「世知辛い世の中になった」
ということなのだろう。
いや、これは今に始まったことではなく、昔からそうだった。
だから、手島一族が抱えている詐欺グループというのは、
「詐欺は犯しても、それ以外の犯罪はなるべく犯さない」
ということで、特に一番罪深い、
「殺人」
というものに関しては、相当に厳しい鉄則を決めておくということになっているのであった。
ここに一人の男性が、その鉄則を破るかのように、
「殺人事件というものを犯してしまった」
彼は、付き合っていた彼女が、借金を負ったのであるが、しかも、それが相手が悪く。
「悪徳金融」
に借りてしまったことで、身動きが取れなくされてしまったようだった。
「このままだと、私、風俗に売られてしまう」
といって、彼女は彼に泣きついた。
しかし、これは、本来であれば、
「彼女の甘さが生んだことであった」
というのは、彼女が使ったお金というのは、
「ホスト狂い」
というものであった。
女性が、
「ホストに狂う」
というのは、友達に誘われて気軽に行ったところで嵌ってしまった。
というのが多く、そのために借金を追ってしまい、それを払うために、
「自分から風俗に入店する」
というパターンが多い。
あるいは逆に、
「風俗嬢が、仲間の風俗嬢に連れていかれて嵌ってしまったことで、貢がされている」
ということも普通にあったりする。
どちらにしても、風俗に足を踏み入れてしまったことに変わりはないということになるだろう。
何も、
「風俗を非難しているわけではない:
むしろ、風俗というのは、
「癒しであり、お客さんにとっては、生きる糧になっている」
といってもいいだろう。
「素人童貞」
と言われる人も、いるように、そんな連中にとっては、本当に癒しだということになるであろう。
だが、彼女の場合は、本当に軽い気持ちで、友達に誘われて、嵌ってしまったのだ。
しかもその時には、彼氏がいたのだ。
本来なら、
「彼氏がいるのに、ホストに嵌ってしまうということが、許されないことなのに、彼はそれを許してはいた」
というのは、
「俺も人に自慢できるようなことをしているわけではない」
ということだった。
いくら、そこまでひどい詐欺をしているわけではないとはいえ、犯罪者であることに変わりはない。
その思いが強かった。
「だったら、そんな詐欺グループから抜ければいいじゃないか?」
ということになるのだろうが、
「組織としては、一番の罪悪は殺人」
ということであるが、その次というのは、
「脱退」
だったのだ。
これは、実は、詐欺行為を行っている祖である、手島の先祖というのが、
「新選組」
というものに、陶酔していた。
だから、
「あまりにも厳しい」
と言われるものを決めたのも、
「新選組の影響」
だったのである。
新選組では、副長である、
「土方歳三」
による、
「鬼の法度」
と言われるものがあり、それに基づいた鉄則が、決められていたのだ。
しかも、それを破った時は、
「すべてにおいて、切腹」
ということであった。
「武士道に背く行為」
あるいは、
「隊を脱すること」
あるいは、
「勝手な借金」
などというものは、すべてが御法度ということで、切腹の対象だったのだ。
最初の、
「武士道に背く」
というのは、かなり曖昧であるが、それだけに、隊士はいつもびくびくする形で、緊張感を持つことで、動乱の幕末をいく抜く力を持てたのかも知れない。
何といっても、土方歳三という男が、
「武士道」
というものに、かなり心酔していたからではないだろうか?
