第13話 補講を回避せよ
廊下では、一喜一憂する生徒達の声で溢れていた。
テストから1週間が経った今日、上位50位までの順位表が張り出されていた。
「お前やるなぁ」
「まぁ、復習はしてたしこれくらいだろ」
「反応薄いなぁ…喜べよ」
大海の順位は18位だった。普段復習を欠かさない事もあり、予想していたより点数が伸びこの順位に入ることが出来た。
太陽には冷めた態度を取っていたが内心では安堵と歓喜に溢れていた。
「雪乃さんは流石だよな…」
「たしかに、凄いな」
泉の名前は上位3番目にあり、流石というほかなかった。
傍から見ると、全てが完璧に見えるであろう彼女だが、そのイメージを崩さないためか努力を欠かさずにいることを知っている。
元々要領がよく器用な部分も多少あるだろうが、それにかまけて努力を怠ることをしないのが彼女の一番優れている所だろう。
泉の上辺だけを見て本質を見ようとしない、人間には彼女がどのような努力をして今の彼女を保っているのか到底分からないだろう。
騒がしい廊下から聞こえてきた、雪乃さんは完璧だな、という声に不快感を感じながら大海は思った。
「そんなことより、お前は何位だったんだ?」
「…160位」
1学年300人いるこの学校での順位という事で多少、太陽の学力が伺えるだろう。
「……赤点の数は?」
「数学1つと英語…」
「夏休みどうすんだよ…」
30点未満が赤点となるこの高校では赤点を取ると夏休みに補講が行われるため、大海達が計画していた旅行へ行けない事になる。
一番楽しみにしており、一番落ち込んでいるのは太陽本人だろう。落ち込み方が尋常では無かった。
「先生に真剣に頼んでみよう。もしかしたら何とかしてくれるかもしれないだろ?僕も一緒に頼むから」
「すまねぇ…」
太陽と大海は放課後すぐに職員室へと向かい職員室のドアを開けると、泉とこの世の終わりのような顔をした桜が居た。
「どうしたの?2人とも」
「わたし、赤点取っちゃって…補講が何とかならないか聞きに来たの…」
聞くところによると、桜も太陽と同じ数学と英語が赤点だったらしく、大海達と同じようにどうにかならないかと頼み込みに来ていた。
「どうにかならないかって言われてもなぁ…この学校の決まりだからな」
「そこをなんとか頼みます!」
普段の2人と違い真剣に頭を下げ頼み込む姿に、先生は驚いた表情を浮かべていた。
「普段からそのくらい真剣に授業を受けてくれればいいんだがな…」
「先生、僕からもお願いします」
「わたしからもお願いします」
大人しく、授業態度も真面目、今回の成績も優秀だった所謂、優等生の2人が頭を下げた事が決定打となったのか特別に補講ではなく、1週間後追試を行い、60点以上を取る事が出来れば補講を免除してくれることになった。
「あくまでこれは特別措置みたいなものだ。60点未満だった場合は大人しく補講を受けてもらうぞ」
『は、はい!がんばります!』
「2人とも、一緒に頭を下げてくれた水瀬と雪乃に感謝するように」
やれやれ、と頭をかく先生に4人で頭を下げ職員室を出た。
「大海も雪乃さんもありがとう!」
「わたしも!泉に大海くんありがとう!」
大海としては2人が今回のテストに向けて少なからず努力をしていたことを知っていたため、頭を一緒に下げただけだった。なにより、旅行を楽しみにしており、それにはこの2人が欠かせないと考えていた。
「いいよ。このくらい、それより2人とも今回の数学と英語は何点だったの…?」
「おれは、20点と28点」
「わたしは、25点と12点」
あと一週間で40点ずつの点数アップは絶望的かもしれないと頭を抱えたが、チャンスを貰ったからにはやるだけやるしかない、と1週間毎日大海の家での勉強会を行うことにした。
