記憶の断片

イオヲ@役者やってるよ

ネットミーム

ここ近年でとある噂が巷で話題になっている。


例えばこんな話がある“なにかに悩んでいたはずなのに、何に悩んでいたのか覚えていない”そんな奇妙なネットミームだ。それは次第にSNSの枠を超え朝のニュースや情報バラエティでも特集される特ダネへと変貌し日本中がこぞって取り上げるネタに変わった。


出演する経験者はいずれも「なにかに悩んでいた、だけど何に悩んでいたのかひとつも覚えていない」と言うのだ。


僕自身素人のシラケた演技には結構鼻が利く方だが今まで見た映像は全てまさしくリアル、つまるところ嘘偽りのない体験談ということになる。僕はそう言う、摩訶不思議オカルト的な情報にめっぽう強い。


研究者を語れるくらいには強い自信があるのだ。と豪語したのは良いとしてもあまりに情弱すぎる、調べが甘い訳ではけしてない、情報そのものが“何一つ”残っていないからだ。


これはある仮説を立てるとすれば経験者は全て“忘却の魔法”にかかっている。という物。


反吐が出るような仮説だ、魔法というのはオカルトを一気に現実味のないものに変貌させてしまうまるで意味の無い言葉。とまぁ茶番はこれまでとして考えた中で一番しっくりくるのは”集団記憶喪失“何らかの事情そこまではまだ分かっていないが唯一しっくりくるのはまさしくこれに違いない。


だとしてもなぜ?


引き金は?環境か?もしくは対人。もし誰か元凶がいるならテロなのではないか、無い頭をこねくり回して行き着く先は虚無だ。


悩ます小金井はおもむろに古びたパソコンを立ち上げ毎週欠かさず見ているオープンチャットに目をやった、そこには想定通りの会話で盛り上がりをみせていた。


「なんで誰も覚えてないの?」


「ただ、ど忘れしただけだろ、騒ぎすぎ」


「夢とかないんか?」


「集団記憶喪失で騒ぐとか、もっと夢ないと思うんだけど」とここぞとばかりに喧嘩も勃発。


一理あるのも確かだ。

だが”ただど忘れした“ってだけなら世間がこぞって騒ぎやしない、小金井はそう思っていた。


小金井はパソコンをそっと閉じ、独自に調べあげた被験者のプロフィールを流し目に見ていた、すると「ん?全員既婚者か交際相手がいた?でも待てよ、そんな情報どこにもないぞ」ゾッと胸騒ぎがした、今までに感じたことの無いくらいに背筋が凍りつく感覚を味わった。


これは大発見、慌てて溜め込んだ番組の録画調べるうちにひとつわかったことがあった。


それは被験者のいずれも交際していたであろう期間に明らかに妙な空白がある、そして極めつけは誰一人としてその相手の名前や思い出には触れることは無い、それどころか一切の記憶が無いといった様子。


「知らないのか?いや、記憶にないんだ、被験者は全員口を揃えて何に悩んでいたのか覚えてないって言ってる、つまり得体の知れない何かが相手との存在?いや、記憶自体今までの関係性をリセットした?待て待て落ち着け、本当にそんな事が可能なのか・・・?」着実に真相に近づいているように感じるだがあと一歩足元が浮つく気がしてならない。


現状では自分が1番嫌っている仮説になってしまう。


小金井は1呼吸置いた、数分間何も考えずただ呼吸をした、冷静に落ち着いた頭で今まで立ててきた仮説をとっぱらい改め推理すると“消えている記憶は全てでは無い、あくまで部分的でありその一部は大切だった人”という結論に至った。


後にわかった事だ、被験者は計6名、共通して全員とも大切だった人が悲惨な死を遂げているということ。


記憶に留めてくには辛い、そう思い“1片”も残さない忘却という手段を選択した。


記憶が消えた年日はてんでばらばら一貫性は無い。なら記憶をなくした場所は?可能性があるとしたらここしかない。その瞬間小金井は考えるよりも先に体が動いていた。


6人とも全員が記憶をなくしたであろうタイミングその場所は古びたオモイカネの神を祀る寺院だった。


なんでも記憶にまつわる神らしいのだが神頼みが成就した、そう結論づけられないことも無い。


忌まわしい記憶だったのかどうかそれは赤の他人である小金井には断言が出来ないし分かるはずもない。


だが本来あるべき幸せを保つための最終手段だったのかもしれない。そう片付けることにし小金井はそっと事件ファイルに閉じ戸棚の奥の方、明日には忘れてしまうだろう場所にしまうことにした。

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