特に、戊辰戦争が始まってからというもの、
「敵に背を向けて逃げることは、敵前逃亡として許さない」
として、逃亡する兵を処刑したりもしたというのが、
「時代劇ドラマ」
などで、描かれているが、
普通であれば、
「敵前逃亡」
というものは、
「基本的に、重罰刑に値する」
というのが当たり前ということになっている。
「戦争放棄」
「平和国家」
と言われる、今の日本国においても、唯一、外国からは、
「軍隊」
として認識されている自衛隊であっても、
「敵前逃亡」
ということが発覚すれば、
「七年以下の懲役」
ということに、自衛隊法で決まっているという。
それだけ、災害救助などで、任務を怠ったり、出動命令に従わなければ、
「懲戒免職」
という、厳しい処断が待っているということであった。
それだけ、
「軍隊」
と目されているところは厳しいということである。
有事ともなれば、
「敵前逃亡」
というのは、結構厳しかったりする。
というのは、一番の理由としては、
「軍というのは、組織による団体行動であり、規律正しくない状態で、作戦を遂行すれば、ほぼ間違いなく失敗する」
しかも、
「兵が規律を失うと、総崩れになり、前線を突破され、本部自体が危なくなるからだ」
ということである。
「前線が盾になって、本部を守る」
というのが前線の役目であり、それを、
「ほとんどの兵は、ちゃんと規律が守れているのに、たった一人のために総崩れになり全滅などということになれば、大変だからである」
死んでいった兵も、浮かばれないといっても過言ではないだろう。
しかも、戦時においては、
「基本的に、降伏は許さない」
ということで、相手に投降することも許されなかったりする。
「そんな、気にしすぎる」
と言われるかも知れないが、それはあくまでも、
「戦争というものを知らない平和ボケの頭で考えた、お花畑的な発想だ」
ということになるだろう。
なぜかというと、
「投降すれば、捕虜になるわけである」
確かに、
「ジュネーブ条約(ジュネーブ協定とは別物)」
であったり、
「ハーグ陸戦協定」
などという、
「捕虜の扱いに関しての条約」
などが明記された国際法上の条約には、
「捕虜を迫害してはいけない」
ということになっているが、実際の戦争状態にあると、そんなことはいっていられない。
「戦争を早く終わら差なければ、被害がどんどん重なり、死者が増えていく」
ということになるのだ。
しかも、そもそも、
「戦争というのは、勝たなければいけない」
ということで、そのために、自軍の兵士であったり、非戦闘員が、死んでいっているのである。
その人たちのためにも、勝利を掴むしかないということで、
「敗戦となるくらいなら、最後の一兵になろうとも戦い続ける」
という覚悟のようなものがなければ、最初から戦争などできるわけはないということである。
そういう意味でも、大日本帝国における。
「戦陣訓」
と呼ばれる、
「虜囚の辱めを受けず」
ということで、
「捕虜になるくらいなら、自害する」
ということで、しかも、相手をなるべくたくさん巻き込んでの、手りゅう弾自殺というのもあったようだ。
基本的には、青酸カリが配られ、
「いよいよの時はこれを服用して」
ということになったのだ。
しかも、日本人は、アメリカ人を、
「鬼畜米英」
と教えられてきて、
「捕虜になれば、何をされるか分からない」
ということで、文字通り、
「どんな辱めを受けるか分からない」
ということであったのだ。
実際に、
「精神的に異常な状態に置かれている兵士の中に放り込まれると、人間らしさというものがまったくない状態に追い込まれ。何をされるか分からない」
ということになっただろう。
日本軍にも、アメリカ兵にも、他国の兵にも、同じことが言えたはずである。
それを考えると、
「捕虜になるということは、何をされるか分からない」
ということであり、普通に考えれば、将校や隊長のような立場であれば、
「拷問を受け、相手の内情を喋らされることになる」
と思うと、
「潔く自害をした方がいい」
と考えるのも、当然のことであろう。
そもそも、
「拷問を受けることに慣れてはいないだろう」
だからこその、戦陣訓であり、戦陣訓があることで、拷問を受けることを想定していないといってもいい。
そうなると、
「敵前逃亡」
というものも、
「投降する」