数学は満点だった泉が、英語は負担を避けるために大海が教えることにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よし、太陽お前英語何が分からないんだ?」
「単語、文法だ!」
「全部じゃねぇか!!」
「そんなことは無い、穴埋めと記号は合ってたぞ」
そんなことを誇らないでくれ、と目眩がしたが何としてもみんなで旅行に行くため、とにかく全力ですることにした。
「いいか、恐らく先生は2人の為だけに新しいテストを作ることはしないはずだ。したとしても少し文章変える程度だろ。それを見越して、今回のテストの傾向を覚えるんだ」
「そんなことでいいのか?もう少し全体的にした方が…」
それは普段勉強しているやつが言う事だ、と少しピキっと来たが今は我慢する時だと深呼吸をした。
泉の方を見ると、丁寧に公式を教えていた。
教えられている桜は太陽とは違い、余裕が無いこともあるだろうが素直に従い一生懸命にしていた。
結局、初日は夜中の1時まで大海の家で勉強をしそのまま学校へと行った。
途中、泉が手料理を振る舞い2人は感動しながら食べていた。
2日目、3日目と付きっきりで教えた結果、2人は今回のテストなら何とか60点を越えるようになっていた。
4日目からは、少し方針を変えテスト意外に先生が出てきそうな所を予想し勉強をする事にした。
2人は新しく勉強し出した部分もすんなりと理解する事が出来ていた。
これは、2人が最初に比べ要領を得た事もあるが、何より付きっきりで2人に教えている大海と泉が段々教えるコツを掴み効率よく教えられるようになっていたからだった。
恐らく、桜と太陽の人生で1番勉強をしたであろう1週間が経ち追試の日が訪れた。
「今日の放課後だったか?」
「そうだ…これで60点より下だったら補講だ…」
寝不足からか、最悪の事態が頭を駆け巡っているからか、太陽の顔色は最悪だった。
チラッと桜の方に視線をやると桜も同様に顔色は悪く泉が何やら声をかけていた。
「まぁ、今日までやるだけやったし何とかなるだろ」
「そうだといいけど…」
最初から勉強しとけばこうはならなかっただろうが、この一週間は間違いなく何よりも努力した2人を目にそんな言葉は大海の頭には浮かばず、頭の中にあるのは、ただただ2人が追試をパス出来て欲しいという思いだけだ。
「始め!」
放課後、先生の合図で2人だけの追試が始まった。
桜と太陽は不正防止のため、別の教室に移動しており、大海と泉は全員帰り静まり返った教室で結果を待っていた。
祈るように手を合わせ俯く大海は自分のテストでないにも関わらず心臓の鼓動が早くなっていた。
2時間後、追試を終えた桜と太陽が戻ってきた。
その顔は疲れからか、少し暗く映り追試の出来を聞くことが出来なかった。
沈黙で30分ほど経った頃教室に追試結果を持った先生が入ってきた。
「空野、春原、追試の結果だが…」
2人は頼むと拝むようにで待っていた。
「2人とも60点以上だ。よく頑張ったな。約束通り夏休みの補講は無しだ。」
先生は微笑みながら2人の努力を称え、テストを手渡しし教室を出ていった。
「やったー!!!!!」
「よかったよ…」
大喜びする太陽とは対照的に桜は喜びからか安堵からか涙して喜んでいた。
「やったぞ!大海!!!」
「よかったな。まぁ、この一週間頑張ったから当然だな」
素直になるのは小っ恥ずかしく少し捻くれて答えた大海は、太陽と満面の笑みでハイタッチした。
「よかったぁー…いずみぃー…」
「頑張ったね…桜」
桜は泣きながら泉の胸に顔をうずめて泣いていた。
「迷惑かけたけど、これで夏休み行けるな!」
太陽がまとめるように言い、お前が言うな、とツッコミを入れたが、4人とも楽しみにしていた旅行に行けることになり、その顔には笑顔が溢れていた。
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