天蓋花 - Halloween -
氷華 悠 - Yu Hyouga -
Halloween(2006年10月末に執筆)
「……??」
路頭に立ち尽くし、黒鳳蝶(くろあげは)は目をしばたかせる。
智汐(ちしお)から普段通り、お遣いを頼まれ街へ出ると――そこにはオレンジや赤、茶色等の鮮やかな色を着飾った、いつもとは違った光景が広がっていた。確かに、昨日までは平凡な街並みであったというのに。
首を傾げ店に近寄ると、大きなカボチャがいくつも並べられている。そのカボチャには、顔をイメージした穴が開けられていた。
「これは……なに???」
珍しそうにカボチャに触る黒鳳蝶に、いつも優しく声を掛けてくれる初老の女性が店から顔を覗かせ、言った。
「あら、黒ちゃんは≪ハロウィン≫を知らないの?」
「はろうぃん???」
*****
「智汐っ! 智汐ーーーーっ!!」
ドタバタと騒がしく、買い物から帰って来た黒鳳蝶が俺の元へやって来た。レポートの〆切が漸く終わり、ソファで仮眠を取っていた智汐はダルそうに起き上がる。
「そんなに大声出さなくても聞こえてるって……って何だ、その格好は」
出て行く時は確かに普通の着物にマフラー姿であった黒鳳蝶が、何故か今は奇妙な格好をしている。――西洋の魔女が被るような黒い帽子に、黒のローブ姿。そして片手には箒を携えながら。
「えー……っと……、Trick or treat!」
「……は?」
思わず間抜けな声を出してしまった智汐に再度、黒鳳蝶は必死で言う。
「Trick or treat!」
あぁ、そうか、と。寝て起きたばかりの智汐は、間を置いてから、漸く理解した。
「ハロウィンか」
「うんっ。店のおばちゃんが、『はろうぃん』には、こーゆーの来て、これ言うと良いって言ってた」
「あー……そうだな……、ちょっと待ってろ」
わかった!と言って、ソファにボスっと座る黒鳳蝶をおいて、智汐は気だるげに頭を掻きながら、台所へ向かった。
数時間して、漸く智汐はそこから出て来た。何かをしていた智汐に待ちくたびれ、黒鳳蝶は黒いソファに項垂れていた。が、その智汐が持って来たものを観ると、飛び起きた。
「パンプキンパイッ!」
「ハロウィンの意味、解ってないんだろー?」
苦笑しながら、智汐はパイを乗せた皿を机に置く。黒鳳蝶は目を輝かせ、うんっ、と答え、智汐を追って――寧ろパンプキンパイを追って、机にと着く。
「そっか……じゃ、黒鳳蝶は『Trick or treat!』の意味も知らなくて言ってたんだな」
「うん、おばちゃんが『言ってみてからのお楽しみよ』って」
家に材料や菓子等が何も無かったら言い損だったけどなぁ、と心の中で思いつつ、智汐は、またもや苦笑した。
「お前の世界では無いのか? ハロウィン」
「うん」
「(まぁ、普通は『自分が来た所が"地獄世界"』とか言ってる時点で、ハロウィンなんか無いよな……)」
「で、はろうぃん、って、何??」
行儀良く「いただきます」と言い、パンプキンパイを頬張りながら問う黒鳳蝶。
「まぁ――……、簡単に言うと前夜祭? この季節、日照りの時間が短いだろ。昔の人は悪い霊魂がこの時を待って、蘇って来るって信じてたんだ。だから、人間は黒鳳蝶がしているソレ――"仮装"をすることによって、家の周りを徘徊する悪霊を追っ払っていたんだよ。『Trick or treat!』は、悪霊を追っ払う為に仮装した子どもが、何かくれないといたずらしちゃうぞ~って、近所の人からお菓子を貰いに行く、そんな行事かな」
紅茶を飲み、一息吐くと、智汐は言った。
「へー……あっ! そういえば、店のおばちゃんが智汐にも仮装道具をね――」
そう言い、黒鳳蝶は買い物袋をゴソゴソと探る。
「はい」
――暫しの、沈黙。
「は?」
手渡されたのは黒い猫耳だった。唖然とした智汐から発せられた、本日二回目の間抜け声。
「……何で猫耳なんだ」
「おばちゃんが智汐の猫好きを考慮して」
きょとんとした表情で、即答する黒鳳蝶。
「いや、だからって……それに、俺が好きなのは耳じゃなくて――や、耳も勿論好きだけど、猫一匹丸々だ。ついでに普通さ、ハロウィンなら猫耳じゃなくて狼耳とかじゃないのか?」
「えー……だって“魔法使い"って言ったら家来が黒猫って、決まってる。こっちの世界の本で読んだ」
「えー…って……いや、だからそんな決めなくても……しかも家来って……」
最近は完璧、黒鳳蝶は自分のことを遊び相手だと認識してるな、と。苦笑しながら智汐は、ハロウィンの日のティータイムを過ごすのであった。
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