ということも、地獄でしかないのだ。
そもそも、
「敵前逃亡して、どこに行く」
というのだ。
今までの味方から逃れられても、それ以外のところには、そもそもの敵がいるのだ。そこに捕まれば捕虜となり、拷問を受けることになると思うと、
「進むも地獄。逃げるも地獄」
ということになる。
そうなると、
「軍人らしく、いや、帝国民らしく、潔く死ぬ」
という方を選ぶことだろう。
そんな時代においての、法度というものは、実に厳しいものだというのは当たり前のことである。
それと同じくらいに、手島家においての法度も厳しかった。
特に、参謀として、伊集院家に尽くしているという立場で、
「中途半端なことはできない」
ということである。
それを考えると、
「法度は、鉄則」
というものであり、守られることを大前提として、できなかった場合の罰則も、かなりのものにしておく必要がある。
ということになるのだった。
もちろん、日本は戦争状態という有事ではないが、あくまでも、
「命のやり取り」
というものはないが、
「生きていくうえでの厳しさ」
というものは存在するのであって、それも、かなり厳しいものである。
「明日は食べるものもない」
という状態にいつならないとも限らないということで、
「人は一人では生きていけない」
とも言われている。
だから、組織に所属して、生活できている以上、その組織の結束は守らなければいけないということになるのだ。
「今の、命のやり取りがない状態で、ギリギリの暮らしを余儀なくされることもある」
ということで、せめて、
「命を奪うということを鉄則にしているのは、当たり前だ」
ということであろう。
基本的には、
「無益な殺生」
ということであるが、それを拡大解釈をすると、
「人の命を奪わないといけないのであれば、他に解決方法もあるのではないか?」
ということからきているのであろう。
それも、
「戦地に兵隊として出ていけば、いつどこで命を落とすか分からない」
という状況であり、
「銃後」
ということで、兵にいかずに国内にとどまっていても、都市部においての、毎日のような空襲においては、
「いつ、頭の上に爆弾が降ってくるか分からない」
という状態では、普通の精神状態でいられるわけもない。
下手をすると、命を軽んじてしまうことが、当たり前で、命に対しての感覚がマヒしてしまっているということになると、当然のことながら、
「究極の精神状態」
といってもいいだろう。
だから、せめて、
「平時においては、命を奪う必要などない」
という発想から、このような法度ができたのであった。
今の日本国においての、
「お花畑的な平和ボケ」
ともいえる頭では、
「人間を殺害するということに対して。しょうがない」
と思っている人も多いかも知れない。
それは、自分の肉親を殺した人がいるとすれば、その人間に対しての、
「収まることのない復讐心」
というものを抑えてしまうと、
「自分が自分ではなくなってしまう」
という考えを持っている人がいるからであろう。
ただ、それも無理もないことで、今の日本では、仇討ちは許されていないが、人情的には、
「許されても仕方がない」
ということになるに違いない。
そんな状態において、起こった殺人事件であったが、犯人は、覚悟していたのだろう。
まったく偽装工作をすることもなく、相手を殺害することだけが目的で、その場から一度逃げたのだが、すぐに出頭してきた。
ほぼ、自首に近かったのだが、一度逃走しているだけに、自首とは認められないということであった。
それでも、情状酌量の余地はあるということで、執行猶予がついた。
というのも、被害者は即死ではなく、一度息を吹き返し、数日後に亡くなっていることから、適用されたのは、殺人罪ではなく、
「傷害致死」
ということであった。
そのため、判決は、執行猶予付きになったのだが、組織からは、懲戒免職扱いになり、職を追われることになった。
そして、その人にさらに不幸が襲ってきて、それから1年後にまた、犯罪に手を染めてしまった。
正当防衛に近かったのだが、その時は、自分が殺そうとしたのではなく、付き合っていた女が、どうやらその相手の男にストーキングを受けていて、悩んでいたので、彼女を助けたいという一心から、彼女のための犯罪だったのだ。
