第16話 ベイノス
あれからまた月日が経った。
ある日、シドが狩りから戻って来ると、背中に黒い毛並みの魔物を乗せて帰って来た。大きさはシドよりも少し小さい位の魔物だ。
シドは狩った魔物や獣は、首に掛けた収納袋に入れる事が出来るから、もしかしてまだ生きている魔物を連れて帰ったの?
「『
え?!シドと同じ種類の『ベイノス』だ!!初めて見たよ!!でも、シドの背中でぐったりして動かない。シドも背中の子がいるから敷地内に入って来られず、柵の外で待っていた。
「シド、その子と一緒に入っておいで!」
「グルゥゥゥ……」
直ぐにシドが駆け寄り、僕に顔を寄せてジッと目を見てくる。シドが僕にお願いをする時の合図だ。
分かったよ、ちょっと待ってね。
「『
名前 なし(ベイノス)
性別 雌
年齢 8才
状態 瀕死(骨折、裂傷、貧血、強制隷属中(ノーランド))
「っっ!!『ヒール』…『ヒール』…『ヒール』!『
ずいぶん酷い怪我をしてた……。他の魔物にやられたのかな?怪我は治せたけど、たくさん血を失っていたみたいで、まだ目を覚まさない。それに強制隷属って……ノーランドって人がやった事なのか?
「………シド、この子の怪我は治せたよ。だけどまだ安静……家でジッとしていた方が良いんだ。そのまま家に連れて行ってあげて?」
「グルッ!!」
シドと一緒に家に戻って、急いでリビングに寝床を作る。そしてシドの背中からゆっくり下ろして、ベイノスの女の子を寝かせてあげた。
シドに比べて痩せてるな……。足も細いし、肋骨が浮いてる。狩りが上手く出来なかったのかな?
「『
治療は出来たけど、あとは休んでご飯を食べてもらわないと魔法だけじゃ元気になれない。
シドが心配して顔を舐めている。この調子だと、今晩はこの子に付きっ切りだろうね。シドの寝床も移動しておこう。
◇ ◇ ◇
翌朝、ガタガタとリビングから大きな音がした。それに威嚇する鳴き声が重なる。
シドの声じゃないから、あの子が目を覚ましたのかな?シドが一緒だから大丈夫だと思うけど様子を見にいこう。
リビングに入ると、寝床の上で耳をペタンコに伏せた子が、立っているシドに向けて威嚇を繰り返していた。
体格でも体力でもシドには敵わないから、あれは威嚇って言うより必死の虚勢かな?
さてと、あの子はシドに任せて僕は朝ごはんの用意をしよう。きっとあの子もお腹が減ってるはずだからね!
この前シドと一緒に狩りへ行った時に群れで仕留めた
「はい、シドとその子の朝ごはんだよ。血をたくさん流していたから、君はレバーもちゃんと食べるんだよ?」
「シャッーー!!」
ふふ!僕にも威嚇を始めたよ。
でも今は無理をしないでご飯を食べてね?
シドの前にご飯を乗せたお皿を2つ置いて、僕は離れた。ここはシドに任せた方がいいね。
シドは鼻面でお皿をあの子の前に出してから自分の分をガツガツと食べ始める。真似して君もしっかり食べな。
だけど、あの子はビクビクと上目遣いでシドと僕を交互に見てる。
そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。
良い匂いでしょ?我慢せずに食べてごらん。
ご飯の匂いを嗅いで食べたそうにしてるのに、中々口をつけないね。シドがどこから連れて来たのか知らないけど、あの子にとってここは初めて来た家だし、緊張と警戒が解けないんだろう。
「………ゆっくりでいいよ。君のペースで食べな。ん!シドはもうおかわりだね!そう言えば、昨日の夜ご飯は、あの子が気になってあまり食べてなかったもんね!」
「グルゥ!!」
シドにおかわりのお肉を上げると、そのお肉の1つをあの子のお皿に咥えて乗せて上げてる。
甲斐甲斐しいねぇ〜シド!その子のことが好きなのかな?
僕は僕でテーブルについて朝ごはん中だ。
ニヨニヨと、シドとベイノスの女の子の様子を見てる。
あの子に掛けられた強制隷属は解除した。もし『ノーランド』って人が連れ戻しに来ても、絶対に返さない。
例え相手が魔物だとしても、強制的に従える様な方法、僕は許せないよ。
シドが3回目のおかわりを食べ終わる頃、やっとあの子もご飯に口をつけてくれた。
一度食べ始めると、あの子はシドより早食いで、あっと言う間に完食していたよ。おかわりを出して上げると、それも直ぐに食べ始めた。
よっぽどお腹が空いていたんだろうね。
ここに一緒にいたら、シドに狩りを教えてもらえるよ。
良かったら一緒に住まない?
僕の家と猫 いずいし @isuzu15
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