第14話 まさかの展開と戸惑い

「夏休みだぁー!!!」


 太陽達の追試から1週間後、終業式を終え学生達にとって嬉しい夏休みを迎えていた。


「補講もないし、最高の夏休みだぜ」

「誰のおかげで苦労したと思ってるんだ」


 1週間前、先生の厚意によって補講回避のための追試が行われ、赤点を取ってしまった太陽と桜は大海と桜の力を借り1週間の猛勉強の末、追試を突破していた。


 あの時の太陽からは感謝が溢れていたが、1週間経った今はすっかり忘れ、今まで通りの太陽に戻っていた。

 薄情なやつめ…と太陽に恨めしい視線を送った。


「本格的にどこに行くか決めないとなぁー」

「言い出しっぺのお前が決めろよ?」

「夏だし、海とかあるところに行きたいよなぁ」


 大海達の住む神奈川県にも海があるのだが、せっかくの旅行だから、と神奈川を飛び出しどこか地方へ行く事は決まっていた。


「なんかお前もいい案ないか?」

「あまり、遠すぎると面倒くさい」

「旅行で遠くに行かなくてどうするんだよ」


 極度にインドアな大海はアウトドアな太陽とは真反対の考えをしていた。

 しかし、せっかくだから行ったことのない場所に、という考えが分からない訳では無いため一応は考えてみる事にした。


「まぁ、なんかいい案あったら連絡してくれよ」

「思いつけばな」


 じゃあな、と手を挙げ太陽と別れ自宅へと帰って行った。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ーーという事なんだけど何かいい案無い?」


 夕飯を食べ終わり、まったりしている泉に尋ねた。


「んー…わたしも別にこれと言って行きたい場所は無いかなぁ…」


 泉もどちらかというと大海と同じよようにインドアなようで、特別どこに行きたいというものが無いようだった。


 どうしたものか、と考えていると着信音が鳴り響いた。

 スマホの画面には見慣れた名前が出ていた。

 大海の母親、水瀬 氷織ひおり。彼女からの電話であった。


『もしもし、大海?』

「なんだよ」

『テストの結果見たわよ!頑張ってるじゃない!』

「約束だからな」


 テストの話をする為だけに電話をかけた訳ではないだろう。恐らく、実家に帰ってこいだとかそういった話しだろう。


『ところでなんだけど、明日あんたの家に行くから』

「は!?明日!?聞いてないよそんなの!」

『今言ったんだから当たり前でしょー。それじゃあねぇー』


 おい、と言ったところで電話は切れた。一方的に話して一方的に電話を終わらせた母に大海は呆気に取られていた。


「もしかして、大海くんのお母さんから?」


 電話の様子を見ていた泉にも電話の声は聞こえていたらしく、電話の相手はバレていた。


「そう、明日家に来るらしいんだ。だから明日は来なくても大丈夫だよ」

「そう…ご挨拶はしなくていい?」


 何を考えているのか泉は悪そうな顔をして言った。


「いや、そんな事したら母さんに何されるかわかったもんじゃないよ」

「冗談よ。それじゃあ、バレないように今日はエプロンとかはしっかり持って帰った方が良さそうね」


 前回、太陽にバレた反省が活かされ泉の私物をしっかりと持って帰ることにした。

 万が一にもバレることはないとは思うが、バレた際の言い訳も考えておかねばと大海は頭を抱えていた。



「大海くんのお母さんってどんな人なの?」

 

 なんでそんなことを聞いてくるんだ、と多少疑だが、ご飯を作りに行く同級生の親くらい知っておきたいものなのか。


「普通の母親だよ。どこにでもいる少し口うるさい母親だよ」

「そう…」


 泉の顔をふと覗くと、寂しそうな表情を浮かべていた。

 泉の家庭は両親共に忙しく家に帰ってくるのが遅く、寂しい思いをしていた事を思い出した。


「うちも、忙しくてなかなかお家に帰って来れないこと以外はどこにでもいる普通の両親なんだけどな…」


 そう話す泉の顔は、さらに寂しそうな表情になり、その瞳にはうっすら涙すら浮かんでいるように映った。


(そんな寂しそうな顔をしないでくれ)


 そんな彼女の表情を見ると何故か胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えた。


「それなら、もっと家に来てもいいよ…もちろん、泉が良ければだけど…」


 大海なりの精一杯の勇気を振り絞りった言葉だったが、面と向かって言う度胸までは持ち合わせてはいないため、そっぽを向き言い放つことしか出来なかった。


「ありがとう」


 そう呟いた彼女の声色はどこか安堵したかのように聴こえ、視線を彼女に戻すと、先程までの寂しさが消え優しい笑顔を浮かべていた。


「これからはもっと居させてもらおうかな」

「こんな家ならいくらでも居てくれていいよ」


 2人は笑顔で向き合っていた。


「……早速だけど、今日もう少し居てもいい?」


 いきなりの要望に少し戸惑ったが、朝一に母親が来るはずは無いし、何より家に帰るだろうと泉の要望を呑むことにした。


「それじゃあ、何かする?」

「こないだ出来なかったゲームしたいかも…」

「じゃあ、今日はレースゲームしようか」

 

 ゲームの操作を一通り教えたあとはCPUと対戦を始めた。

 この手のゲームのあるあるなのか、操作する泉の体は曲がるのと同じ方向に傾いていた。


「か、体はそのまま真っ直ぐでいいんだよ…」

「わ、わかってるよ!」


 吹き出しそうになるのを抑えながら教える大海に、自分でも制御出来ずに体が傾く泉は少し拗ねたように言った。




「そろそろ対戦してみよ!」


 30分ほどCPUと対戦した後、大海に対戦を挑んできた。

 やるか、と対戦を始めたが先程始めたばかりの泉が大海に勝てるはずもなく、幾度となく挑んでは負けてを繰り返した。


「勝てない…」

「そりゃあ僕の方がやってるからね」


 納得いかない、と少し不機嫌になる彼女は大海に負けず劣らずの、負けず嫌いな性格をしていた。


 その後何度か対戦を続けていると、不意に大海の肩に重みが生じた。

 また体が傾いたのか、と視線を横にやると瞳を閉じた泉の姿があった。


(なんで??)


 つい先程までゲームをしていたはずの泉が自分の肩にもたれかかり寝ている姿に困惑を隠せなかった。



 時刻は夜中の1時を回っており、急に電源が切れたかのように寝落ちした泉をどうしたものか、と頭を悩ましていたが、このままでいる訳にもいかず、体を揺らしたり、声をかけたりしてみたが起きる気配は無い。


 仕方なく、寝室に連れて行く事にしたが、同級生のそれも女子に触れてもいいものかと思うところがあった。

 しかし、これ以外にもう方法は無いため意を決して、泉の膝裏と背中を支え、抱きかかえた。


 女子ってこんなに細くて柔らかいんだ…と思った大海は、もう少し泉に触れていたい、という邪な考えを何とか振り払った。


「疲れた…」


 抱きかかえた泉は羽のように軽かったが、精神的に疲れきった大海はぐったりとソファに寝転びそのまま眠りについた。



 翌朝、部屋に鳴り響くインターホンと共に目が覚めた大海はまさかの事態に陥ったことをすぐさま理解した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ボーイッシュな彼女が尽くしてきます 和泉和琴 @wato-izumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画