それを何とかしなければいけないと思い、彼女を黙って見はっているところで、男が不審な行動をしていたという。
そこで、尋問してみると、相手は面倒くさそうに逃げようとしたので、彼が怒って、その男と殴り合いになった。
相手は、近くにあった空瓶をたたき割ると、それを凶器にして襲い掛かってきた。
そこから先は、加害者である彼も、自分で覚えていないというほどに、精神的に錯乱していた。
相手の男はその場で死んだのだ。
彼はその時、伊集院グループの手島一族で、
「詐欺の片棒」
を担いでいたのだ。
いくら執行猶予がついたからといって、他の会社は、なかなかとってはくれない。
それも仕方のないことであり、伊集院グループの手島一族は、そんな彼が、
「傷害致死」
を犯したことは分かっていた。
本来なら、
「殺人は御法度」
なのだが、それは以前のことで、
「会社で業務中に犯した罪であれば、追放ということになるが、前の事件なら問題ない」
ということで、
「むしろ、うちの仕事をする覚悟があるのであれば、歓迎しよう」
といってくれたことで、
「では、お世話になります」
と言ったのだった。
罪の意識があって、なかなか社会が受け入れてくれないのも、仕方がないとは思っていたが、
「ここまでひどいとは」
という思いも次第に出てきた。
今では、
「罪の意識」
というよりも、自分に対しての酷さを考えると、社会に対しての不満や怒りの方が強くなっていた。
「詐欺? そんなもの、騙される方が悪いんだ」
というくらいに考えたのだ。
まだまだ、犯罪に染まっていない彼だったが、そんなことは彼にも分かっていた。だが、世間というものの理不尽さだけは、
「味わった者でなければ分からない」
と、いまさらのように感じていた。
だから、手島一族への入社を決めたのだった。
彼は名前を桜井という。
桜井は、そもそも、自分がどうして、
「こんな不幸な星の元に生まれたのか?」
ということをずっと考えていたが、その理由が最近分かっていた気がした。
それは、自分でもずっと知らないことであったが、彼の母親が、不治の病に罹り、医者からは、余命宣告を受けていた、
その時に、死の少し前くらいに聞かされたことが、彼には衝撃的であったが、彼には、
「言われてみれば」
という気持ちがあったのだ。
というのは、彼の今までの境遇を考えると、不思議だと思っていたことが、分かってきたからだ。
それはほとんど家族関係のことで、
「小学生の高学年くらいの頃から、父親となかなかうまくいかなくなっていた」
ということから始まった。
考え方が、合わないのだ。
性格的にも、
「受け入れられない」
というものがあり、何度、
「本当に自分の父親なのか?」
ということを思うようになってきたのであった。
確かに、そんなことを考えていると、
「そういえば、父親との確執の前から、いつも両親は喧嘩していたな」
と思うようになっていた。
今では、そんなことは日常茶飯事で、むしろ、
「それは当たり前のことだ」
というくらいに夫婦喧嘩に対しては、感覚がマヒしていたといってもいい。
要するに、
「すでに家庭は、崩壊の危機に来ていた」
といってもいい。
父親との確執がある以上。桜井に、
「父親を擁護する」
という気持ちは欠片もなかった。
「母親が大好きだ」
という気持ちがあったわけでもない。
それでも、
「父親よりもマシ」
ということで、両親の確執が決定的になったのが、中学に入った頃だったのだ。
「世間ではよくあることだ」
と言われ、二人は、離婚ということになった。
「どちらにつくか?」
ということになったが、そんなものは桜井にとって、いうまでもなかった。
「お母さんについていく」
ということだったのだ。
何とか、高校までは卒業することができ、そこから、就職することになったが、
「就職先で、人を殺してしまう」
という不幸に見舞われた。
母親は相当なショックだっただろう。
「執行猶予」
がついても、精神的には追い詰められていたようだ。
すぐに身体を壊し、入院した。
それを、
「ただの疲れから」
と思っていたが、実際には、
「不治の病」
に犯されていたのだった。
それを知った母親は、
「このままではダメだ」
ということで、桜井に対して、
「今まで秘密にしていたことがあって、これは墓場まで持っていこうと思っていたんだけど」
ということを最初に断ったうえで、話をした内容というのが、桜井にとっては、
