第3話 成長アイテム

 俺は木剣をアグリアに振るう。

 アグリアは軽々と俺の剣を受け流すが。俺は流された勢いを殺さずにくるりと体を回す。

 ガツン!!

 流れるように叩きこんだ一撃は、アグリアの木剣によって防がれてしまった。

 しかし、アグリアはにこりと微笑む。及第点は貰えたらしい。


「お見事です。たった一か月でここまで仕上がるとは……ルカ様には剣の才能があったようですね」

「いや、まだまだ子供お遊びだ。もっと、強くならないと……」


 アグリアに弟子入りしてから、早くも一か月が経った。

 その間に俺の体重はグッと減った。

 恐らく同年代の平均体重よりも少し重いくらい。脂肪が減って筋肉が付いたので、スッキリと痩せることができた。

 とても健康的な体を手に入れることができた。


 しかし、それでもシエルに勝つことはできていない。

 抵抗できるようにはなっているのだが、それでもシエルの方が力が強い。

 そもそも、一つ大きな問題が起きているのだ。


「その調子ですぞ!! シエル殿!! もうワンセット行きましょう!!」

「ふっ……分かった……!!」


 モジャスの奴がシエルの筋トレを手伝っていた。

 あの、モジャモジャ筋肉ダルマ!! 余計なことしやがって!!

 筋肉馬鹿のモジャスがシエルのトレーニングを手伝うせいで、シエルの力まで上がっている。

 なんとか俺の方が力の成長率が良いが、シエルも成長しているせいで、なかなか追い越せないでいた。


「アグリア、もう少しだけ付き合ってくれ。俺はもっと強くならないと駄目なんだ」

「ルカ様……お気持ちは分かりますが、焦ってはいけません。私の師が言っていました。『休息もまた修行なり』。強くなるためには休むことも必要です」

「……そうだな」


 アグリアはタオルを手に取ると、俺の汗をぬぐった。

 ……なぜか、アグリアは『はぁはぁ』と興奮したように息を荒げていた。

 ギラギラとした目で俺を見ている。その目は獲物を狙う肉食獣の目に似ていた。

 というか、毎晩のようにシエルが見せて来る目だった。


「だから、この後は私と一緒にお風呂に行きませんか!? 私がお背中をお流ししますから!!」

「嫌だよ!? なんか、最近のアグリア怖いもん!?」

「大丈夫です。なにもしませんから!! ちょっとだけですから!!」


 『ちょっとだけ』は完全になにかするつもりの奴のセリフでは?

 ここ最近、アグリアの様子がおかしい。

 俺の体重が減るのに比例して、目をギラギラと光らせ始めたのだ。


「最近のアグリアは様子がおかしいぞ!? 急に食事に誘ったり風呂に誘ったり、なにがしたいんだ!?」

「な、なんでもありませんよ? 別に『ルカ様って痩せたら可愛いし、侯爵家の嫡男だから将来性も抜群。理想の優良物件☆』なんて思ってませんよ?」

「……それは思ってる奴のセリフでは?」


 アグリアのような美人に狙われるのは、ぶっちゃけ嬉しい。

 だが、俺はシエルの件で学んだ。

 女性に手を出すときは、よく考えないと痛い目を見る!!

 そもそも、今はシエルの相手をするだけで精一杯なのだ。これ以上は無理。


「と、とりあえず今は強くなりたいんだ。修行が駄目なら、他に強くなる方法はないか?」

「他の方法ですか? 鍛錬を積み、よく休み……後は食事に気を付けるくらいでしょうか?」

「それだ!」


 食事と聞いて思い出した。

 ゲームではステータスを底上げできるアイテムがあったのだ。

 アレを食べることで、もっと強くなれるかもしれない。


「竜血草の類を食べるのはどうだ?」

「たしかに、竜血草は身体や魔力の成長を助けますが……」


 竜血草とは特殊な薬草類のことだ。

 食すことで身体を強化することができる。

 竜血草にも種類があり、筋力を鍛える物、魔力を鍛える物、感覚を鋭敏にする物などなど。多種の竜血草が確認されている。


 しかし、竜血草には問題がある。

 それ自体がとても希少で、人が育成できたこともないのだ。

 生えるのは人里離れた秘境の地だけで、一説では竜の血によってのみ成長すると言われている。


「竜血草はとても貴重です。買ってきたとしても、少量では効果も期待できません」

「ふふふ、それに関しては良い情報を入手している」


 にやりと笑みをこぼしてしまった。

 俺は原作ゲームをプレイ済み。その知識を活かせば、竜血草を手に入れることもできるのだ。


「ランフォード領の南に、山が連なっている場所があるだろう?」

「ええ、『ミストック山地』のことですよね?」

「そうだ。その山の中に、大量の竜血草が生えた場所があるらしい」

「あんな……霧だらけの山を探し回るのですか?」

 

 ミストック山地は、ゲームではおまけダンジョン的な扱いの場所だった。

 霧がかかった迷いやすいダンジョンで、クリアすると大量の竜血草が手に入るのだ。

 アグリアが言うように霧で迷いやすい場所だが、俺ならゲーム知識を活かして突破することができる。


「そこも俺なら楽勝だ。さっそく、冒険に行く準備をしないとな」

「……心配なので私も護衛として付いて行きます」

「ふっ、アグリアは心配性だな。あんな場所、簡単に攻略できるのに」


 ミストック山地は迷いやすいが、難易度の高いダンジョンではない。

 ルートを知り尽くしている俺なら、簡単なダンジョンだ。あっさりとクリアできる。


 ――それから三日後。


「迷ったぁぁぁぁ!?」


 真っ白な霧に、俺の叫び声が響いた。

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堕落した悪役貴族に転生した俺、なぜか未来の魔王様に溺愛されました こがれ @kogare771

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