「ショックなことではあったが、今までの疑問などが分かる」
ということであった。
というのは、
「自分が、両親の子ではない」
ということであった。
というのは、
「実は取り換えられた子供だった」
ということであった。
母親も最初は信じられなかった。
しかし、それが行われたのは、病院のベッドの中でのことで、
「実は、その頃、赤ん坊の取り換えを行うという組織があった」
というのだ。
それは、復讐の一環だということなのだが、その理由としてあったのが、
「父親が不倫をしていて、その清算をしたつもりだったのを、相手の女がどうしても、
「自分が捨てられた」
ということで、プライドがズタズタにされ、それでも、表向きは、
「円満に別れた」
というそぶりをしたのだという。
しかし、あとになってから、かなりの後悔が襲ってきたという。
そのせいで、彼女は、いつしかその組織を知り、彼らに、
「赤ん坊の取り換え」
というのを依頼したということだ。
復讐するには、ちょうどいいやり方だったのだ。
父親を殺すまでの気持ちはなかったという。
自分を捨てた男に、こちらが、
「殺人罪」
を負ってまで復讐するに値する男ではないということだ。
それに、それほどたくさんのお金がかかるわけではなかった。
父親からふんだくった慰謝料くらいで何とか依頼料は賄えた。
「それが高いのか安いのかは分からない」
ということであったが、精神的に後を引きずらないくらいの復讐はできそうだということであった。
だから、それを実行してもらった、
しかし、彼女はそれだけでは、復讐は完成しないと思っていた。
というのは、子供がある程度成長してから、女は、
「その子は自分の子だ」
と言い出した。
もちろん、そのことは男には言っていない。というのは、犯人の本当に復讐したかった相手が、母親だったからだ。
男に対しても、復讐心があった。
それは、赤ん坊を取り換え、家族をめちゃくちゃにしたということで、ある程度の留意が下がったからだ。
しかし、桜井は、
「母親は別にいるが、父親とは血のつながりがあった」
にも拘わらず、性格が合わなかった。
それだけ、父親が、
「自分から見ても、理不尽な男だった」
ということで、
「最悪な男だった」
ということになるのだろう。
そんなことを考えていると、桜井は、自分の境遇からか、
「子供が取り換えられた」
という相手であれば、分かるようになってきた。
少年の頃の桜井の特徴は、
「物心つく前から、相対することや正対することへの意識があった」
という思いであった。
その思いを持っている人が、手島グループには一人いた。それが、手島俊太だったのだ。
桜井は俊太のことが分かっているつもりでいたので、その時、
「こいつは、俺と同じ境遇なのかも知れないな」
と思った。
そこで、世間話の時、それとなく、
「昔の記憶で、正対するものとか相対するものを分かっていたりしなかったか?」
というと、俊太は、
「そうそう、そうだった」
というのだった。
この組織は、普段は、組織の長である手島俊太に対して、ため口でも構わないというところがあったので、実際に詐欺を行う時は、シビアだったが、普段は風通しがよかったのだ。それが、
「社員が辞めない」
という理由でもあったのだ。
桜井は、確信した。
しかし、それを俊太に告白するつもりはなかった。
それこそ、
「墓場まで持っていこう」
と思っていたからだ。
だが、母親が死んだことと、その後で、
「正当防衛には近い状態で、しかも、彼女を助ける」
という状況にあったにも関わらず、罪に問われ、しかも、会社を追われることになったことで、
「自業自得」
とは思ったが、
「墓場まで持っていくのは辞めておこう」
と思ったのだ。
そこで、桜井は、彼の親に脅迫めいた連絡をしたのだ。
何と、桜井は、
「俊太が、昔誘拐された」
ということを知っていたのだった。
それを聴いたのは、何と、俊太の口からだったという。
どこから俊太がそれを聴きつけたのか分からなかったが、俊太はなぜか知っていたということで、その時に、桜井はことの真相が分かった気がした。
つまり、
「取り換えられた相手というのが、俊太ではなかったか?」
ということであった。
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